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しがない悪役令嬢ですが今度こそは幸せになりたい ~義妹に立場を奪われた私、死に戻ったので精霊使いとして生きようと思います  作者: 奏多


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47:パーティーの後で不穏の影

「やはり人間、生きていくためにはお金が必要で、稼げなくなると他の業種に移るしかありませんでな。すたれていくのも世の流れと思っておりましたが、どうしても精霊使いでなければ解決できないこともありまして」


 精霊使いでなければ解決できないことというと……。


「クロトの病気のことですか?」


 大神官様がうなずく。


「魔力過多による物は、意外と神聖力でなんとかなるのですがの。神聖力過多はそうもいきませんので。そもそも、ここまでしっかりと治せる精霊使いも、意外と少ないものなのですよ」


「そうなんですか?」


 私はおどろく。

 だって精霊使いなら、天の鳥を飛び立たせることができるはずなのに、と。

 でも大神官様は首を横に振った。


「意外と、人の町の側にしか生えない魔花しか転化できない精霊使いも多かったのです。あの《天の鳥》も、一部の精霊使いしか転化まではできず、力ある精霊使いを呼べる王侯貴族以外は、精霊がいなくなった花を葬儀に供え、庶民は似た花を墓地に植えていたのですよ」


「えええ」


 まさかそんな風だったとは。

 図鑑にはその当時の風潮については説明なんて書かれていないし、話してくれる人もいなかったから全く知らなかった。

 本当に一般的な知識として、あれが葬儀の花だと呼ばれていることを聞いていて、図鑑にもそう書かれていたから、精霊使いはみんな、天の鳥の花を転化できるんだとばかり思っていたので。


(でも、葬儀用の花って言われる理由がよりわかった気がする。天の鳥を見たことがなければなおさら、不幸がある時にしか使わない花なのに、って意見になってしまうのかも)


「最近は王家の葬儀でも《天の鳥》を使わなくなって、貴族も実物は見たことがない者ばかりです」


「あ、でもなんで男爵夫人はすぐに葬儀用の花だってわかったのかな?」


 話を聞いていたクロトが首をかしげる。

 あの場にいたので、クロトも男爵夫人がすぐに葬儀用の花だ! と怒っていたのを見ていたのだ。

 知らない花だったら、そんな言葉は出て来ないので疑問に思ったんだろう。


 大神官は「ふぉふぉふぉ」と笑って教えてくれた。


「葬儀にお金をかけられない、かけたくない貴族の中には、本当によく似た造花を使うことが主流になっておりましてな。だから精霊花の姿そのものは知っている者がいるんですな」

 

「なるほど造花ですか」


 それなら一目見てわかったのも理解できる。

 あと、造花を使っていても特に魔物化しないとわかれば、金銭面でも造花でいいかとなってしまったんだろう。


「色々教えていただきありがとうございます」


 私がそう言うと、大神官様がにこにことする。


「いえいえ、神殿の方が力を借りることもあるでしょうから。精霊使いでなければ治せぬ病や呪いは、まだほかにありますからな」


 そう言って、大神官様は一礼して去って行った。


「病や呪い……そういえば、神聖力過多以外の病気ってどうしているんだろう」


 発生していないか、希少病なのか。

 首をかしげつつ、私は笑いさざめく人達の様子を見る。


 クロトがはしゃぎすぎないようにか、ダンスなどはないけど、楽団が呼ばれて音楽もあり、神官達が祝歌を歌ってくれたり、にぎやかで見ているだけで楽しい。


 そしてパーティーというには早い時間に終わった後、私はレーン伯爵家の馬車で帰ることになった。


 さすがにルディアス様はお客様の接待で忙しく、同行はできなかったけれど、伯爵家の兵士が二人もついてきてくれた。


 そうして家に入った私は、息を飲む。

 さっと、沈むような空気を感じた。

 やや冷たく凝ったようなこの感じは……。


「魔力?」


 すぐさま思い出したのは、あの魔花の種のことだ。

 植木鉢を置いている作業場へ行くと、中には濃い魔力が充満している。


 そしてテーブルの中央に置いた植木鉢は、ほぼ見えなくなっていた。

 無数の糸のような茎が伸び、その先に手のような形の黒い葉がついている。

 中央には黒と銀の糸が絡まった球状の物がある。


 あまりにも、異様な魔花だ。


 思わず観察してしまったが、ふと嫌な予感がしてポケットに入れておいた精霊花の杖を取り出した。


 その直後、葉がわさわさと私の方に伸びてくる。

 杖で払いのけた瞬間、杖の先の方が黒く染まった。


「あっ」


 これはまずい。

 一度私はその場を離れ、部屋を出たら対策ができる物を採りに行く。


 走っている途中、少し息が辛い気がした。

 その時ふと思い出したのは、大神官様の言葉だ。 



 ――精霊使いでなければ治せぬ病や呪い。


 大神官様がそう言っていた。

 魔花にはそういうものがあるけど、精霊使いでなければ治せないとなると、私が知らない物だろう。


 たとえば今見たばかりの、あの魔花みたいなもののような。


「でも精霊使いなら、できるはず」


 ただ普通にぶつかってどうにかなるとは思えない。

 資材置き場になっている部屋から、バケツで水晶のさざれを持ち出す。

 幸い、大物が来た時にこれが欲しかったことを思い出して、ダントン商会に調達してもらったばかりだったのだ。


 あと、別の部屋に置いていたとっておきの精霊花を、バケツの上に置いた。

 これは精霊が花として咲き続けるタイプのもので、魔花を持ち込んだ時に、これがあるだけで周囲の魔力を打ち消してくれる。


 あとは、ルディアス様にもらっていた聖塩。

 小袋に入ったそれをありったけポケットに詰めて、いざ作業場へ。


 魔花は変わりなくそこにいたけれど、私が来ると、今度はすぐにざわざわと動き始めた。


「獲物が戻って来たと思っているのね、そうはいかないわ」


 私は精霊花を持ち上げて、バケツの中の水晶を部屋の入口からぶちまけた。

 それだけでも、魔花はびっくりしたように手のような葉を引っ込ませる。

 おかげで安全に部屋の中に入れる場所ができた。

 水晶が散らばっている範囲は、踏み込んでも大丈夫だ。


「次に剪定」


 聖塩を袋から出して投げつける。

 伸びた葉や茎は、塩に当たった場所が、じゅっと焼けた石に水がかかったような音を立てて焦げて落ちる。


「ちゃんと効くみたい。良かった」


 ほっとしつつ、聖塩を惜しみなく使って、魔花の葉を半分以下に減らした。

 それから、持ってきた精霊花を新しい杖に変える。


 貴重な精霊花だけど、出し惜しみをすると危険だ。そんな気がしていた。


「これだけ強い魔花、見たことない」


 魔花採取にルディアス様と何度か出かけたけれど、その時もここまで強い魔花はなかった。


「出て来た魔物をルディアス様が倒してくれたけど、その魔物よりずっと強いかもしれない」


 これだけ魔力を放出しているのだから、魔力量は相当な物のはず。

 外にあったら、近くの魔物を沢山呼び寄せていただろう。


「でも、元は私の血を栄養にしているから……」


 魔力を奪うことはできるし、弱体化させられれば転化はできるはず。


「種の出自も気になるし、魔花をばらまこうとしている犯罪の可能性もあって証拠はとっておきたいけど……放置したままでは危険すぎる」


 私は精霊花の杖を構えて魔花に向かっていく。

 魔花が杖に巻き付いたら、逆に魔力を奪った。


 なんだか嫌なことをされると気づいた魔花が、私から離れるけど、もう遅い。


「目を覚ましなさい!」


 私は魔花の葉の出発点に、長く伸ばした杖を突き刺した。

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