46:パーティーは穏やかに
パーティーに出席するのは、緊張する。
なにせ私、今は家名なんて名乗れない立場で。
平民として紹介するのだとしたら、ちょっと肩身が狭い。
「あの、本当に私がレーン伯爵家のパーティーに出席して良かったんでしょうか」
馬車から降りる時になって、そんな言葉が出て来てしまった。
クロトの回復をお祝いしたいけど、それは後日個人的に行ってもいいのではという考えが浮かぶ。
みんなに祝福されて、笑顔になっているクロトを見たいのはやまやまだけど。
しかしルディアス様は気にしていないようだ。
「大丈夫だ。ほとんど身内だけしか読んでいないし、出入りの商人も呼んでいる」
「それなら……」
大丈夫かな?
多少は浮かずに済むかもしれない。
考えていると、ルディアス様に尋ねられた。
「貴族がいる場なのが、気になるのか?」
「ええと、そうです」
「父親に関連がある者はいないはずだが……」
「あの、一応家を出た身ですので、平民扱いをしていただくことになるかと。なので、貴族が多い場に平民として参加した時に、嫌がられないかが気になって」
こんなにもそれが気になるのは、やっぱり処刑宣言された王宮のパーティーのことが忘れられないからだ。
さっと集まる自分への注目。
思い出すと怖くて、指先が震えそうだ。
あんな風に、異質な存在として見られる状況はちょっと避けたい。
するとルディアス様が言った。
「それなら、精霊使いとして紹介しようかと思ったが、それもやめておこう」
「え、そんなことするつもりだったんですか!?」
「多くの人に覚えてもらった方が、むしろ君を守ることになるかと思ったんだ。君が父親に追いかけられていても、見知らぬ誰かだったとしたら避けてしまうだろう。だが知っている人物で、しかもレーン伯爵家が庇護するに足る存在だとわかっていれば、優先して助けるはずだ」
「私を、助けるためですか。そこまで考えてくださっていて、本当にありがとうございます」
ようやく、ルディアス様がパーティーに私を招待した理由がわかった。
私に何かあった時に、助けてくれる人を増やすためだったのだ。
「いや、君の負担のことを考えていなくてすまない」
「謝らないでください。私を心配してのことだったのに……。でもその、やっぱり注目されるのは怖いのです」
まだちょっと、記憶が濃すぎる。
もう少し、今は違う人生を歩んでいるんだとわかって、あんなことにならないと確信できるようになるまでは注目されたくないなという気持があるのだ。
するとルディアス様は提案してくれた。
「では、ひっそりと少数の確実に信頼がある人物に、君のことを伝えておくのはいいだろうか? パーティーの中心にいなくてもいいし、人と関わるのが辛いようなら、飲み物や音楽を楽しんでいてくれるだけでいいんだが」
そこまで配慮してくれる、ルディアス様の気持ちが嬉しかった。
あと、そうまでしても私の安全を確保できるようにしたいのだと、私にも理解できた。
もしルディアス様が駆け付けられないうちに、いっそ……と殺されそうになることがあったら、こうした助け手を増やすことで危機を避けられるかもしれない。
「わかりました。ひっそりお伝えいただくのなら……」
うなずく私に、ルディアス様は御礼を言ってくれる。
「許可してくれてありがとう」
御礼を言うのは私の方なのにと、ちょっと申し訳ない気持ちになった。
そんなわけで、パーティーでは私はひっそりと参加者の一人として過ごすことになった。
「おめでとうございます、クロト様」
「ご回復なされて、本当に良かった」
会場の中心では、クロトが人に囲まれていた。
まだ無理しすぎないよう、クロトは椅子に座った状態だ。
参加者はルディアス様が身内だけと言っただけあり、本当に近しい人が多い。
三分の一は貴族だけど、家臣扱いの男爵家の人達や、領地から急いでやってきた分家の人達。
次の三分の一は、伯爵家に出入りしている商人や魔術師のようだ。
冒険者もいるようで、なれないジャケットやベストを着ているせいか、たまにひっそり腕を回したりしていた。
その中には、招待されたらしいエルマーさんもいて、私を見つけて遠くから会釈してくれた。
のこりの三分の一は神官服の人だ。
「初めて聖騎士様のお宅にご訪問させていただきました」とほこほこした表情をしている。
クロトのために短時間で終わらせる予定だとは聞いていた。
だからなのか、晩餐のための席も用意していないし、軽くつまめる物と飲み物を広間の端に置いているだけだ。
私は広間のすみのソファに座って、飲み物を片手にパーティーを眺めていたけど、じわじわとその場にいられることに嬉しさを感じていた。
(普通のパーティーに、こうして参加できるとは思わなかった。ずっと縁がないままになると思っていたから)
平民として生きる覚悟で、家を出たのだもの。
パーティーのような場で注目されることが怖くなくなっても、出られるわけがないと思っていた。
だから料理もベリータさんから教えてもらっているし、掃除も全部覚えた。
刺繍しか知らなかったけど、今はベリータさんが長くいられる時に裁縫も教えてもらった。
それなのに、貴族みたいなことができると思わなかったのだ。
でも眺めているだけで満足だった。
何を話せばいいのかわからないし……と思ったら、クロトが立ち上がり、老神官を引っ張ってこちらに連れて来る。
「レイナ様! こちら大神官様です」
そう言ってクロトが私に老神官を紹介してくれる……え、大神官様!?
でもルディアス様が聖騎士なんだから、身内として神殿関係者がいるのは納得していたんだけど、まさか大神官様まで来ているなんて思わなかったのだ。
「あの、初めまして。お会いできて嬉しいです」
慌てて席を立って挨拶すると、大神官様が「なんもなんも、気にせんで座ってもらってかまわないんですがのぅ」と町で見かけたおじいちゃんみたいなことを言ってくれる。
「むしろ儂の方が、生きている間に新たな精霊使いに会えて嬉しいんですなぁ」
ルディアス様は大神官様に、私が精霊使いだと伝えていたらしい。
たしかにこの人なら、何かあった時に間違いなく保護してもらえるだろう。




