45:パーティーのために
「うーん、魔花じゃないのかな?」
今まで、血を与えても魔力を与えても、うんともすんとも言わない魔花は初めてだ。
でも魔花の種なのは間違いない。
「土変えてみてもダメだし……」
普通の土にしてみてもダメ。
思い切って、屋外で魔力が多い土に植えてみても反応なし。
「予想外すぎて、ある意味怖いかも」
挙動が予想できると、対策もできる。
だけど対策が思いつかない物って、何がどう起こるかわからないので、予防しようがないのだ。
そのため慎重に、慎重に観察と実験を続けていた。
そんな陽が一週間経った頃、ベリータさんが大きな箱を担いだ人達と一緒にやってきた。
「こんにちはレイナ様。仕立て屋から服が届きましたよ」
「あ、はい。でもそんな箱に入れる服だったでしょうか……」
日常使いの服をお願いした気がする。
ああいう服は、多少皺はつくかもしれないけど、袋に入れて運んでくるのだけど。
布って意外と重たいので、箱の重量も足すと運びにくいから。
「日常で使う服も来てますよ」
「あ、ほんとだ」
ちゃんと袋を抱えた人もいた。
スカートやブラウスなんかはそっちにまとまっているみたいだけど。
で、その箱は何?
「やっぱりその箱、心当たりないんですけど?」
「まぁまぁ、家に置いてもらって見て見ましょう」
というわけで、玄関から近い応接間に運び込んでもらう。
「それでは」
と言って業者の人が出て行ったあと、私はいよいよ箱を開けることにした。
なぜかリボンがかかっていて、箱そのものも、しっかりとニスを塗って艶出しをされている簡素ながら彫刻のある箱だ。
まさかと思いつつ、リボンをほどいて開けると……。
中にあったのは、薔薇色のシルクブロケード。
花模様が織り込まれているガウンドレスだ。
さらに銀の糸で、花の模様の上から刺繍もほどこされている。
合わせるアンダードレスもシルク。
重ねるパニエ。
さらにドレスと共布の靴まで出て来た。
「あの、これは……」
「レーン伯爵様からの贈り物のようですよ。カードが入っていますので、お読みになってみてくださいな」
素早くカードを見つけたベリータさん。
渡されたカードを開いてみる。
《明日、クロトの快気祝いでパーティーを開くことになった。良ければこれを着て、参加してくれると嬉しい》
「パーティー」
そこに来てもらうには、ドレスが必要だと思って作らせたのか。
ルディアス様は、私が気にするだろうことについても、きちんとつけ足していた。
《このドレスはあくまで君が注文したことになっている。招待する側として、料金については他の品と一緒に経費として伯爵家が払うことになっている。色々と気にせずに身に着けてもらいたい》
(ドレスを贈ったりするのは、身内ぐらいだとルディアス様もわかっているのね。でも私がドレスを注文してまで参加しないだろうと思って、先に仕立てさせたと)
だから注文者はあくまで私ということになっているのだ。
代金もルディアス様がただ払うのではなく、パーティーのために必要な品ともども、必要経費にしたということなら、一応ぎりぎり、異性にドレスをもらったとはいえない範囲だろうか。
「明日……か」
そういえばこの三日ほど、クロトの快気を祝うパーティーをするための準備をするため、ルディアス様はここへ来ていない。
(まさかドレスを注文していたことを、言わないようにするため?)
口走ったりしないか、私が拒否しないか気になったんだろうか?
ベリータさんも心配しているようで、恐る恐る聞いてくる。
「どうです? ご出席してあげませんか?」
なんとか出てほしいという気持が真正面に出ている様子に、私は思わず笑ってしまった。
「ここまでしていただいたのですから、顔を出してきます。クロト様とも会いたいですし」
そう、元気になったクロトがどんな状態なのかも見たい。
神聖力の量はちゃんと確認したけど、あれを維持できているかちょっと不安だったし。
治療みたいなことをするのは、初めてだったから。
「うふふ。それじゃ妙なところで臆病な伯爵様にお伝えしておきますね」
私の返事を聞いたベリータさんは、楽しそうにそう言った。
うん、臆病というか。
貴族なのだし、いつも堂々としているから、こんな風に『怒られたらどうしよう』と様子を遠くからうかがうような行動をルディアス様がするとは思わなかった。
ちょっとかわいいかもしれないと思いつつ、私はうなずいた。
そして翌日。
ベリータさんに返事を聞いたからかもしれない、ルディアス様は安心したように微笑んで迎えに来た。
「参加してくれてありがとう。クロトも喜ぶと思う」
そう言いながらも、照れたようにそわそわとしてはじっとこちらを見て、視線をそらす。
ややあって思い切ったように告げられたのは。
「とても綺麗だ。薔薇色のドレスでも君を引き立てることしかできないんだな、これならもっと宝石をちりばめさせるんだった」
とんでもない誉め言葉だった。
ルディアス様でも、そんな風に言えるのかとびっくりする。
(そもそも、男性としてはかなり美麗な容姿のルディアス様に、綺麗って言われるなんて)
ちょっとどころじゃなく恥ずかしい気分だ。
本当に綺麗に見えるだろうか?
そうだといい。
でも、ルディアス様の隣にいて見劣りするんじゃないだろうか?
(最初で最後のパーティーだったあの時だって、私、綺麗だなんて言われたこともなかったし)
私自身も、いつになくそわそわしつつも、なにか返さなくてはと口を開く。
「あの、ルディアス様の素敵さには見劣りしますから……」
「そんなことはない。君の美しさの前では私は霞むだろう」
「ええ? でもきっと、沢山の人達がルディアス様に注目せずにいられないと思います」
「それなら今日は、私なんぞが目につかなくなるような女性がいることを、パーティーの参加者は知ることになるだけだ」
なんとなく言い合いをしていると、横で見ていたベリータさんが笑いをこらえるような顔をして私達を馬車へとせきたてる。
「さあさあ、お時間が迫っておりますでしょう? 馬車の中で続きをしてください」
そこで私は我に返る。
(なな、なんてことをルディアス様に言っちゃったの!)
こんなに誉め言葉を相手に伝えたのは初めてだし、聞いたのも初めてかもしれない。
しかもベリータさんにまで聞かれてた!
穴があったら入って引きこもりたい気分になるけど、そうはいかない。
「では、行こうか」
あまり気にしていない様子のルディアス様が手を差し出してくる。
いつもと同じ様子に戻ったルディアス様に、妙な安心を感じつつ、私は手を借りて馬車に乗り込んだのだった。




