42:ルディアスによる騒動の後始末
「伯爵様」
騒動が済んだその夜。
執務室で一息ついていたルディアスの元に、バーガンがやってきた。
「ベルナン男爵夫人と息子ですが、明日王家の騎士に引き渡しできるようです。でもその前にと締め上げてみましたら、先だっての拉致事件にかかわりがあるようでして。そこで拉致事件の方の犯人を締め上げて、証拠が男爵家にあると証言させました」
「男爵家には?」
「すでに向かわせ、男爵家にて証拠が押収できたようです。夫の男爵が知らなかったと申しておりますが、そちらは先に王家の騎士に連れて行っていただいております」
ルディアスは満足してうなずく。
「証拠があれば、裁判も必要ないだろうな。聖騎士家の子息誘拐犯だったのだから、すみやかに処罰するべきだと神殿からも文書を出させればいい」
神殿の方は、聖騎士であるルディアスが大神官以上の価値があるため、ほぼ要望は通る。
特にこういった事情の物は、ルディアスがこの国に関して聖騎士としての力をふるう気がなくなっては困るので、奔走してくれるだろう。
「使用人の方は?」
「逃げたメイドを絞って、関連する使用人を吐かせまして。元々チェックをしておりました使用人以外にも五人、関わっていた者がいたようです」
「まだいたのか」
バーガンが重々しくうなずいた。
表情が渋くなるのを感じる。
今まで七回もこの時間を繰り返していて、すでに全員にあたりをつけることができていたと思っていた。
そもそも最初のうちは、レイナが早々に家出しなかったのと、貴族令嬢を無理やり連れだすことでレイナにどんな迷惑がかかるかわからなかったので、そちらは後半になるまで手を付けられなかった。
まさか彼女が、家で奴隷かと思うような扱いを受けてるとは知らなかったからだ。
その分、クロトの誘拐対策に時間をかけていた。
連れ去られ、亡くなってから発見される場所から、犯人を事件が起こる前に探し出す作業。
同時にクロトが連れて行かれないように、事件が起こった頃にクロトの周囲にいる使用人は難癖をつけて解雇。
それで拉致はできなくなっても、どうしても治療が進まず、クロトはレイナとルディアスが出会う前に命を落としていた。
レイナが精霊使いだったと知ったのは、三回目の人生の時だったか。
けれど彼女がいなくなる前のことだったから、どうにもできなかった。
四回目、今回のように見つけきれなかった男爵家の手先がクロトを再び誘拐し、その先で……レイナに再会した。
レイナは家を追い出されていたようだ。
おそらく家を出られたのは、義妹マリーシアが逃がそうとしたのだろうが、計画が甘すぎた。
庶民の生活の方法も行く場所もよくわからないレイナが、普通の生活を送れるわけもなく。
一人で魔花を採取しに行って、どうにかすることも難しかった。
結局は野山で薬草を採っては売るような生活をしていて、たまたま魔花を見つけることができたレイナは、捕まっていた子供達を見つけ、逃がすことに協力してくれた。
その時は、まだレイナがこのぐるぐると回る人生の原因だとは思わず。
出会って、仕事という形で彼女に関わってお互いに信頼するようになり、それまでにない恋人という立場にもなったのだが。
(彼女は、殺されたんだ)
レイナは執拗に、死に追いかけられている。
その理由を察したのは五回目だろうか。
救おうとした。
その過程で結婚もした。
でも彼女はいつも死に奪われてしまい――そして、知った。
(レイナが死ぬことで、精霊使いを特別に思う精霊達が時間を戻しているのではないか)
最初は自分も王国に流行った呪いのせいで亡くなっていたから、原因がわからなかった。
自分と聖剣のせいなのかと思っていたぐらいだ。
でも、違う現象が起きた。
死んで戻るのではない。
突然時間が戻るようになったのだ。
そしてレイナの近くにいるようになってから、彼女の死が引き金だということを感じた。
(たぶん義妹の方も、同じだろう)
全てがわかっていたら、あちらも七回もレイナを救えずにまごついているわけがない。
そもそも最初は、なぜ死んだのかもわかっていたかどうか……。
(根っからの悪女が、七回であそこまで行動を変えただけマシというかなんというか)
一応邪魔はしないだろうし、レイナのやりたいことへの援助をするのは良いと思っているが。
そんな思考に沈みそうになる中でも、バーガンの報告は続く。
「疑わしい使用人と、今回発覚した五人を含めて、本日で解雇させております。一応、理由を当主の命令に違反したこととしています」
「ありがとうバーガン。しかし、先日も解雇させたばかりで、使用人が足りないだろう」
本当は、疑わしい人間はまとめて一気に解雇しておきたかった。
しかしクロトの看病のためにも、人手が必要だったから、急激に人を減らすのを思いとどまっていたのだ。
「早いうちに新しく人を入れなくてはなりませぬ。ただ、信頼できる人間を選び出すのに、少し時間をいただくかと思います」
バーガンはできないとは言わない。
ただ正直に、どこまでできるかを教えてくれる。
ルディアスとしても、この状況は良くないことはわかっている。
早くそれなりに信用できる背景を持つ使用人を見つけるには、どうするべきか……と考えて、思い出す。
「それならば、ダントン商会のエルマー氏に連絡を。レイナに危害を加えない使用人を頼むと言えば、間違いなくそういった人間をそろえてくるはずだ。そしてレイナに危害を加えないのなら、クロトにも私にとっても問題を起こさない使用人になるだろう」
「そ、そうでございますか。でもダントン商会に紹介を頼むのは妙案でございます」
うなずきつつ、バーガンはどうしても聞いておきたかったのだろう。
「あの、レイナ嬢を基準にされた理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
ルディアスは真剣な表情で答えた。
「いずれ伯爵夫人になるからだ」
絶対にまた結婚する。
ルディアスは必ずやそうするつもりでいた。




