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しがない悪役令嬢ですが今度こそは幸せになりたい ~義妹に立場を奪われた私、死に戻ったので精霊使いとして生きようと思います  作者: 奏多


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39:マリーシアの作戦

 とにかく私がやるべきは、クロトの治療だ。

 彼が元気になりさえすれば、解決することが増えるだろうし、本人が警戒できるようになって拉致確率が下がる。 


 しかし二日目。


 クロトの部屋に到着する前に、あのベルナン男爵夫人が立ちはだかった。


「バーガン、伯爵様を呼びに行ってくれたかと思ったら、また商人の相手をしているの? 


 執事のバーガンさんも、どうするべきか悩んでいるようだ。

 本当はクロトの治療に来ている私達を優先したい。

 でもそんなことをしたら、クロトの元へ来ている私達の存在が目立ってしまう。

 苦渋の決断で、バーガンさんはこちらの案内を他のメイドに任せ、男爵夫人の方へ行くことにしたようだ。


「申し訳ございませんが、他の者に案内させますので」


 そう言うだけでも、男爵夫人が神経質な声を上げる。


「バーガン! 商人の使い風情に敬語を使う必要はないわ!」


「私はいつもこの口調ですので」


 やんわりと返しつつ、バーガンさんは近くにいたメイドを呼ぶ。


「こちらのお客様をクロト様のお部屋へ案内しなさい。あとはクロト様のメイドに引き継げばよい」


「承知いたしました」


 メイドの方は、固い表情でそれを請け負う。


「ご案内いたします」


 事務的な口調でそう言うと、メイドはさっさと歩き出してしまう。

 ベルナン男爵夫人の話を聞いて、こちらは重要じゃないと思われたんじゃないかな。

 それでもみんな、身元や目的を明かしたくはないので、黙ってついていくことにしたんだけど……。


 通りすがりに現れたのは、あのベルナン男爵夫人の息子だ。

 ルディアス様と違って鍛えていなさそう……というか美食を享受しているのがよくわかる体形の男爵子息は、ふんと鼻を鳴らす。

 それだけで、性格や考え方があの男爵夫人と同じなのだとわかる。


「商人なんだから使用人の通路を使えばいいものを」


 メイドは何も言わない。

 そしてエルマーさんが、申し訳なさそうに言う。


「ご忠告ありがとうございます。私どもでは道が不案内でして、案内されるまま進んでしまいました」


 さりげなくメイドに責任を押し付けるあたり、ちょっと怒っているのかもしれない。

 でも、ただでは転ばないぞという感じが。


(さすがマリーシアの友達)


 妙な雑草根性が生えたマリーシアが、友達として交流するだけあるなと思ってしまった。

 あと、エルマーさんとしてもこの男爵子息ぐらいはどうにでもできるって判断したんじゃなかろうか。

 じゃないとここまで嫌味なことは言わないと思うけど。


 ただし敵もさるものだった。


「ふん、道がわからないとは哀れなことだな。メイドの不案内の方が悪かったようだ」 


 納得しちゃった!

 けっこう素直な人?

 でも演説好きではあるっぽい。


「だとしても、メイドに一言聞くべきだな君は。あきらかに貴族の通る道を……」


 しかしその言葉が止まる。

 ふいに窓の外に視線を向けた男爵息子は、そのまま止まってしまったのだ。

 そしておもむろに窓を開けると――。


「やだー鳥がいっぱいいるわー!」


「もっとこちらに集めましょうか」


「そーれ餌よー!」


 マリーシアの声が聞こえる。もう一人は、いつも一緒のお友達の一人だろうか?


 ちょっと首を伸ばして窓の外を見れば、マリーシアが敷地外から鳥のいる場所めがけて何かを投げてる。

 鳥の餌というからには、パンくずかなんか?

 ていうか、人の家にパンくず投げるのはダメでは?

 

「ままま、マリーシア嬢!?」


 男爵息子の驚愕する声。

 あ、この人でもマリーシアのことは知ってるんだ。


(いや目立つわよね、マリーシア)


 前よりかなりエキセントリックな行動をしているし、目につくのは当然だろう。

 すると、今来た廊下を、猛然と走って来る人がいた。

 ベルナン男爵夫人だ。


「ちょっとオーレン! マリーシア嬢と接触するわよ!」


 私達のことなどもう見えていない。

 むんずと息子の腕をつかみ、引っ張って行こうとする。

 が、男爵子息は気が進まないようだ。


「あの子怖い……。前もキャベツ投げつけられたんだ」


 なんと息子の方はマリーシアを怖がっているようだ。

 ていうかキャベツを投げた!?


(……マリーシアが怒るようなことでもしたのかしら?)


 とはいえ貴族令嬢がキャベツを投げるって、いったい何。

 でも今のマリーシアならやりそう。


「それでも我慢なさい! 王子殿下が特に気にしていらっしゃる令嬢でしょう! 印象を良くしておけば、いつか我が家にも何らかのおこぼれがあるわ!」


「…………」


 なんというか、そのガッツだけはすごいと私は思ってしまった。

 リンゴの木に登って食べている熊のその下で、地面に落ちたかじられたリンゴを拾い集めるかのような……。


 おかげで、嵐のように男爵母子は私達の前から走り去り、執事のバーガンさんが戻ってくる。

 バーガンさんは案内をしていたメイドを帰し、改めて自分が先導を務めてくれる。


「なんというか、フィディアス伯爵令嬢に救われました。後日お礼を申し上げねばなりませんが……お嬢様方があの行動をお頼みになられたのでしょうか?」


 バーガンさんも、マリーシアが勝手におしかけてパンくずを投げ入れているのだとは思わなかったようだ。

 私達がいる時間を狙ってきていると察したのだろう。


「あれがマリーの作戦だそうですよ」


 全てを知っていたらしいエルマーさんは、微笑みながらそう言う。


「自分が騒げば人の耳目を集められるし、伯爵令嬢だからおいそれと止められないと。レーン伯爵の館に遠縁の人間が入り込んでいて、そちらまで釣れるとは予想していなかったと思いますが」


 ちくりと刺す言葉が混じったのは、格下扱いされたからだろうか。


(ダントン商会の御曹司だものね。王様にも謁見できる大商会の跡継ぎなら、その辺の男爵子爵や貧乏伯爵よりも権力があるようなものだから)


 表向きには身分を尊重して引くけれど、結局はダントン商会と取引できないと生活に支障が出るので、折れるのは貴族達だ。


「伯爵様も、今一気にあの者達を切る準備をしておりまして。おそらく来月には顔を見ることもなくなるでしょう」


 ルディアス様も我が物顔で伯爵家に出入りする親子を、遠ざける気だったらしい。

 私の行動が早すぎたので、間に合わなかったのかもしれない。


(もうちょっと後にするべきだったかな……でも、また体調不良の時にさらわれて、今度こそ病気のせいで亡くなってしまったら後悔しきれないものね)


 円滑には回らなかったけど、それでも押し通らなければならない時もある。


(そういえば、しばらくルディアス様に会ってない)


 三日に一度は顔を合わせていたせいか、なんだか寂しい気がしてくる。

 クロトに会いに来られないのは、クロトが具合悪くならないようにするためだし。

 毎日短い時間ながらも、クロトと会話はしているようだけど。

 治ったら、もっと兄弟で一緒にいられるようになる。

 クロトは兄が大好きみたいだし、きっと毎日が楽しくなるだろう。


 よし、早く治そう。


 そう思ってクロトの部屋へ到着してみると、エミリーとクロトに質問攻めにされた。


「ねぇねぇねぇ、あの騒がしいお姉さんはレイナ様の妹なの?」


「あのお姉さん、さっきキャベツ投げてた! あのキャベツほしい!」


 二人とも、こっそりマリーシアの騒ぎを見ていたらしい。

 遠いけれど、クロトの部屋の窓から見えるのだ。


 なにげにマリーシア、子供達の興味をそそる存在だったようだ。

 そんなこんなとありながらも、今日も何事もなく精霊花を咲かせることもできた。


 神聖力の量も確認して、以前の半分にはできているのを確認した。

 だけど、器の大きさが少しふわふわしている気がする。

 まだ固定しきれていないんだろう。


(明日まで待てば、ある程度器も定まってくる。そうしたら元の三分の一の量に減らして、戻っても半分の量が自分の器の大きさだったという形になるはず)


 三日目もがんばろう。

 私はそう思いながら、この日も帰途についたのだった。

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