37:エイミーと最初の鳥
「エイミー元気だった?」
私が聞くと、脱出プロ少女エイミーはうなずく。
「うん、お姉さんやクロト様が紹介してくれたおかげで、いいところに勤められるようになったし、ほとんど話し相手するのが仕事だからとても楽!」
それから少しもじもじしつつ付け加えた。
「体調悪いの、お姉さんの言った通りだったから、助かったの……ありがとう」
「どういたしまして」
あの時私を元気づけてくれたエイミーが、元気になっていっているようで嬉しい。
そう、あんなにアグレッシブだったけど、エイミーは体調不良だった。
薄暗い洞窟の中から出た後、エイミーを見て私は驚いたのだ。
想像以上に青白い顔、痩せた腕や足と頬、走っている時はすばしっこいけれど、時々ふらついていた。
考えてみれば、長く孤児として路上生活をして、誘拐されては脱出を繰り返していた子が、万全な体調のわけがない。
エイミーも限界だったのだ。
かといって、薬を飲んで数日療養して治るような類のものじゃない。
一気に神聖力で治療しても、体力や筋力を戻していかないと、結局はエイミーは一人で動けなくなって倒れてしまうだろう。
一方でエイミーは、誰かの養子になることを嫌がった。
保護しようとしたルディアス様達は困惑したようだけど、私はなんとなくわかる。
たぶん、親という存在を信用できない……と思ったはずだ。
捨てられたり、逃げる必要がある事件がなければ、エイミーは路上生活なんてしてなかった。
それは親や保護をしていた大人達が、エイミーにその選択をさせたのだ。
詳細はエイミーは嫌がって語らなかったけど、どうも売られそうになって逃げて来たっぽい。
なによりクロトが、そんなエイミーに理解を示した。
「じゃあ、うちで働く?」
と軽い調子で言った。
クロトによると、仕事を与えることで自活できるようにする。その方がエイミーに向いていると感じたらしい。
エイミーも、自分の力で生きて行けるなら「その方がいい!」となって「やる!」と手を上げた。
ただ、エイミーの体調の問題がある。
それで過酷ではなく、なるべくゆったりと過ごせる仕事で、ちゃんと誰かが体調管理できる環境の場所ということで、クロトの側で話し相手兼任のメイドをすることになったのだ。
問題はエイミーの出自。
基本的に就職しようと思ったら、紹介状を出してくれる商人や、親の知り合いの口利きで仕事を得る。
でもエイミーは親も知り合いに信頼できる商人もいない。
そうなると、貴族家では採用できない。
かといってルディアス様本人が出てくると大事になりすぎて、メイドに採用しにくい。
だから私がダントン商会のルーフェン支店長さんに後見人を頼めないか聞き、支店長さんがエイミーに会ってから二つ返事で受けてくれた。
支店長さんは、エイミーの前向きさが気に入ったと言ってくれた。
で、無事に保護者を得たエイミーは、レーン伯爵家のメイドになれたのだ。
あれから支店長さんは、エイミーの薬などが必要なら自分が負担しようとまで言ってくれた。
でも無理を言ったのは私だ。
だから私が負担すると掛け合い、クロトまで「メイドとして働かないか勧誘したのは自分だ」と言い出して大変だったけど。
結局は支店長さんが負担して、私は支店長さんへの売り値を下げることにした。
クロトは「子供ってこういう時競り負けるんだよなぁ」とぼやいていたけど。
「まぁ、兄様の運命の人が出資するなら、結局は僕の家族が出しているようなものかな」
なんて言い出してた。
まだそれを言うんですか……。
もちろん、運命の人という話について、ルディアス様には確かめられていない。
恥ずかしすぎる!
そしてクロトの勘違いか、冗談とか、表現の仕方の問題でそう言ったんだったら、意識してることを知られたくない。
だからこそ今日はルディアス様が顔を出さないでいてくれて良かった。
とにかくエイミーに返事する。
「推薦してみて良かった」
エイミーを推薦したんのは、何かあっても彼女がいればクロトは脱出ができるかもしれないと思ったのも理由の一つだ。
病弱な子を誘拐するなんて、とんでもない。
ルディアス様も、そういう面を買ってエイミーを使用人にという話にうなずいてくれたのだと思う。
部屋に入ると、クロトは寝台にいた。
体を起こしてはいるけど、前に会った時より明らかに衰弱しているのがわかる。
私はまず、燃えている炭に水を一滴垂らす程度だとは思うけど、クロトの中の神聖力を少し減らすことにした。
やることは魔花と逆のことだ。
クロトの手を握り、少し神聖力を分けてもらうような感じにする。
すぅっとクロトの頬に赤みがさして、けだるい感じが抜ける。
「ありがとうございますレイナ様。おかげで一気に元気になりました」
見ていた執事もほぅ、と目を見開く。
「神官殿が来た時よりも、効果が目に見えますな。精霊使いとはこのような治療も行えるのですね……」
「いえいえ。私は神官様やルディアス様のような強い神聖力は扱えません。あくまで小さな幅で操作できるだけですので」
それぞれの職があるのは、得手不得手があるからだ。
神官では、クロトの場合側にいられるだけでも神聖力の影響を受けて辛いだろう。
魔術師ならそういうことはなくても、魔力を足せばそれでいいというわけではない。
でも彼らは、魔物を倒したり、普通の人の病気や怪我を治したりすることはとても得意だ。
私にはそれができないし。
「それにこれは一時的な物ですから。まず一つ咲かせてみましょう」
私は持ってきていた土入りの鉢植えを、エルマーさんが連れている商会の人から受け取る。
その後、商会の使用人は廊下に出てもらった。
精霊使いとしての能力を見せると、どうしても話したくなるだろうというのが理由の一つ。
もう一つの理由は、廊下で近寄る人間がいたら遠ざけてもらうためだ。
これで安心して精霊術が使える。
「ではいきます」




