34:葬儀の花をこっそりと咲かせる方法
「うーん」
私は本を見つつ、うなる。
何度考えても、どんな本を見ても、例の「目立つ」精霊花しかクロトの病気を治す方法が見つからないのだ。
あれから一週間。
さすがに私のほどこした対処法では、クロトも状態が戻ってきているという話を聞いたばかりだ。
「神聖力を引き出す方法も、毎回だと体に負担がかかるし、ずっとそばにいるわけにもいかないし」
私が王都へ行くには、馬車でこっそりと入るしかない。
父が誘拐の依頼人だとわかった現在は、なおさらだ。
どこで父や使用人が見ているかわからないから。
今でも探しているなら、あちこちに目を配っているだろうし。
ただ……クロトを死なせたくない。
私に向けられた笑顔を思い出すと、なおさら胸が詰まるような気持ちになる。
「それに、長い時間放置もできないわ」
体は負担に耐え切れなくなっていく。
やがては衰弱しすぎて、熱にも対抗できずに亡くなってしまう。
「あと、クロトを誘拐した人のことも気になるし」
一応その対策として、強力な助っ人をクロトの側で働かせてと頼んであるけれど、複数人でかかられたら一人では対抗できないだろう。
クロトが元気になって、兄であるルディアス様の側にいられるようにするのが一番安全だと思うのだ。
「とはいえルディアス様には断られているし……」
とにかく、葬儀の花と呼ばれている精霊花を使うのがダメらしい。
クロトを人目につかない場所に隔離して、それで試みる方法も提案してみたけど、聖騎士の弟であり貴族だというのがネックだった。
移動すると目立つ。
誘拐されたばかりなので、こっそりと滞在場所を変えるわけにもいかない。
一番穏便そうな神殿への移動だと、葬儀の花は最も嫌がられる。
なまじ葬儀に関わる分、あの花の姿形色まで把握している人が多いらしく、見ればすぐにわかってしまうらしい。
「どうしたら……」
悩んでいると、ドアベルが鳴った音がする。
ベリータさんが重たい食料品の配達を頼むことがあるのだけど、それだろうか。
受け取って置こうと思った私は、一応外にいる人物を別の窓から確認した。
ダントン商会から来ている人達だ。
一人が、よく配達で来てベリータさんとおしゃべりしていたので覚えている。
もう一人いるけれど、こちらもダントン商会の人だろう。
ほっとしつつ、扉を開けた。
「はい、配達ですか?」
顔を出した私に、ダントン商会の四十代になるおじさんがにこにことしながらうなずく。
「ベリータさんから、芋とニンジンを頼まれていてね。勝手口の前に置いておくからね」
おじさんはそう言って裏に回ってくれる。
そしてもう一人は……。
「お久しぶりです、レイナさん」
「ダントン商会のご子息でしたか」
マリーシアと一緒にいて、商会もしてもらっている。
エルマー・ダントンさんだ。
年齢はマリーシアや私より一個二個上。ルディアス様より少し下ぐらいかな。
柔らかそうな茶色の髪も、わずかに目じりが下がった青い目も、穏やかそうな印象を与える青年だ。
でもマリーシアが選んだだけあって、顔面偏差値は高い。
「マリーがあなたの様子を見て来いとうるさいので、顔を出しに参りました」
性格が変わったんじゃないかと思えるマリーシアだけど、ちょっと強引なところはそのままのようだ。
でも愛人の娘であるマリーシアに対して『うちの妹がすみません』と言うべきなのかどうか、ちょっと悩む。
すると先にエルマーさんが言った。
「何かお困りのことはありませんか? マリーからは輸送から魔花の採取、もしくは同行者を希望なら冒険者を手配してほしいと要望されていますし、叶えられますよ」
王侯貴族と会う場にも同行する人らしく、綺麗なお辞儀をしてみせる。
「冒険者の手配まで……?」
そこにピンと来た私は反芻する。
「はい。ご自身で魔花や精霊花を吟味したい場合もあるかと思いますので、その際には護衛の冒険者を手配もできます」
そこまでしてくれるなら、という考えが脳裏に浮かぶ。
(でもちょっと待って)
「あの……」
「なんでしょう?」
「マリーシアはどうしてそこまで私に色々してくれるのでしょう?」
いつも嵐のようにやってきて、嵐のように去ってしまうマリーシア。
おかげでじっくりと話をしたことがない。
だから理由がわからないままだった。
なぜ私のために、あれこれとしてくれるの?
それにエルマーさん達が賛同しているのはどうして?
「私を手伝ってもマリーシアのためになるとは限らないのですけど……」
疑問をぶつけると、エルマーさんが答えてくれた。
「これは恩を返しているのです」
「恩返し?」
エルマーさんはうなずく。
「マリーには、商会が損失を出すかもしれない危機を救ってもらいました。……もちろん、起こったとしても商会がすぐに消えてしまうような状態にはならなかったでしょう。けれど、使用人や店員が死傷した恐れがあります」
詳しく聞くと、がけ崩れ、強盗について注意するように言われ、一応警戒していると本当に起こったのだとか。
長く一緒に働いてきた使用人を救えたことに、エルマーさんの父である商会長もとても感謝しているらしい。
「でも普通は、突然そんな話を聞いても信じたりしないんでしょうけど……。私の場合はマリーが小さい時からの知り合いだったので」
「あ、そうなんですか」
「家が近くにあったので、出かけると会うことが多かったんですよ。最初は近くの神殿学校に通っていましたし」
「学校が同じだったんですね」
なるほど。
以前のマリーシアも、実はエルマーさんと親しかったのかもしれない。
ただ、前回のマリーシアは栄誉欲とかきらきらした高価な物を欲しがる気持ちが強すぎて、エルマーさんにはあんまり目が向かなかった可能性もある。
今回はなんだかその様子はないけれど……。
だからエルマーさんと仲が良いのかもしれない。
「他のハインリヒ様とジオ様も同じような理由で、以前から彼女に助けられたことがあるんだ。だから伯爵家の令嬢になったことに、驚いたと同時に、礼も受け取らない理由もある程度はわかったんだけど」
マリーシア、お礼も受け取らなかったんだ。
そんなマリーシアを、彼らは恩人として慕ってひっつくようになったようだ。
(それにしても、伯爵家に引き取られる前からなら、いきなり三人もの信奉者を連れていてもおかしくはないけど……)
でも、なんだかおかしい。
(マリーシアはどうやって、ダントン商会の火事や、ダントン商会が巻き込まれそうながけ崩れなんてものが起こるってわかったの? 他の貴族家のことも……)
と思ってハッとする。
(私もだった)
何が起こるかわかっているから、家出した。
もう精霊使いとしての勉強も実践していたから、すぐに仕事もできるようになった。
(マリーシアも、なの?)
だとしても、彼女がどうして私に好意的なのかわからない。
贖罪のため? ……私が処刑を宣言されたあの時、マリーシアはびっくりした顔をしていた。
まさか立場を取り換えるなんて知らなかったのかもしれない。
だとしてもマリーシアに悪い条件ではなかったし、結局は庇ってくれることも、異議をとなえることもなかった。
私がいなくなっても、彼女には邪魔者が消えるだけの話で、マイナスになることがなかったせいだろう。
「その後で、何かが起きた……?」




