28:クロトを治す方法を探したい
家に戻って来て三日後。
私はためいきをついていた。
「どうして……」
ルディアス様には弟クロトの病気の原因も話した。
もちろんルディアス様も認識していたらしい。
――神聖力を貯めすぎる体質。
普通の病気の治療なら、通常神聖力を与えて食物や様々な物から受け取りため込んだ魔力を減らすことで行われることが多い。
だけど神聖力による過剰症だけは、これができない。
自分で神聖力を扱うことができれば、解消されるのだけど。
それができない場合は、不治の病に近い状態になる。
しかも神聖力の強い人の側にいると病状が悪化する。
だからルディアス様は、クロトを自分の馬に同乗させなかったのだ。
体調が悪くなるのを知っていたから。
(今までも、弟よりも私をかまっていたのも、側にいられないからなのね)
ルディアス様が大事にするほど、クロトが病む。
だからルディアス様は、弟の側に居続けないようにしていたのだ。
しかしクロトの病状を改善させる確率の高い方法は、ないわけではない。
確実ではないのが玉に瑕だけど、試してみてもいいと思うのだけど。
……ルディアス様に拒否されてしまった。
「あれは目立ちすぎる。レイナ、君も狙われているかもしれない時に我が家の館に通ったりしたら、間違いなく相手を引き寄せることになる」
私を誘拐した犯人が、まだわかっていない。
だから身の安全が確保できないからと言われた。
(それなら、犯人がわかればと思ったのよね。だけど……)
昨日、ルディアス様が犯人達に自供をさせた結果を知らせてくれた。
何人か人を介して、恨んでいる人間を売り払ってほしいとか、殺してほしいという依頼を複数受けていたようだ。
おかげで私の件の依頼主もわかりにくく……。
ルディアス様の弟クロトも、殺すように依頼されたうちの一件だったらしい。
あとは口減らしで売られた子なんかを、そういった依頼のことを誤魔化すために買って連れて来ていたようだ。
で、まとめて人身売買をしている商人に売り、商人ごと殺して足がつかないようにするつもりだったようで。
「殺されてたら、本当になにもわからなくなってたかも」
そんな恐ろしさを感じつつも、同時に犯人がわからないことでクロトの治療についても許可が出なかった。
(でも、許可してくれなかった理由は……私の安全のことだけじゃないのよね)
「君が、もっと直接的に害される可能性がある」
そう言われたし、理由も……納得できるものではあった。
「あれが葬儀用の精霊花じゃなければ……」
精霊花《天の鳥》は、咲くと魂を導くといわれる鳥の姿の精霊になる。
その力で魔物が死者に寄ってくる前に、魂を天へ運ぶ……という言い伝えがあるのだ。
精霊使い達の記録によると、≪天の鳥≫は死者の魔力も神聖力もいくらか吸収し、対象の体質を変えるんだとか。
生きている人の場合、何度か繰り返すことで神聖力を体内で生成する体質を改善させ、量を減らすことができるのだと書かれていた。
死にそうだった神聖力過剰症の患者にとっては、生まれ変わったような変化が起こることになる。
(だけど、普通の人達はそこまでは知らない……)
一般的には、病気の人の側にあるのは不吉だと忌み嫌われている。
精霊花を使っての葬送をしなくなっても、ちょっと目立つ特徴がある花だったせいで、今でも墓所にその色の花を供えるべきじゃないとまで言われているぐらいだ。
復活の炎を表す赤と黒の入り混じる花。
私でも、墓にその色の花は供えてはいけないと知っているぐらいだ。
なのに病人の側で咲かせたら……「死ぬのを待っているみたいだ」という印象を与えてしまう。
正直、私がめちゃくちゃ恨まれるし、クロトは貴族の子供だからこそ、暗殺まで疑われて罪人にされかねない。
「仕方ない」
私は他に同じような精霊花がないか、探してみることにした。
本を見てみたいんだけど……。
「ベリータさん、精霊花の本が沢山ありそうな場所ってご存じですか?」
ちょうど昼食を作りに来てくれていたベリータさんに、聞いてみた。
鍋をレードルでかき混ぜながら、ベリータさんが首をかしげる。
「たしか学術院の図書館には沢山あると聞きましたよ」
「うーん、貴族じゃないと入りにくいかも」
学術院は優秀な神殿学校の卒業生や、貴族の子供達が通う場所だ。
平民として暮らしている私が、ほいほい入れるわけもない。
困った末に、私はルディアス様の協力を要請することにした。
例の精霊花を使わない方法を探すのなら、手を貸してくれるだろうと思って。
最近は、拉致事件(しかも伯爵家の子息)があったので、ルディアス様は忙しそうで、二日か三日に一度しか来なくなっている。
代わりにこの家も含めて、ルディアス様の騎士が巡回しているらしい。
お昼ごろに来るのよねと思っていたら、ちょうど来た。
「どうも、お変わりないですか? レイナさん」
ホルガーさんだ。
先日の、拉致事件の時にはクロトを自分の馬に乗せて帰っていた騎士。
背が高くて肩幅どころかあちこち私の二倍のサイズがありそうな、がっちりとした体格をしている。
髪は剃っているのかないけれど、どこかで髪のある状態を見たことがある気がするんだけど、なんでだろう?
「ちょうどいい所へ! ホルガーさんこれをルディアス様に渡していただけますか?」
私は手紙をホルガーさんに言づけた。
学術院で本を見たいというお願いを書いた物だ。
ホルガーさんが手紙を見た瞬間、ほっこりした表情になった。
「よもや伯爵様への恋文を言付かる日が来るとは……、感慨深いものですなぁ」
「違います、お願いを書いておきました! 学術院へ行きたくて……」
「学術院ですか」
用件を知るとホルガーさんががっかりした顔になる。
な、なんで?




