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しがない悪役令嬢ですが今度こそは幸せになりたい ~義妹に立場を奪われた私、死に戻ったので精霊使いとして生きようと思います  作者: 奏多


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26:ウサギ精霊の真価

 さて、このウサギ精霊って何ができるんだろう。


「精霊を誕生させられても、精霊がどんな力を持ってるのかはわからないことが多いのよね」


 けっこう花のまま、のんきに咲き続ける物も多い。

 精霊になりたすぎて、さっさと古巣を離れるこういう精霊はちょっと少ない。

 また、精霊使いとしての仕事の優位性を確保するための秘密として、生まれた精霊について書き残してくれる人も少なかったのだ。


「あなた、ここから脱出したいとお願いしたら、何ができるか教えてほしいの。あ、ものすごく加減してね? 敵に知られたり、逃げようとしてることを察知されたくないから」


 ふんふんと話を聞いていたウサギ精霊は、私が話し終わると洞窟の奥へ。

 壁際まで行くと――。


 ドスガリッ。


 洞窟の岩壁を、前足の一撃で少し破壊してみせた。


「ひぃっ」


 近くにいた子がびっくりしている。

 私は思わず走って行って、ウサギ精霊をスカートで隠し……。


「おい、誰か暴れてんのか!」


 イライラした様子で、またあの鼻が大きい男がやってきた。

 壁際に私が移動しているのを見て、けげんそうな顔をする。


「そんなに暴れる女だったのか……?」


 首をかしげながらも、鼻の大きな男は「人は見かけによらないな」とつぶやき、持っていた袋を二つ牢の中に押し込んで立ち去った。


「……ああよかった。バレなくて」


「すごいですねそのウサギ」


 ほっとしている私の横に、クロトがやってきてしげしげとウサギ精霊を見つめる。

 クロトには神聖力があるからか、ウサギ精霊の方もちょいちょいと寄って行って、ふんふんとクロトの膝あたりを嗅いでいた。

 精霊って、匂いがわかるのかしら?


 するとあの脱走のプロの女の子がやってくる。


「ね、このウサギがいれば、脱出できる?」


 もう脱出する気満々みたいだ。

 この前向きさ、けっこうおもしろい子だ。


「助けが来たら、このウサギに助けてもらって脱出しましょう。今はあっちの建物に人が多すぎて、抜け出したらすぐバレちゃうわ」


 行動するのは、ルディアス様が救出のために人を送ってくれてからだ。

 私はささやいて、牢の中に押し込まれた袋を確認する。

 水とパンだ。

 飢えさせたりする気はないらしい。


(うーん、やっぱりこの先で私達を買う相手に、全力で罪をなすりつけようとしてる気がする)


 子供達に配りながら私はそう思う。

 ただ死んでほしいだけなら、食事も水もいらないんだから。


(前回の人生を思いだすのよね)


 殺さないけれど気力を奪っていくような、そんな扱い。

 反抗されないように、でも最後に命を奪う方法は、罪人としての処刑にするために生かされていたあの日々。

 似てると思ってしまうのだ。


「ちゃんと逃げなくちゃ」


 時間を戻せなかったら、こうして生き直すこともできなかった。

 今度は死なないように気をつけないと。

 何度も同じように戻れるとは限らないもの。


 そうして私も、少しだけど水とパンを口に入れる。

 ……全部は無理だった。

 最近ずっとベリータさんの美味しい食事を食べてるから、パンと水だけというのは久しぶりで……。

 それは、私が使用人以下の粗食で過ごさせられていたってことだから、昔のおもぐるしい気分を思い出してしまう。


 なにより見知らぬ人に拉致されたのは初めてだ。


(私、けっこう緊張してるんだわ)


 食事が喉を通らないことで、ようやくそれに気づいた。

 でも大丈夫。

 ほんの一日か、二日だ。


 水さえ飲んでおけば、大丈夫。


 私は余ったパンを欲しい子にあげ、その時を待つ。

 隣には、クロトが寄り添うように座っていた。


「クロト、体調はどう?」


「昨日よりもずっといいぐらいです」


 そう答えるクロトは、薄暗い中でも元気そうだ。

 さっきは誰よりも青白い顔をしていたのに、にっこりと笑って体を起こし続けてもつらくはなさそう。


「体調が悪くなったらすぐに言って。逃げる時に走れるようにしなくちゃいけないから」


「はい」


 クロトは素直にうなずく。

 可愛い……。ルディアス様も、こんな素直な弟なら可愛がっていることだろう。

 だからこそ死なせないようにしよう。

 心に誓ったその時だった。


 近くにいたウサギ精霊の耳がぴくっと動く。

 やがて建物側で大きな声がした。

 こちらにすぐ来る様子はないけど、ここからは見えない扉を開けて、荒々しく出て行く足音がする。


「……助けが来たのかもしれない」


 廊下の天井に隙間があるせいか、外へ出た人さらい達の怒鳴り声が聞こえてくる。

 そして剣戟の音。


「みんな、逃げよう」


 小さな声で、でも鋭く呼びかけると、子供達は一斉に立ち上がった。

 私も立ち、ウサギ精霊に頼む。


「お願い、脱出できる穴を作って」


 そう言うやいなや。


 ――ゴォン、ガッ、ドゴッ。


 ウサギ精霊達が一斉に鉄格子横に集まってそこの岩に攻撃する。

 とてつもない音が響いた。

 でもすぐに、鉄格子横の岩が崩れ、子供や私が通れる穴ができる。

 その先にある壁もすぐに壊れた。


 素早く外をうかがう。

 人さらい達はここからすぐ見える場所にはいない。


「今のうちに、後ろの森へ走って!」


 私の指示で、一斉に子供達が洞窟を出て外へ走る。

 最後に私が壁の向こうへ出たとたんだった、建物の方の扉が開く。

 廊下へ出て来たのは、あの鼻の大きな男。


 ――目が合った。


「…………!!」


 慌てて走る。

 もちろん男は追いかけてくる。


「逃げるなぁあああ!」


「いやあああ!」


 すごい形相で追跡してくる大男なんて怖すぎ!

 でもちょっと進んだところには、まだてくてく走っている子供達がいる。

 捕まった時間が私より長かったせいで、どうしても早く走れないんだと思う。


「あ、そうだ」


 そこで私には精霊がいることを思い出す。

 怖いけど立ち止まり、ウサギ精霊を拾って神聖力を分けながら頼んだ。


「お願い! この人倒して!」


 私からぴょーんとジャンプしたウサギ精霊。

 着地する時には他の二匹ほどが集まり、ふわっとその体積が増えたかと思ったら、一匹の巨大ウサギになっていた。


「うおっ」


 さすがの大男も立ち止まった。

 が、巨大ウサギは大男に向かって腕を振り払う。


 ドゴッ。


 すごい音がして、大男がふっとぶ。

 呆然と見ている私達の前で、大男は彼らの秘密基地の屋根に落下してめり込んだ。


「ええと、ありがとう」


 あれで男はもう動けまい。

 ほっとしたところで、ウサギ精霊はぽよんという音と共に、元の三匹のウサギ精霊に戻る。

 そうして残る二匹の精霊と一緒に、近くの森へと姿を消してしまった。


 そう、いなくなったのだ。


 私は慌てて走る。

 思わず立ち止まっていた子供達にも急がせた。


「早く、隠れられる場所に!」


 もう戦ってくれる存在はいなくなった。

 自力でなんとかするか、運よく精霊花を見つけないといけない。


 そして運が悪いことは重なるものだ。


「おい、逃げてるぞ!」


 さすがに物音を立てすぎたので、あっさり見つかった。

 想像以上に拉致犯の一味は沢山いたようで、五人ほどがこっちに走って来る。


「ううう、ルディアス様来てないのかな。さっきの物音は何かの間違いだったのかな」


 喧噪が聞こえたし、鉄をぶつけ合う音もあったからきっと誰かが助けに来てくれたと思ったんだけど。

 でも今は走るしかない。

 だけど私の足だって速いわけじゃない。

 子供達から離れていた私に、拉致犯が追い付きそうになって……。

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