25:牢から脱出する方法
(あとは……ただ待ってていいのかわからない)
私としても、拉致されるとか初めての出来事だ。
ただ、私は長年敷地の隅で軟禁生活を送ってきたわけで。
だからこそ思いつく。
(見張りはきっといるわよね。ぱっと見はいなくても、廊下の向こうに必ず人がいるはず。逃げる時、その見張りが一番怖い)
ルディアス様が人手を集めて来てくれたとしても、ただ喜んでいてはいけない。
敵は必ず私達を移動させるか、いっそのこと始末しようとする可能性だってある。
(ただ、こっちに来るのは大人数にはならないはず。ルディアス様達の方に対処したいだろうから)
精霊使いが希少な時代だからこそ、それなりの人数の兵士を送り込んでくれる可能性は高い。
ただ、弟が同じ場所にいるとはわからないかも。
そうすると、ルディアス様は来ないかも……。
仕方ないだろう、家族の方が優先だものね。
しかも捕まっているのは、力なくうなだれる子供達と腕力がなさそうな女の私。
油断してくれていると思う。
そこで私が考えるべきは、私達が口封じに殺されるかもしれない場合に、敵を動けなくするか倒すこと。
「魔花があれば……」
忌避される植物魔花は、『見かけたら近づくな』という危険物だ。
でも精霊使いの私の場合は、使いやすい道具があるも同然。
かといってこんな屋内では……。
「ん?」
洞窟部分と建物の間のあたり。
天井に隙間があるせいで陽が当たって、植物がいくらか生えているんだけど……。
なんか、ちっちゃい黒い植物がある。
魔花は魔力が強い場所に咲く。
だから洞窟の中なんかにはあることが多いので、陽が当たるところにいるのはちょっと珍しい。
そのせいで小さいのだと思うけど、どうしてこんなところに生えているんだろ。
「まさか、洞窟で駆除された魔花の種があったのかな」
生き残った種が洞窟の端で芽吹くとか、ありそうだ。
他の草に紛れていられる間は良かったけど、成長しすぎて陽の光が当たり、伸び悩んでいるのかもしれない。
(使える魔花かな。そうだったら……)
私は一か八か、魔花を精霊花にすることにした。
ただし間に鉄格子がある。
手を伸ばしてもちょっと足りない……。
杖も拉致された時に落としてしまったので、自分の手か、魔力や神聖力の通りがいい物を使うしかないんだけど。
何かないかと探した私は、牢の近くに落ちていた枝を発見。
手首から指先ぐらいの長さがある。
それに自分の髪を数本抜いて、枝に巻き付けた。
「よし」
私は鉄格子の近くに腹ばいになり、枝を持った手を外へ伸ばす。
「レイナ様なにをしているんですか?」
「なにしてるの?」
クロトと、最初に話しかけてくれた女の子が聞いてくる。
「私に……ちょっと脱出にっ、使えそうなアテがあって。そこにある魔花を転化させられたら、もしかして……どうにかなるかもしれないから」
「脱出?」
言葉が聞こえた子達が、わらわらと私の側に集まってくる。
「上手くいくか、わかんないから、ちょっと待って……」
鉄格子の隙間から腕を伸ばす。
枝先が……よし、魔花に届いた。
まずは魔花の魔力を引っこ抜……くと枯れそう。
ちょっと魔力をあげておく。
魔花が元気になって、にょきっと三倍近くの大きさになった。
葉が増えて、黒い花が咲き始める。
(これだけ成長したら大丈夫)
そこに、さっきクロトから受け取った神聖力を全部流し込む。
「ピ、ピギィィィィ」
魔花がぶるぶる震えながら奇怪な声を上げた。
「ひえっ」
「やだーこわい」
近くにいた子供達が後ずさりする。
そんな中、魔花の様子が次第に変わっていく。
かすかな「グギギギ」という断末魔とともに、枝が触れた場所から白く変わっていった。
葉はふわりとした被毛を持つ肉厚な物に。
そして花もふわふわとした白い色になった上で……ぴょんと、茎から外れて一匹のウサギのようになる。
ウサギ姿の精霊になる花だったようだ。
「かわいい」
子供達が興味津々になって、また近づいてきた。
ようやく精霊花に転化し終わった私は、ふっと息をついて起き上がる。
「ふぅ。さて、逃亡に協力してくれるかな……よし、おいでおいで」
手の平に神聖力がにじみでるようにして、ぴょんぴょんしている精霊ウサギを呼ぶ。
神聖力にひかれてか、素直にやってくる精霊ウサギが五匹。
牢の中に入って私の側にそろったところで――建物側の扉がガタガタ言い始めた。
慌ててスカートの下にウサギを隠す。
周囲の子供達も慌てて私から離れた。
ややあって、ガタついていた扉が開く。
「物音がしたんだが……ちっ、こいつか?」
大柄でやけに鼻だけが大きい男は、にらみつけながら牢にいる私達を見まわし、最後に精霊花に目を止める。
「なんだこれ、カビか?」
ふわふわの被毛がカビに見えたらしい。
精霊花がショックを受けたようにびくっとする。
ちょっと可哀想だ。
男がナイフを取り出して切り取ろうと手を伸ばした。
けれど精霊花はすぅっと空気に溶けるように消えてしまう。
「おあ?」
男は幻でも見たのかと目をまたたき、周囲を見回し、頭をかきながら立ち去った。
扉がもう一度閉まって、私は長く息を吐く。
精霊花が無くなったのは、すでに精霊を生み出したからだ。
ウサギの方が本体だから問題はない。
それでも見つからずに済んだことにホッとした私は、座り直して隠していたウサギ精霊と再対面した。
「精霊さん、私達は助けが来たらここから出たいのだけど、協力してくれる?」
私は肝心なことをウサギ精霊に聞いてみる。
するとウサギ達は話し合うように鼻をふれさせながらぷむぷむと鳴き交わし、全員がぽんと前足を私の差し出した手に触れさせて答えてくれたのだった。
……たぶん、いいってことよね?




