23:拉致された先にいたのは
私は布袋に入れられたまま、しばらく運ばれた。
ややって降ろされた。
というか馬に乗せられた?
「商品になるんだから、痛まないように運べ」
そんな声が聞こえて、馬に乗った誰かに抱えられる。
……それにしても、揺れ具合が酷い。
なんだろう、普通の道を進んでいるわけじゃないの?
そんなゆらゆらと具合の悪くなりそうな状況を耐え抜くと、ようやくどこかへ到着したみたいだ。
「子供のいる牢に一緒に放り込んでおけ。明日には中継点に運ぶからな」
誰かの指示する声。
「買い手はもう、明日くるんですかい?」
言葉遣いからして、これは手下かなんかの声なのかな?
「そうだ。他の子供達と、始末したい人間を全て渡して、金を受け取った後で買い手ごと……な」
「なるほど、それで俺達の足がつかないってわけで」
「これで依頼主の方も依頼したことを誤魔化せるんだからな。言われた通りにするとはいえ、よく考えたもんだよこんな方法」
ひっひっひっひと二人が笑い始める。
(ものすごく断片的な話だけど、少しはこれから起こることが予想できるようになったわ)
たぶん、私をさらったのは誰かから依頼されたこの人達。
そして本物の人買いに売り払う。
人買いは何も知らずに私や他の子供達を買い取って、さぁ市場がある国へ……というところで、全員まとめて殺されてしまうんだろう。
(そう。たしかにこの二人の言う通り、売られた後に殺されたら、誰が本当に私をさらわせたのかわからなくなる)
黒幕を隠すにはうってつけだ。
(……絶対に、売られる前に逃げないと)
そうは思うが、袋の中ではなんともしようがない。
この袋も、中に小麦が入っていたんだろうか、そんな感じの匂いとホコリや土に麦の破片があって苦しい。
とにかく早く出してくれと思っていたら、やがてどこかに降ろされて、ようやく袋から出ることができた。
「ふん、そこで大人しくしているんだな」
そう言ったのは、空の袋を持つ見知らぬ男性。
大柄で短く刈った髪の、たぶん肉体労働をしていそうな体格の人だ。
服はけっこうボロボロ。
服を買ってもらえなくて、古い服を手直ししたり、母の服を着てしのいでいた私よりもずっと擦り切れたりしていた。
でも革の胸当てなんかの防具や靴はいい物を身につけてる。
(乳母がこっそりくれた冒険物語で、こんな描写があった気がする。用心棒とか、冒険者稼業をしてる人は服より防具の手入れに気を払うんだって)
冒険者らしい、腕に覚えのある人達を雇ったのが、依頼人である黒幕。
(一体誰が……。恨みを買うほど人と交流がない。思い浮かぶのは、先日捕まえた詐欺師の仲間か、父か……)
私はとりあえず起き上がることにする。
転がされたのは、ひんやりとした土がむき出しの地面だ。
まずは顔や髪の小麦やほこりを払い落して、周囲を見る。
私がいるのは、ゴツゴツとした岩肌が露出した洞窟だった。
自然の洞窟をそのまま利用して、牢を作っているらしい。
鉄格子の向こうは木造の家になっていて、住居部と洞窟の間は短い廊下でつながっている。
薄暗い洞窟だけど、住居部の廊下の作りが荒くて、天井の隙間から光が漏れてくるのでそれなりに周囲が見える。
湿った土と苔の匂いの中、自分の背後に沢山の気配があった。
振り返ると、そこにいたのは十数人の子供達だ。
衣服は千差万別。
丈夫そうな服を着た平民の子と……それより多いのは、端が擦り切れた服の子。
貧しい家の子か、路上生活をしていた子だろうか。
(こういう子をさらって売る、人身売買をする商人がいるって乳母が言ってた)
乳母を雇うのにも父はお金をケチり、母は平民あがりの乳母を雇うことにした。
体が丈夫で、一応貴族の家で小間使いをしていた経歴があったその乳母は、貴族のことも知識があったし、同時に庶民の生活についても色々と私に教えてくれていた。
本当のところ母は貴族出身の人を選びたかったようだけど、おかげで私は色々なことを推測したり、覚えなくてもいい状態になっているので良い人選だったんじゃないかな。
子供達は皆、怯えきった瞳で私の方を見ている。
一人だけ大人みたいな私が来て、異変が起こったと認識したんだろう。
捕まって監禁された時、しかも人身売買されることとなったら……真っ先に怖がるべきなのは、異変だ。
一人だけ連れだされて、今にも売られてしまうかもしれない。
ただ、中に勇気のある女の子がいた。
「お姉さんは、だれ? お姉さんも捕まったの?」
擦り切れて、薄暗い中でも色がほとんど黒い服を着ている。
たぶん、路上生活をしていた子なんだろう。
色々飲み込んで生きて来たのだろう、十歳ぐらいとは思えないどこか虚無の漂う表情をしている。
「私もね、捕まるのは五回目なんだけど、今回は逃げるの難しそうよ?」
……脱走のベテランだった。
私は情報も欲しいし、ベテランのこの子が脱走が難しいと判断した理由が知りたくなった。
「どうしてここは逃げるのが難しいの?」
おしゃべりがしたかったのか、女の子は乗ってくれる。
「あのねぇ、まず閉じ込められた部屋が地下室並みに壁を壊したりできないし、空気を入れる窓もないの」
小さな窓があれば、子供達が協力して誰かが外に出て、紐を探してきてそれで全員を脱走させられる。
女の子はそう言った。
「鉄格子も問題。この鉄びっくりするぐらい頑丈なの。あと、魔法の素質がある子がいないから、鉄も曲げられないし」
なるほど、五回のうち一回は一緒に捕まった子供の中に魔法が使える子がいたらしく、それで鉄格子を抜けられたようだ。
「あと鉄格子を抜けても、そこの廊下の左右はちょっと壁が厚そうだったから壊せないし、天井の板を壊したら音が響いて見つかっちゃう」
さすが脱走のプロは賢い。
感心しつつ、私でもこれではお手上げかと思ったところで、せき込む音が聞こえた。
会話をしてくれていた女の子が、後ろを振り返る。
女の子の後ろに、寝かされている子がいたようだ。
「大丈夫? ……熱下がらないね」
そうこぼした時、女の子は一番悲しそうな表情をしていた。
「病気の子がいるの?」
女の子がうなずく。
「元から具合が悪かったのに、家から誰かに運ばれて来たんだって」
「家からさらわれたの?」
「たぶん、お金持ちの家の子だよね。でもこんなに具合が悪いんじゃ……」
「ちょっと見せてもらっていいかしら?」
私は気になって病気の子の様子を見ることにした。
神聖力をちょっとだけなら出せるので、上手くいくと一時的に体力を上げることができるから。
そうして覗き込んでみた私は、目を瞬いた。
(ルディアス様……に似てる?」
銀の髪、うっすらと開いている紫の瞳、そして顔立ちはずっと幼いとはいえ、ルディアスにそっくりだ。
そこで私はふと思い出した。
ルディアス様の弟が、家からさらわれて亡くなったという話を。




