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しがない悪役令嬢ですが今度こそは幸せになりたい ~義妹に立場を奪われた私、死に戻ったので精霊使いとして生きようと思います  作者: 奏多


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21:指輪

「ここはもういい。町中を巡回してから撤収するように」


 ルディアス様が兵士達に指示している。

 兵士は敬礼した後、素早くこの場から移動していく。

 残されたのは私とルディアス様だけだ。


 町の端だから他に人はいない……騒ぎを聞いて、巻き込まれないように家の中でじっとしているだけかもしえれないけど。


「あの、ありがとうございます。ご迷惑ばかりかけて……」


 私はルディアス様に深々と頭を下げた。

 兵士まで使って、父を追い払ってくれたのだ。

 しかもルディアス様を矢面に立たせてしまった。


(ルディアス様の役に立つことなんて詐欺師を捕まえる手伝いをしたくらい。それなのに、私と契約していると言って、私の庇護者だと名乗り出てくれたのだもの)


 今後のことを考えると、二重に申し訳なかった。

 しかしルディアス様はきっぱりと言う。


「迷惑ではない」


「でも、領地内で騒ぎを起こしてしまったから、助けてくださったんですよね? そのために私が伯爵家と契約しているだなんて話を……」


 言葉の途中で、ルディアスが紙を差し出して来た。

 小さく巻かれている羊皮紙。

 開いてみると、書かれているのは――。


「精霊使いレイナ・ミア・フロースとの契約……?」


「これを渡そうと思ってルーフェンの町に来ていた。領内で仕事をするにも、ほぼ精霊使いが国内にいない状態では、何か問題に巻き込まれないよう後ろ盾になる者を明確にしておくべきだと思ってな」


 聖騎士が後ろ盾なら、ほとんどの貴族が文句をつけられない。

 なにせ聖騎士との間に問題を起こしたら、それは聖王国とも、神教とも敵対することになりかねないからだ。


(魔物除けによって守られて暮らしているのに、それは死活問題だから……。なんて協力な守護なんだろう)


「本当に感謝いたします。こんなにもしていただけて……。精霊使いの能力があって本当に良かった」


 御礼を言ったが、どこかルディアス様は不満そうだ。

 なんでだろうと思っていたら、ルディアス様がちょっと顔をそむけて言う。


「私は……精霊使いのことがなくても、必ず君を助ける」


「え」


 それはどういう?

 精霊使いじゃなくても、助けてくれる……。

 まるで絵物語の騎士みたいな言葉だと思って、私は一瞬ぼーっとしかけたけど。


(いやいやいやいや。一度助けたことがあるのに、そんな相手がほら、誘拐されたり怪我をしたら嫌じゃない? そういうことよ。そういうことよ……ね?)


 まさかと私は自分に言い聞かせながら、送っていくというルディアス様と家路につくことになってしまったのだった。


 ※※※


 そんなことがあったので、ルディアス様には外出や採取は気を付けるように言われていた。

 しかも兵士の定期巡回つき。

 私も父に誘拐されたくないので、ルディアス様と確認しあったうえで、家の周囲に防犯の精霊花を置くことにした。


 そのための魔花、もしくは精霊花を探しに出た。

 ……もちろん、ルディアス様と一緒に。

 山道を歩きながら思う。


(ルディアス様……二日に一度はここに来てるけど、仕事は大丈夫なのかな)


 伯爵本人が判断することはあるだろうし……、部下が優秀なら夜遅くまで文書を読んだり書いたりする必要はないだろうけど。

 だからって、昼間にほいほい外へ出歩けるかというと、ちょっと違うような。


(あ、でもルディアス様は社交をしないとか、色々聞いたことがあるから……。意外と時間があるのかも?)


 でも聖騎士として、神殿に行ったりもするだろうし……と考えていると、持っていた杖の花がふりふりと動く。

 元は精霊花で作っている杖は、精霊花が近くにあると反応を示すのだ。


「近くに精霊花が……あ」


 藪を越えていくと、木立の中に大樹があった。

 大樹には絡みつく金色の蔦が無数にあり、金の鎖で彩られているようだった。


「あれは精霊花か?」


「はい」


 金の蔦には、葉と見まちがいそうな花がついている。

 側に寄っても攻撃することはないし、ふわりと周囲に白い光の粒が浮かんでいて綺麗だ。

 魔花ではなく、精霊花があるのは珍しい。 


「私と一緒に来てくれる?」


 神聖力を杖先に集中させ、言葉をかけながら触れる。

 すると一枝。二枝と、ほろほろといくつかの枝がするりと分離して落ちて来る。

 受け止めるのは、ルディアス様も手伝ってくれた。


「これはどうする」


「あ、この籠にお願いします」


 土ごと草を編んだ鉢に入れて持って帰るつもりで、背負って来た籠に入れてくれるように頼む。

 全部で七つ。


「精霊花が見つかるとは思いませんでした。それに精霊花が沢山株分けしてくれて、良かった」


「この枝から、また花が咲くのか……」


「精霊ですからね。植物とは少し違いますけど、ちゃんと育てると一つ一つ別の精霊花になります」


 説明して、ふぅと息をついた。

 ほっとしたせいだろうか。


「ずいぶん疲れているようだ」


 ルディアス様がやや真剣な顔でいって、私の頬に指を伸ばして……触れる。

 ものすごく自然な動きで、私は止めることもできない。

 それに……。


(なんだろう、落ち着く)


 神聖力でも使っているのかな。

 そんな感じはしないんだけど……。

 困惑していたら、はっとしたようにルディアス様が私から手を離した。


「すまない。顔色が悪かったものだから」


 そういうことかと私は納得した。


「今まで定期的に歩いたり運動する生活をしていなかったんで、まだ体力がついてないせいかなと」


「それもあるだろうが、またしばらく浄化をしていないだろう。手を出すといい」


 言われて、私は差し伸べられたルディアス様の手に自分の手を重ねる。

 すっと体が軽くなる。

 こんなに違いを感じるのなら、浄化も必要な状態だったから疲れやすかったのかもしれない。


「ありがとうございます」


 手を離して御礼を言う私に、ルディアス様は「これを持っていなさい」と何かを差し出した。


 それは細い銅色の指輪だった。

 金のように目立つ物ではないけれど、赤い綺麗な石がついている。

 熾火のような赤い色なのに、透き通っている。


「神聖術が込められている。握りしめて念じると、異変があったと私が知ることができるようになっている」


「え!? それって神聖石を使った魔道具ですか? そんな高価そうなものはいただけないですルディアス様」


 魔石はけっこう安い物から超高価な物まであるけれど、神聖石は違う。

 全部が高価だ。

 それは神聖術を使える人が少ないから。

 魔物除けを神殿の神官だけが作れるのは、神聖術を使えるほど力の強い人のほとんどが、神殿に所属しているせいでもある。

 価値があるからこそ、神殿等で戦う力を学ばないと危険だから。


「先日のようなことがあった時、いつでも私が側にいるとは限らない。だから持っていてもらいたい。何かがあったとわかれば、私がすぐに動けなくとも、誰かを派遣することができる」


「そこまでしてもらうわけには……」


 遠慮する私に、ルディアス様が言う。


「精霊使いは希少で、神殿としても保護しておきたい存在なんだと、そう思ってくれたらいい」


 結果的に私は説得されて、その指輪を受け取ることにした。

 落とさないようにと指にはめてしまおうとしたら、サイズが一番合うのはなぜか右手の薬指だけだった。


 いくら世間にうとい私でも、ここに指輪をするのは婚約とかそういう意味は知っていた。


(たまたまよ……でもサイズを直すのって難しいよね)


 魔道具だから、宝飾店に頼むわけにもいかない。


(身を守るために必要なだけだから……)


 だから恥ずかしい気がしたけど、薬指に通す。

 それを見たルディアス様が、なぜか少し嬉しそうにしていたような気がした。


 前回の人生では、異性にときめくようなことはなかったから、なおさら新鮮な気分になった。

 不思議なことに、時間が経つとものすごく長く身に着けていたような、不思議な安心感がある。


「神聖力がこもっているせいなのかな」


 そういうことにしておこう、と私は思ったのだった。

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