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しがない悪役令嬢ですが今度こそは幸せになりたい ~義妹に立場を奪われた私、死に戻ったので精霊使いとして生きようと思います  作者: 奏多


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20/51

20:本当に追いかけて来た!?

 一瞬で、嫌な記憶がよみがえる声。

 思わず足を止めてしまった。


 まさかと思って振り返ると、そこには実父が、数人の私兵を従えて立っていた。

 王都にいるはずの父が、どうして……。

 と思ったところで、マリーシアの言葉が頭の中に浮かぶ。


(本当に、連れ戻しに来たの!?)


 そして父がじりじりと私に近づきながら、予想通りの言葉を口にした。


「この一か月ほど、あちこち探したぞ……。精霊使いが噂になっていると聞いて調べてみれば、やはりお前だったか。さあ、帰るぞ」


 当然のように命令してくる父に、私はじりっと片足を後ろに引く。


(マリーシアは嘘をついてなかったのね。だとしたら、私が……件の末裔だという触れ込みの精霊使いだったのも、本当だったの)


 まさかと思う気持ちがどうしてもぬぐえなかった。

 前回の二年間、私はずっとそう信じて生きていたから。


 ――本当のことを知ろうともせず、疑問も持たずに従っていたと気づいたら、自分が情けなくて辛かったから、そんなわけがないと思ったのだ。

 あんなに苦しい日々だったのに、騙されて耐えていただなんて。


 でも……。


(だからって、今の楽しい生活を捨てたくない!)


 私ははっきりと父に言った。


「私は戻りません」


 身を投げた時よりも、今の方が怖くない。

 なにより私には武器がある。


≪ぐるぐる巻きにしてやっても、いいんじゃなーい?≫


 なぜか覚えているあの言葉の通り、父のことは一度ぐるぐる巻きにしている。

 今度だってできる。

 私が一歩も引かないからか、父は渋面になる。


「親に向かって生意気な。お前を育てるのにどれだけの金を費やしたと思っている! そもそも貴族令嬢が自分で働いているなどとバレれば、どれだけ家に瑕疵がつくと思っているんだ! 連れて行け」


「伸びて」


 私はためらいなく、精霊花に指示した。

 指先から私の神聖力を受け取った精霊花は、素早くその蔓を伸ばす。

 四本五本と増えながら、父と伯爵家の私兵達に襲い掛かっていった。


「ひぃっ! なんでおまえがこんなことができる!?」


「やはりあれはまぐれではなかったんですよ伯爵様!」


 父や兵士が驚いて逃げ惑う。


「切り払え!」


「やっております!」


 父側の兵士が必死に剣で蔓を切り払おうとする。

 けれどその度に巻き付き、一人二人と、蔓との引っ張り合いで手がふさがっていく。


 一方で、私の方もじわりと額に汗がにじむ。

 精霊花が戦いつづけるために、私の神聖力が引っ張り出されていくからだ。

 でも無表情でいると、私が淡々と行動しているように見えたんだろう。

 父が怒鳴った。 


「くそっ、お前まで私の邪魔をするのか! 母親と同じだ……!」


「お母様に迷惑をかけたのは、そっちだわ!」


 病気になった時、お母様に医者を呼ぶのも渋って、薬代も渋った。

 そうしてお金がないふりをしてでも、お母様を合法的に殺そうとした。


(前の人生では信じたくなかった。いくらなんでも、そんな風に誰かを嫌うだけで殺そうとするなんて、ありえないって思いたかったから)


 でも私は処刑されそうになった。

 決めたのも、王子にそうするよう勧めたのも父。

 この人は、家族でも殺せる人なんだと、あの時に思い知ったんだ。


 怒りが沸き起こる。

 神聖力が尽きそうになったとたんに、残った魔力が私の体の中で渦巻きそうになった。

 精霊花は、兵士達を捕まえるだけでやっと。


 そして父は、私がそれ以上はできないとわかったのか、怒りで何も見えなくなったせいなのか……。

 懐からナイフを取り出して握りしめた。


「逆らうのなら――」


(まさか、今度は直接殺そうとするの?)


 びっくりして体が動かなくなる。

 父の方は私に向かって歩き出そうとして――何かにはじかれたように後ろに吹き飛んだ。


「んがぁあっ!?」


 驚きと、後ろに倒れた衝撃でおかしな悲鳴を上げる父。


「私の領地内で何をしている?」


 落ち着いた、でもいつもより低く冷たい声。

 振り返ったそこにいたのは、剣を抜いて立つルディアス様だった。


 ルディアス様の背後から、送れて青いサーコートをまとった兵士達が現れる。

 私の周りを囲むように立つ兵士達。

 たぶん、守ってくれようとしているんだと思う。


「お前は誰だ……っ!?」


 起き上がりながら罵倒しようとしたんだろう父は、ルディアス様を見て目を見開いた。

 唖然とした表情って、こんな感じなんだろうか。

 言いかけた言葉を忘れて、ぽかーんと口を開けている。


 ルディアス様は一歩ずつ足を進める。


「私の顔を見知っているようだな。では、ここが私の領地だということも知っているし……」


 私の隣に来た時、ルディアス様が私の肩に手を置いた。

 温かい。

 まだ安心できる状況じゃないはずなのに、なんだかほっとする。

 そんな私とは違い、ルディアス様は冷たい声音で父に言った。


「彼女は当家と契約している精霊使いだ。そうだな?」


 ルディアス様は、身に覚えのない契約なんてものを持ち出してくる。


(どういうこと? わからないけど、話を合わせておけばいい?)


 私はとりあえずうなずいた。

 当然父は叫ぶ。


「そ、そいつは私の娘なんです! 親が連れ帰るのは当然でしょう! しかも今はまだ16歳。未成年です!」


 私はぐっと歯を食いしばる。

 そう、貴族は平民よりも親の権利が強い。

 だから政略結婚なんてさせられるのだ。

 家を残し、継承していくことが領地の安定や王国の安定に必要だからと、それが認められている。

 そして貴族の成人年齢は17歳だ。


(私を連れ戻すのは簡単だったのを、忘れてた……)


 それを知ってたのかどうかはわからないけど、もっとマリーシアの警告を真剣に聞いておけば良かった。

 私は後悔していたのに、ルディアス様はそうではなかった。


「職を持ち、金銭を得る許可証を発行されている者は、未成年のうちには入らない」


(そんな法律があるの!?)


 ルディアス様の言葉に、私は驚いた。

 それならさっきからルディアス様が慌てもしない理由がわかる。

 すでに私は職を持ってる。

 金銭を得ているんだから。


(でも許可証なんてあったかな……)


 もしかすると用意しているのかもしれないけど。よくわからないから黙っておこう。

 父の方はそう言われても引かない。まだ食いつく。


「しかしそいつは貴族令嬢です! 平民のようにはいきません!」


「この職についての法律は、貴族だとか平民だとか区別はなく有効だ。……過去にこの法律が適用された例を知っているが、聞きたいか?」


「…………っ!」


 父は言い返せず、怒りで顔を真っ赤にするしかない。

 そこへルディアス様がたたみかける。


「これ以上、我が精霊使いを脅かすようであれば、領地侵犯として貴殿を拘束することにする。我が領土で騒ぎを起こしたのだから当然だ。しかしこのまま領地から去るのなら、今回のことは不問としよう。……どうする?」


 しばらくの間、父は下を向いて何かを考えていた。

 打開策がないか探していたのかもしれない。

 やがて何も思いつかなかったのか、絞り出すような声で言った。


「聖騎士様のおっしゃる通りにいたします……」


 父が私兵に引き上げると言う。

 それを聞いて、私は精霊花の蔓を元に戻した。


 蔓とずっと引き合いをしていた兵士達は、ほっとしたように剣を鞘に収め、父と一緒に立ち去っていく。

 その背中が見えなくなってから、ようやく私は溜め込んでいた息を吐き出したのだった。

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