19:精霊使いの末裔とは
自分がぽかーんとしてしまうのを感じる。
だって、他にすごい精霊使いがいるから、ずっと私のことを『役立たず』だの『もっとすごい精霊使いはいっぱいいるんだからな』と言われていたのに。
マリーシアはずばりと言う。
「お父様はお姉様を騙していたのです。お姉様の精霊花が売れるからです。伯爵家のいい収入になっております」
「ええええぇぇぇ」
なんと言っていいかわからない。
まさか聞き知ったすごい精霊使いが、自分だなんて思うわけがない。
だから半信半疑ではあるけど……でも、父が私を探す理由はこれなら説明できる。
(家出した日に、なぜか私を引き留めようとした理由もわかるわ……。そんな希少な存在なら、手元に置いておきたいでしょう)
でもマリーシアが嘘をついていたらどうしよう。
本気にして精霊使いとしてがんばる私を、どこかから笑いながら見ているつもりだとしたら?
悩みつつ、でもわざわざお店のリストまで渡して来るのだから……という気持ちの間で心が揺れる。
それをマリーシアは察したようだ。
「とりあえず持っていてくださいませ。あと、こちら使用人を雇うなど、物入りでしょうからお使いください」
マリーシアはキャベツが入っていた大きなカバンから、硬貨の入った袋を渡してくる。
口がゆるんだところから、金貨が入っているのが見えた。
「え? こんなに? どうやって……」
マリーシアがなぜ私にお金をくれるの!?
それをマリーシアは、出どころを知りたいのだと思ったらしい。
「お父様の刀剣コレクションをいくつか売り飛ばしましたわ。元々伯爵家の資産で購入した刀剣でしたし。いずれお姉様に爵位をお渡しするのですから、事前にお姉様のお手元に渡っても問題ありませんわ」
「爵位!?」
私、あの家を捨てて来たはずなのに。
マリーシアが私の立場になって、伯爵令嬢として相続人になるんじゃないの?
一体どうしてそんな話になったのか。
マリーシアはにこっと微笑む。
「かならず、お姉様に爵位をお渡ししますから、それまで絶対に無事でいてくださいませ」
それだけ言って。マリーシアは「では」と立ち去る。
青年に持っていてもらったキャベツを受け取って、抱きかかえながら。
「え、そのキャベツ、本当に持って帰るの?」
マリーシアの行動の変化や、おかしな言葉に頭が混乱し、ついそのまま見送ってしまったのだった。
「……うーん」
私もとりあえず帰り道につきつつ、つい考えてしまう。
(マリーシアが言っていたのは本当のことかな?)
でも、二年前に戻って来たあの日、感じた違和感にはこれで説明がつく。
父が引き留めるのなら、私になんらかの価値が必要なのだ。
マリーシアの立場を上げるためには、必要ない。
だけど精霊花が聞いていた以上の価値があって、しかも精霊使いが私以外に王都周辺にはいないのなら、追いかけてくるだろう。
「鉢植え一つで、金貨一枚の価値があるんだもの」
しかも光るだけの精霊花が。
綺麗だし、精霊そのものだと思えば価値はあるんだけど。
知らずに利用しようと思う人にとっては、ずっとついていてくれるランタンぐらいの認識になってしまう。
なのに金貨一枚だ。
「魔力が回復するとか、そういう効果がある物ってすごい高価になるんでは?」
高価な薬は、金貨100枚で買い求める人もいると聞いたことがある。
魔力の回復だけでも、金貨50枚とか出す人はいるだろう。
そんなのを販売したら、とんでもない収益になるはず。
マリーシアにあげるために私が咲かせていた精霊花だって、魔力を上げる花のことを誰も知らなかったという希少性もだけど……ものすごく高価ってことになるのでは?
「だったら連れ戻そうとしてもおかしくはない、か」
冷遇していたのは、やっぱり母のことが嫌いだったから?
「うーん、閉じ込めていたのは……私の独立を阻止しようとしたって方が正解かも」
売れるとわかって独立されたら、自分の収入にはならなくなるもの。
当然、搾取のためには『お前の精霊花は安いんだ』って洗脳しとかなくちゃいけないし。
だから情報を与えないように、部屋も外の倉庫にしてたんだろう。
「満たされた状態にして、飼い殺ししなかったのは、母とそっくりな私が気に入らなかったせいかな」
とにかく政略結婚相手の母を嫌っていた父。
母にも結婚当初から宣言していたし、母が亡くなるまでほとんど顔を見にも来なかったぐらいだ。
使用人達の噂話や母の話によると、良い仲だった女性は身分がない人だったようで、母との結婚で親に別れさせられたのが心底腹が立ったらしい。
「でも直後にマリーシアの母と関係を持っているんだから、元から貴族の女性が嫌いだったのかもしれないわね」
あと、お金への執着が強かったせいだろう。
私の母の家は没落寸前で、名誉しかもっていなかった。
それでお金のある父と、名誉を持参金に結婚したような感じだったと聞いている。
だけど父は、母にお金を使うのを嫌がった。
顔を合わせれば、母に「金食い虫が」「高い金を出してまでお前みたいな奴の服を買うなんぞ、もったいない」と堂々と言っていたぐらいだもの。
母が大人しい人だったら、何も言えずに食事すら出してもらえなかったかもしれない。
言い返せる人であり、堂々と権利を主張できる気の強さがあるからなんとかなった。
でも娘の私は、そんな母を失ったショックを受けている間に、悲しむ間もなく食事も減らされて……。
「そう、母みたいに強くならないと」
母には気質が違うから、無理はしなくていいと言われていたけど、そうはいかない。
流されるままだと、また前の人生みたいになっちゃう。
「まぁ、マリーシアの話も心に留めておこうかな。なんかすごく様子も変わったし、あの頃とは全然違うこと言ってるし」
本当に父が私を連れ戻しに来たら、それも困る。
そう思いながら、もうすぐ町の端にさしかかろうとしていた時だった。
「こんなところにいたとはな」
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