17:マリーシアと再会
「ほぅ、人が近づくと鳴るのですね」
ダントン商会の支店長さんが、しげしげと見ている。
顔を近付けたことで反応した鋼色の花を咲かせた精霊花が、百合咲きの花を激しく振った。
リンリンリンと音が鳴る。
精霊花だからこそなのか、不快なほどうるさくはなく、澄んだ音色は美しい。
「人が来たことを知りたい場所……店の前ですとか、侵入されたくない場所ですとか」
「そういえば防犯にもよさそうですね」
精霊花を持ってきたのは私なのに、その視点はなかった。
ついつい、防犯ということになると犯人を攻撃する必要があると思ってしまう。
支店長さんは笑顔で私に言った。
「今回もぜひ当店に置かせていただきたいと思います。最近は精霊花を求めてやってくる方が多くなりまして、とても評判がいいのですぐ売れてしまうと思いますよ」
「精霊花をここで売ってることが広まったんでしょうか?」
そう聞くと、支店長さんがうふふと笑う。
「先日の詐欺師の件でですね、精霊花が飛んで行った姿を見た人が多かったそうで」
町長の館は中心部にある。
そこへ大挙する兵士の姿に、町の人みんなが外へ出て様子を見に来てたらしい。
で、飛び去る精霊花の姿を見たそうだ。
燐光で光る精霊花は、夜空の中でとても目立った。
そして犯人が魔花を売っていたことを聞いた人達は、兵士から漏れ伝わってきた話で、精霊使いがそこにいて、魔花をたちまち精霊に変えたことや、鳥のように飛び去ったことも知った。
もちろん町の人には、ほいほい精霊花を買えるほど資産は持っていない。
でも、それを聞きつけた商人が来るそうだ。
(いつか商家の娘さんとか、大工さんや、宿の女将さんでも精霊花を買えるようになるといいな)
そう思うので、「ただ音が鳴るだけですし」と今回の精霊花は安くしてくれるよう頼んでおいた。
金貨一枚の半分――銀貨10枚で。
「防犯につかえるなら、なおさら安く買えると嬉しいよね」
ダントン商会から出て、そうつぶやく。
そして精霊花を買う人が多くなれば、精霊使いが沢山増えても、商売をして生きていけるようになるんじゃないだろうか。
母が、昔の精霊花はもっと安価だったと言っていた。
魔物除けが設置しきれていない場所が多いので、魔花を自力で駆除する人もいたし、精霊花をその途中で見つけて来る旅人もけっこういたから、市場に精霊花が多く出回っていたからだ。
一見すると精霊使いは食べていけなくなりそうだけど、魔物除けがない場所で魔花を駆除する方で賃金をもらっていたので、精霊花だけを売るわけじゃなかったらしい。
むしろ駆除のためにも、精霊使いはいればいるだけ良かったそうだ。
かといって魔物除けがない時、特に逃げ遅れるような女性や子供、病気や怪我をした人が犠牲になっていた。
そんな時代に戻ってほしいとは思わない。
だから、高く売れる場所と安く売ることで生活必需品にしてもらうことができれば、精霊使いが沢山いても、食べていけるようになるんじゃないだろうか。
「でも、キャベツほどは安くはできないし……って」
ふと道の途中で見かけた八百屋。
そこに、きらきらしたドレスの令嬢と、あきらかにお金持ちの子息とその従者達という目立つ集団がいた。
レース多めの薄紫のドレスは、素朴な町では花束を抱えているみたいに華やかに見える。
そしてストロベリーブロンドのゆるい巻き毛を半分だけ結って大きなドレスと共布のリボンを結んでいる。
(ままま、マリーシア!?)
どうしてこんなところにいるの!?
家から遠いっていうか、王都の外にまで出歩いてたの?
そもそもルーフェンの町って何か特別な観光地もなにもないんだけど、どうしてここに!?
わからないけど、ものすごく気まずい。
私の方は、前回の失敗した二年間の続きを生きてる気分なんだから。
マリーシアに嫌がらせをされ、父にマリーシアのために処刑されそうになった私。
今度は父もぐるぐる巻きにして脱出したけど、やっぱりわだかまりはある。
だからひっそり逃げることにした。
後ろを向き、ひっそりと小道へと駆けこんでほっとしたのだけど……。
「お姉様ぁぁぁん」
猫なで声と同時に、後ろから抱き着く腕。
「ひぃぃえええぇぇ!」
びっくりして、護身用に持ってきている小さなポット入りの精霊花をけしかけそうになってしまった。
あぶないあぶない。
「あ、ごめんなさい驚かせてしまいました。お会いできたのが嬉しくて!」
離れてくれたので振り返れば、頬に手を当てて恥ずかしそうにしているマリーシアがいた。
それにしても、ずいぶんとレースや織り模様の美しいドレスだ。
絶対に、郊外の普通の町へ出歩く時に着る服ではない。
(やだなぁ。また、服装のこととかで嫌味言われるのかな)
以前は、母のお下がりしかもっていなかった。
そんな私の服を見て、「私のをあげましょうか? でもサイズ合います? 胸のあたりにかなり詰め物をしないと……」と言われたことを思い出す。
その時に背後でくすくすと笑っていたメイド達の、ゆがんだ笑みも。
しかし予想は外れた。
「あのあの、お姉様! 会えたらお渡ししようと思っていたのですがっ」




