16:魔花の採取
あれからしばらくの間、私は精霊花を咲かせてはルーフェンの町で売っていた。
売り先は、もちろんダントン商会だ。
例の偽精霊花の一件があったので、支店長さんがとても丁寧に接してくれるからだ。
何より、ルディアス様が懇意にしているらしいので……。
(親切にしてもらったり、細かく配慮してもらったり、本当に至れり尽くせりだものね。そんな人を疑うなんてできない)
家の管理も完璧だった。
なによりベリータさんが日に一度、食事を作りに来てくれるのは本当に助かる。
掃除は見様見真似で覚えていたけど、料理だけはわからなかったから。
ベリータさんに料理を教わり、庭の手入れをして精霊花を植えられる場所を作り、家のことを把握して生活に足りない物を買い足す、という生活を続けていた。
初めてのことばかりなので、生活することに「慣れたな」と思うまでに三週間もかかってしまったけど。
それからようやく、自分で魔花を探しに行くことにした。
というわけで、お昼や水を持って探索。
魔除けがある場所でも、影響が薄いあたりには魔花がよくある。
一方で、魔物は少ない。
私でも小さな鉢植えに入れられる精霊花を持っていければ、対処できる程度だ。
「でも前は、こんな採取も一度しかできなかったのよね」
いつもは父が、どこからか魔花を手に入れて渡してきた。
どうやって手に入れてたんだろう?
まさか……と偽精霊花事件のことを思い出す。
「……もしかして繋がってたりする?」
まさかと思うけど、この間捕縛した偽精霊花で詐欺をした人達と父は共犯だったのでは?
「いや、父が魔花を私にもって来ていたのはずっと前からだったし……」
ルディアス様が尋問の結果を教えてくれたのだけど、彼らが詐欺師をし始めたのはつい最近のことだったらしい。
偽精霊使いが売って、賭場の主をしていた町長の執事ともうけたお金を分け合っていたとか。
だから私が精霊使いの術を使えるとわかってから、マリーシアがやってくるまでの間も、父は私に魔花を持ってきていた。
その間は、詐欺師のような人から受け取ったわけではなかったはず。
父は伯爵家の使用人に採って来させたのだろうか?
誰かに依頼してたのかな。
「同じことを思いつく人って沢山いると聞いたことあるものね。あと、私が身を投げるまでの間だったら、詐欺師の人達を利用してた可能性も残ってるか」
そう思いながら山の中を歩くと、すぐに息が上がる。
元々、敷地内から出ない生活をしていたし、浄化を知らなかったので終始具合が悪かったせいで、あまり運動というものをしていなかった。
だから体力がない。
「でもこれからは、がんばらないと」
そうしてくじけそうな自分の足を励ましつつ、なんとか魔花を見つけた。
三つ咲いている。
百合咲きの黒い花が、日向を避けるように、岩と岩の間にいたのだ。
「暴れる子かな。そうじゃないといいんだけど」
ひとまず杖を近付けると……。
ちょこちょこちょこ。
逃げた。
根を張っているのではなく、地表にそっと置いているだけの魔花らしい。
だから根がうねうねして移動するのだけど、速くはなさそう。
「では」
私は背負っていた柳の籠から網を出し、ばさっと上からかける。
魔花は丈夫なので、多少乱雑にしても平気なのが有難い。
それでも網は細い糸を編んだような軽い物だ。
網の中で、じたばたと魔花がもがいている。
やがてぼふっと黒い炎を上げる。
網が焼かれて消えていくので、私は水筒の中に杖を突っ込んで、神聖力を送り込んでから魔花に撒いた。
ジュッ。
一気に火が消えた。
ちょっと焦げた匂いがしたけど、問題はなさそうだ。
びっくりした様子の魔花を、杖先で叩くようにして神聖力を与えて制止させてから、背負い籠に入れてしまう。
よしよし、いいのが採れたかも。
意気揚々と引き上げた私は、さっそく精霊花に転化させる。
このタイプの魔花は初めて見るので、過去の精霊使いの記録に載っていた通りになるかわからなかったけど……やっぱりちょっと違う?
「記録しよ……」
違うタイプの精霊花だったようなので、姿や状態を記録しておく。
でも、人の手に渡しても問題なさそうな精霊花だ。
「よし、売ろう」
そもそも自分で精霊花を売って、そのお金で暮らしていくつもりだったのだ。
ベリータさんも自分で雇えるようになりたいし。
「やっぱり申し訳ない気持ちの方が強いし、どうしてここまでしてくれるのかと思うし」
ルディアス様に寄り掛かりすぎて、自分がそれに慣れるのがなんだか怖い。
全て頼りきってしまいそうで、でもそれは怖くて不安になってしまう。
「信じていい人だってわかるけど、そこまで厚遇してもらえるほど、貢献できてないからなぁ」
返せないことが、後ろめたい。
ルディアス様は「精霊使いを支援したい」という目的があるみたいだけど。
なにせ精霊使いがほぼ見当たらない状態になってしまっているから。
「でも、精霊使いがいなくなるのも仕方ないのよね」
精霊を生み出す花、精霊花。
もともと、魔花は精霊花が魔力に汚染されて変質した物。
だからこそ魔力を引き出し、神聖力によって転化させて精霊花に戻している。
精霊使いの存在意義は、魔花による被害を軽減する、魔物退治のような物。
そして精霊花からだけ作られる薬もあったり、先日の商人のように火ではない光源になったり、という物だ。
でも、魔物除けがあれば魔花が人家に近い場所に自ら根を下ろすことはない。
そして薬も、効果は落ちるけれど代替物を薬師が作れる。
防犯になる物も、貴族やお金持ちなら人を雇えるし、貧しい人はそもそも精霊花を手に入れられない。
代わりになる物がありすぎるのだ。
代えられない品だってあるけれど、少ない。
だから必要がないと思われるようになっていってしまった。
「でも少数が繋いでいくなら、やっていけると思うのよ」
買いたい人が少数なら、少ない人数の精霊使いでも収入が得られるはず。
あと一つ、気になることもある。
「精霊使いの末裔ってなんだろ」
その人の花が、貴族の間でやりとりされているらしい。
希少品だからと、すごい値段がついているんだとか。
詐欺師達は、精霊使いの末裔が誰だかわからないからこそ、精霊使いを庶民相手に騙ったところで問題にはされないと考えたと聞いている。
貴族を騙すとひどいことになるだろうけど、庶民が騙されるだけなら鼻で笑われるだけだろうと。
当の精霊使いの末裔の精霊花は、本物なんだとか。
「末裔が沢山いて、それを知っているから父は私の精霊花なんて、初歩の初歩だと怒っていたのかな」
だとしても、伯爵家の収入にはなっただろうに。
ダントン商会に何度売っても、対価に差し出されるのは金貨だし、それが正統な値段だと言われたのだから。
「でもそう。庶民には手に出しにくいかも……」
特に薬とか。
本当に必要な人の手に渡るのが一番なのに、病気の人が手に入れられずに、間に入った人間が搾取するので意味がない。
そのうちにいい方法が思いつくかなと思いつつ、町へ出かけることにした。
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