15:偽精霊使い、追跡される 2
見覚えのある男だ。
たしかダントン商会で、めんどくさいことをした娘の横に立っていた。
顔も服の質もいいとこからすると、貴族のボンボンかもしれない。
娘にいい顔をしようと精霊花を買おうとして、騙されたとでも思ったんだろうか?
「でも脅せばなんとか……っ!」
持っていた短剣を鞘から抜き、一気に襲い掛かる。
しかし一瞬で、その短剣は弾き飛ばされたうえ、ニッキー自身も蹴り倒された。
「うごっ」
衝撃にうめき声も満足に上げられない。
助けを求めようにも、隣にいたはずの賭場主は、なぜか縄のような物に何重にも巻かれて動けなくなっていた。
(何が起こったんだ!?)
目を白黒させていると、男が兵士に命じてニッキーを縄で縛らせた。
「さて、魔花の売買について聞かせてもらおうか」
ニッキーを倒した男がそう言う。
「ななな、なんのことでしょう?」
(こいつ貴族なのは間違いないが、兵士を顎で使うってどういうことだ? 伯爵家の親族か?)
とにかく誤魔化すニッキーに、男は表情も変えずに続けて言う。
「我が伯爵家の人の生活圏に、魔花を持ち込んだ罪で捕縛する。人を害する可能性がある物だったため、この件に関する懲役は10年になる」
「え? は?」
そもそも我が伯爵家って、この男まさか、伯爵本人か?
ニッキーは驚いてそれ以上言葉が出ない。
「じゅじゅじゅ、十年!? あの臭い牢で十年!」
ぐるぐる巻きにされた賭場主が叫んだ。
でもなんだか、巻き付いているのは植物のように見える。
伯爵と思われる男は、そんな賭場主に哀れな者を見るような目を向けた。
「お前はそのうえ、町長が病気なのをいいことに、運営から証印までを勝手に利用した罪、違法賭博を行っていた罪も重なる。処刑の方が嬉しいのならそうしてやろう」
「ひっ!」
次に視線が向けられたニッキーも背筋が伸びる。
「お前は魔花を持ち込んだうえに、詐欺を働いたのでさらに上乗せされて計二十年の懲役だ。それが嫌ならば、鉱山で十年働くかを選べ」
(お、終わった……)
ニッキーは足から力が抜け、その場に座り込む。
※※※
「見事だな、精霊花の操り方が」
犯人達が乗った護送の荷馬車を見送りながら、ルディアス様は私にそう言った。
「あ、ぐるぐる巻きですか?」
魔花が関わっていることなので、その処分のためにも私は犯人の捕縛についてきていた。
こんなに早く捕縛できたのは、ルディアス様の迅速な行動のおかげだ。
ルディアス様は昨日のうちに、詐欺師は見つけていて、仲間がいないかを配下に探らせていた。
どうやらニッキーという名の詐欺師が出入りをしていた賭場があるらしく、そこはどうも町長の館らしいと聞いて、一斉捕縛と病床の町長の状態を確認するため、ルディアス様自ら来ることにしたらしい。
もちろん、ルディアス様だけでも魔花のことはなんとかできるけど。
「珍しい魔花はあったのか?」
よければ私に譲ろうと思って、声をかけてくれたらしい。
森や荒れ地に行って、魔花を探しながら魔物と戦うよりは安全だろうと。
私としても、苦労せずに魔花を手に入れられて嬉しい。
いつかは自分の足で探さなくちゃいけないけど、最初は引っ越した家での作業に慣れておきたいと思っていたのだ。
そのついでに詐欺師と一緒にいて、こっそり逃げようとした男の人を、持ってきていた精霊花の蔓でぐるぐる巻きにしておいたのだけど。
これもうまくいって良かった。
そうそう、新しい魔花の話だった。
「三つも置いてありました。たぶん、他の町でも同じように魔花を売っていたかもしれません。どれも比較的おとなしい、変に触らなければ攻撃しない魔花なので、幸運なことにまだ問題が起こっていないかもしれませんが……」
「明日、すぐに他の町へ探しに行かせよう。あと、魔花はこちらで運ばせる」
「ありがとうございます! あ、でも一個だけはここで精霊花に転化してしまいたいんです」
ルディアス様が首をかしげた。なぜなのかわからないからだろう。
「すぐに『飛び去ってしまう』花なので」
「なるほど」
ルディアス様の了解がとれたので、鉢植えを一つ持って来る。
他の鉢や、賭場にいた人達を捕まえた兵士が少し離れた場所を通る中、私は鉢植えのチューリップみたいな赤い花に杖で触れる。
弱い魔花だからか、何をされるのかと震えるだけだ。
でも花は魔力を持っている。
じわじわと闇色の煙を出して、自分の姿を覆い尽くそうとしていた。
私がそこに神聖力を込めていくと、やがて煙が消え、花はすぅっと氷のように透き通っていく。
花や葉、茎までが透き通ったところで、その姿が変わった。
薄くその形が変わり、花弁が二枚ずつ、ふわりと浮きながら羽ばたく。
白い燐光を発しているから、夜の中でもとても目立つ。
葉も、茎は形を花弁のように変化させて、同じようにぱたぱたと宙を舞った。
そうして空へと飛び去っていく。
「飛ぶ花なのか?」
飛び去った方向を見上げているルディアス様の言葉に、私はうなずいた。
「はい。あの花は転化すると精霊そのものになって飛び去ってしまうのです。管理が悪くて枯れそうになっていたので、すぐ動けるようにした方がよさそうだったので……」
その言葉を聞いたからかもしれない。
頻繁に見られるわけではない精霊の姿を、視線で追っていた兵士達がつぶやいていた。
「あれが精霊……」
私のような人が『精霊使い』と呼ばれるのは、精霊花が花の形をした精霊だから。
その花を咲かせて、精霊が生まれる手伝いをするから、精霊使いと呼ばれる。
花の形だと、精霊だというのが実感できないのかもしれない。
だからこそ空を自由に飛ぶあの精霊の姿は、とても興味深かったのかもしれない。




