14:偽精霊使い、追跡される
「なんなんだあの女……」
偽精霊使いとバレたニッキーは、隣町の酒場まで逃げてきて、息をついていた。
強い酒が喉を焼いていく感覚を味わって、ようやく逃げ切れたと感じた。
「くそ、魔花だってばらされるなんて思うわけないだろ」
こうなるきっかけは、ちょっとした幸運に恵まれたことだった。
街道の魔物除けがある場所を踏み越えると、時々見つかるのが魔花だ。
ちょっと変わった花は、たいてい魔花だが……一度幸運なことに本物の精霊花を見つけたことがある。
それを売ったら、とんでもない大金になった。
浮かれて、酒と女に使ったあげく、いい気分で賭博にまでのめりこんだ。
結果的に丸裸にはされたものの、賭場の主が幾分か勘弁してくれたのも幸運だったとニッキーは思う。
賭場の主はニッキーが急に金回りが良くなった理由を聞いた後、もう一度お金を手に入れるいい案をくれたのだ。
「いいかニッキー、どうせ本物の精霊花のことを詳しく知っている奴ぁ、お貴族様だけしかいねぇ。天上の世界の方々の間では、『精霊使いの末裔』の精霊花が出回っているらしいが、平民はそんなのに縁もないからな」
賭場の主の話は、ニッキーもうっすらと聞き知っていた。
どこかの貴族に囲われている『精霊使いの末裔』という存在。
そこから譲り受けた精霊花が、時々貴族のごくわずかな人物の手に渡るのだ。
「だから、平民の行く店に『精霊花』だっつって、買い取らせるんだ。なぁに、魔花っていったって、攻撃したりよほどの衝撃を与えなければ大人しい奴はいる。そういうのの中から、比較的綺麗な奴を売るんだよ。同じ店では二度も三度も売れないかもしれねぇ。だから店は変えるんだ」
魔花は、賭博主が調達してくれることになった。
苦労しない分、金額は折半。
それでも精霊花なら、かなりの金額が手に入る。
ニッキーはさらに金回りが良くなった。
おかげで服も高い物に変えられたし、買い手の信用も得やすくなった。
そんな時に、『もしかして、あんたは精霊使いなのかい?』と言われて、ついうなずいてしまった。
以来、それもいいかと思って精霊使いを名乗った。
すると商人が買ってくれることが増えたのだ。
偽精霊使い業は、ぼろもうけができるいい仕事だったのだが……。
「まぁいい。他の町へ行くさ」
この町は隣だから近すぎる。
だから一つ向こうの町へ行こう。
「その前に賭場主に、次の魔花をもらいに行くか」
酒場を出たニッキーは、この町の町長の家へ向かう。
裏手へ回り、町長の館の一画へ。
倉庫に入ると、そこには複数の人間がいくつかのテーブルでギャンブルを楽しんでいる。
ほとんどが町長の使用人。
そして町のいわゆる無法者として、いつもはしかめ面をされながら道をうろついている者達だ。
「ニッキーじゃねぇか」
声をかけてきたのは、この賭場主。
町長の館を取り仕切っている執事だ。
賭場なんて敷地内に作っているだけあって、衣服はいつ何にでも対応できるようなスーツを着ていても、腕をまくり上げ、片手に持っているのは酒だ。
一応周囲には内緒の話なので、賭場主はニッキーに近づいて一緒に隅へ行く。
「今度のはうまくいったのかよ」
ささやく声で問われたのは、首尾についてだ。
「なかなか買ってくれないうちに、枯れてさぁ。例のアレ、新しいのはあるか?」
「ちっ、元手はかかってないって言っても、人に採りに行かせてるから面倒なんだからな?」
嫌そうな顔をしながらも、賭場主は魔花を置いている場所へ連れて行こうとした。
――その時だった。
倉庫の扉が勢いよく開かれる。
「詐欺および違法賭博で摘発する!」
そう言いながらなだれ込んでくる兵士達。
揃いのサーコートは黒地に青い鳥と剣の紋章が描かれている。
「伯爵家のガサ入れだ!!」
誰かが叫んだとたん、驚きで動きが止まっていた者達も一斉に逃げようとした。
しかし入口はもう塞がれている。
無法者達も剣は持っていたが、訓練された兵士達によって制圧されていった。
ニッキーと賭場主は、慌てて奥へ逃げた。
「一体どうなってるんだ!?」
「わ、わからねぇ」
賭場主が混乱しながら怒り狂っているが、ニッキーはそう言うしかない。
ただ、昨日のダントン商会にいた娘のせいではないか、という考えが頭の中をちらついている。
最初に詐欺だと言っていた。
魔花を売った件しか、該当する物が思い浮かばない。
「でもなんだって……」
どうしてここが魔花を一時保管している場所だと知っていたんだ?
混乱しつつもニッキーは賭場主と裏手へ回り、奥の勝手口から外へ出たのだが。
そこにも人が立っていた。




