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しがない悪役令嬢ですが今度こそは幸せになりたい ~義妹に立場を奪われた私、死に戻ったので精霊使いとして生きようと思います  作者: 奏多


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12:お店の精霊花は……

 支店長は奥のカウンターへ向かい、周囲の店員に案内され、私とルディアス様はその前の椅子に座る。

 お茶が運ばれてくる中、支店長は専門道具らしい小さなルーペ等を使い、石の鑑定を行い、ネックレスの裏を見たりと真剣な表情で作業をしていた。

 やがてすっきりした顔でこちらを見る。


「鑑定が終わりました、お嬢様。こちら王都西の宝飾工房で作られた品でございました。石もルビー、水晶、そして金具は金でございます。こちらとてもデザインが好評な工房でのお品ですので、評価額はこちらほどとなります」


 支店長が近くの紙に書いてくれたのが、およそ金貨にして30枚。

 うわぁぁ、三十枚!

 よくわからないけど、なんだか沢山! きらきらした金色が両手いっぱいにあるだけでおどおどしてしまう。


「金額が良ければ、財布に入れた方がいいと思うんだが。おそらくそれくらいの価値で間違いないと思う」


「わ、そうでした。教えてくださってありがとうございます」


 ルディアス様にお礼を言って、私は財布にする革袋を取り出した。

 宝石も一緒に入っているのを見たルディアス様は、支店長に指で合図し、何かを持ってこさせる。


「お嬢様、こちらお使いください。当店で扱っております財布ですが、硬貨がこぼれにくいことや、すりなどからも守れるようにしていることで、好評いただいている物です」


 差し出されたのは、ベージュ色の革財布だ。

 開閉する部分に可愛らしい花の刺繍が入っていて、端には鎖が繋がっている。

 この鎖を、ベルトなどにつなぐことで盗難防止ができるらしい。


「ありがとうございます。おいくらですか?」


 商品なら買わなくちゃいけないだろうと思ったけど、支店長は首を横に振った。


「いいえいいえ。お客様への、これからもご愛顧いただけるように願っての贈り物でして」


「でも高価そうですが……」


 お店のプレゼントにしても、こんなによさそうな物をもらっていいんだろうか?

 価値とか私にはわからないけど、パンより高そうなのに。

 そこにルディアス様が割って入ってきた。


「それより、精霊花について聞いてはどうだ? 支店長、先日ここで花を扱い始めたと聞いたんだが」


「はい、つい昨日も置いてくれという精霊師が来まして。光に当てておくようにという注意書きがありましたので、そちらに……」


 支店長が手で指示したのは、さっき見かけた植物が置いてあるスペースだ。


(え? 精霊花があるようには見えなかったけど)


 内心で首をかしげつつ、教えてくれた精霊花だという物に近づく。

 窓際の光が当たる場所で咲いているのは、可憐な青い花だけど。


「あの、これ本当に精霊花ですか?」


「……普通の植物なのか?」


 ルディアス様が聞く。

 すると支店長が、慌てたように手をわたわたと振りながら説明してくれた。


「私どもには精霊花だというのは判別がつきませんが、こうすると不思議なことがおこるので、ただの植物ではないと思いまして……」


 支店長が花をつんとつつく。

 するとふわっと青い光の粒子が湧き上がって散らばり、ふわふわと落ちていく。


 一見すると綺麗かもしれない。

 だけど……。


「これは魔力です」


 ルディアス様もさすがに気づいて、うなずいた。


「支店長さん、見ていてください」


 私は腰に鍵と一緒に銀鎖のシャトレーヌで下げていた杖を手に持ち、それを植物に向ける。

 すると――。


 花が急に黒味を増しながら増大して、花弁の端に歯のような物が生成される。

 ガチンと杖を噛もうとしたところで、支店長が悲鳴を上げた。


「うひっ!?」


「きゃっ」


「ひっ」


 離れて見ていた店員も、びっくりして小さな悲鳴を上げる。

 いつの間にかルディアス様の後ろに逃げた支店長は、真っ青な顔をしながらこわごわとこちらを覗いて言った。


「こここ、これは普通の花ではなさそうですが、精霊花でもなさそうな……」


 私はうなずく。


「はい、魔花です。攻撃的で、魔力を持っているので、間違いありません」


 花の種類もわかっているけど、そこまでは説明しなくてもいいかと思って省く。

 それを聞いた支店長は、ため息をついた。


「そうでしたか……。貴族様の間では本物が売り買いされていると聞いていたのと、売った者も衣服はそれなりの者を着ておりましたので、たまたまうちに売りに来たのではないかと思ったのですが……。一応不思議な光は出ておりましたし」


 支店長はどうやら騙されたらしい。

 だけど気になる言葉があった。


「本物……ですか?」


「この十数年ほど、本物の精霊使いとお会いすることがなかったのです。ほとんど偽物で、持ち込む物は全て偽物の精霊花だったのです」


(そんな……)


 私はびっくりした。

 本物の精霊使いが少ない?

 それなら、父はどうやって私と本物の精霊使いを比べていたんだろう。


 精霊使いが少なくなったのは母から聞いていたけど、父が『沢山いる』と言っていたから、増えたのかと思ったのに。

 そこまで考えて、さすがに気づいた。


(嘘だったのね)


 でもなぜそんな嘘をついたのかわからない。

 どうせ、あの状況で他の精霊使いと会えるわけもないのに。

 困惑しつつも、この魔花について話そうとした時だった。

 

 店の扉のベルが鳴る。

 お客がきたのかと思い、なにげなく振り返る。


 入って来たのは二人。

 目立つのは、前髪を固めてツンツンとさせた髪形にするどい顎と細い目の男。

 黒のシャツにクラヴァットをつけているのに、革鎧までしていて、ちぐはぐな格好だ。


 もう一人は背が高いのに猫背で、良い織物のベージュのガウンを羽織った商人のような服装をした男性だ。

 商人のような男性の方は、五十代は越えているんだろう。ほとんど白い髪を、肩まで伸ばしている。


 その時、うなりながら黙っていた支店長が言った。


「とにかく、このように危ない花は撤去しましょう」


 魔花を店に置いておくわけにはいかない、と思ったんだろう。

 それを聞いた前髪ツンツン男が怒鳴った。


「おい店長! 危ないとかどういうことだよ! せっかく買い取る客まで自分で見つけてきたってのに!」


 どうやらこの人が、魔花を持ち込んだ張本人らしい。 

 支店長はキリっとした表情で対峙する。


「先ほど、これが魔花だと判明しました。とてもお客様にお売りできませんので、こちらは廃棄させていただくことになります。むしろ、あなたに廃棄する義務があります」


「ま、魔花だなんていいがかりだ! 見て見ろよ!」


 一時は歯をむき出しにしたのに、今は何事もなかったかのように元に戻った魔花に、ツンツン男が近づく。

 指先でつつくと、ふわっと青い光が散る。

 幻想的な光景に、ツンツン男が連れて来たお客の男性が感嘆したような声を出した。


「たしかにこれは、魔花には見えませんが……」


「だろぉ?」


 我が意を得たりという顔をするツンツン男。


「ちょっとアンタか、精霊使いでもないくせに俺が見つけてきた精霊花にいちゃもんつけたのは」


 私とルディアス様の方に顔を向けるツンツン男。

 たぶん昨日は支店長さんも騙されてくれたので、誰かが精霊花ではないと見破って伝えたと考えたんだろう。

 で、側にいた私達がそうだとあたりをつけたのだ。


「精霊花は見たことがあります。その精霊花とは違うようなので」


 私が自信ありげに答えたからか、ツンツン男は少しひるむ。


「だったら魔花だっていう証拠を見せろってんだ」 


 それでも強気で言い張る。

 どうしようかと思ったら、ルディアス様が前に出た。


「むしろ、精霊花だと証明してみろ」


「み、見ての通りだろう!」


 証明する気もない。だけどさっきのでいいだろうと言うツンツン男に、後ろの客も「あんなに綺麗だったのに?」と首をかしげていた。

 ルディアス様はため息をついた。


「本物を見なれている人間が、少ないせいだな……。支店長、聖水はここに置いているか?」


「はい、ただいま」


 支店長が一礼したその時、気を利かせた店員がすでに用意していたのか、さっと後ろに駆け寄って小さな瓶を渡す。


「あっ、ちょっ」


 ツンツン男が焦る。

 しかしルディアス様は、無造作に受け取った瓶の中身を花にかけた。

意外とさっさか先へ進みたがるルディアス氏でした。

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