第九話 『先生にバレた』
「聞いた?」
「四年二組で、
催眠やってるらしいよ」
「えっ、なにそれ!」
最近。
教室の外から、
そんな声が聞こえるようになった。
私は最初、
ちょっと嬉しかった。
“心理学”が広まってる!
みたいな気分だったのだ。
でも。
問題は。
“催眠”
という言葉のインパクトが、
思ったより強かったことである。
◇
「愛衣ちゃん!」
昼休み。
知らないクラスの子が、
教室へやって来た。
「催眠できるってほんと!?」
「えっ」
「やってやって!」
「えーっと……」
周りにも、
人が集まってくる。
私は少し困った。
別に、
“なんでも操れる”
わけじゃない。
でも。
説明しようとすると、
余計怪しくなる。
「なんか、
手が動くやつ見た!」
「眠くなるんでしょ!?」
「洗脳!?」
「それは違う!」
私は慌てて否定した。
でも。
その瞬間。
教室の後ろから、
静かな声がした。
「……愛衣さん?」
ぴたり。
空気が止まる。
◇
担任の、
佐藤先生だった。
やばい。
私は本能で察した。
先生は、
少し困った顔をしている。
「ちょっと、
先生にも話聞かせてもらえる?」
「……はい」
ひまりちゃんが、
小声で言った。
「終わった……」
「まだ終わってないもん!」
でも。
たぶんちょっと終わってた。
◇
放課後。
私は職員室へ呼ばれた。
もちろん。
悠真くんたちも一緒だ。
「えーっと」
佐藤先生が、
少し困ったように頭をかく。
「まず確認なんだけど」
「危ないことはしてないよね?」
「してません!」
私は即答した。
「ほんとに!」
「人を操ったりとか、
そういうのじゃなくて!」
「うーん……」
先生は、
少し悩んだ顔をする。
「でも“催眠”って聞くと、
怖いイメージ持つ人もいるからねえ」
確かに。
私は少し考える。
自分では、
“楽しい心理実験”
くらいの感覚だった。
でも。
知らない人から見ると、
違うのかもしれない。
◇
すると。
さくらちゃんが、
静かに口を開いた。
「先生」
「ん?」
「愛衣、
悪いことしようとしてるわけじゃないです」
「ただ、
人の反応見るの好きなだけで」
「あと、
みんなちゃんと自分で参加してます」
先生は、
少し驚いた顔をした。
次に。
ひまりちゃんが勢いよく言う。
「そうです!」
「むしろ楽しいです!」
「愛衣ちゃん、
変なこと無理やりしないし!」
大地くんまで腕を組む。
「まあ、
騒がしいけど危なくはねーよ」
「お前ら……」
私は、
少しだけ胸が熱くなる。
◇
先生は、
しばらく考えてからため息をついた。
「うーん……」
「とりあえず」
私はごくりと唾を飲む。
「授業中は禁止ね」
「それはそう!」
即答だった。
先生、
思わず笑う。
「あと、
嫌がる子にはやらないこと」
「はい!」
「“催眠”って言葉は、
もうちょっと気をつけようか」
「……はい」
私は、
少しだけ反省する。
でも。
完全禁止ではなかった。
◇
職員室を出たあと。
私は、
ほっと息を吐いた。
「怒られるかと思った……」
「半分怒られてたよ」
悠真くんが言う。
「でもまあ、
思ったより軽かったな」
大地くんも頷く。
すると。
さくらちゃんが、
小さく笑った。
「愛衣、
ちゃんと“楽しませよう”
としてるの伝わってるんだと思う」
その言葉が、
少し嬉しかった。
◇
でも。
その時。
私たちはまだ知らなかった。
この数日後。
“保護者面談”
という、
さらに大きなイベントが待っていることを。




