第八話 『ちょっとだけ成功?』
「リベンジします!」
昼休み。
私は再び机を叩いた。
悠真くんが、
すごく嫌そうな顔をする。
「嫌な予感しかしない」
「今回はちゃんと勉強してきたから!」
「前も言ってなかった?」
「前よりもっと!」
私は、
どや顔でノートを取り出した。
そこには、
> ・安心感が大事
> ・無理やりやらない
> ・想像しやすくする
> ・楽しい雰囲気
など、
細かくメモされている。
さくらちゃんが、
少し引いた顔をした。
「研究熱心だなあ……」
「心理学は観察と実験が大事だから!」
「完全に理科のテンション」
◇
でも。
今回は前と違う。
ちゃんと考えたのだ。
前回失敗した理由。
それは。
“催眠をかけようとしすぎた”
こと。
ショーのお姉さんも言っていた。
安心。
想像。
力を抜く。
つまり。
まず、
楽しくないとダメなのだ。
◇
「というわけで」
私は、
ひまりちゃんを見る。
「ひまりちゃん」
「はい!」
「レモン想像して」
「レモン?」
「うん」
ひまりちゃんは、
素直に目を閉じる。
「黄色くて、
すっぱそうなレモン」
「切った瞬間、
じゅわってなる感じ」
「……あ」
ひまりちゃんが、
口を押さえた。
「なんかすっぱくなった!」
「でしょ!?」
私は机を叩く。
「これも想像に引っ張られてる!」
大地くんが、
「おおー」と声を出した。
「なんかほんとにそれっぽいな」
◇
私は、
少し調子に乗る。
「じゃあ次!」
「手を前に出してください!」
ひまりちゃんが、
わくわくしながら両手を出す。
「右手には重たい辞書!」
「左手には風船!」
「辞書はどんどん重くなる!」
「風船はどんどん浮く!」
私は、
できるだけゆっくり言った。
ショーを思い出しながら。
静かに。
想像しやすく。
「……」
数秒後。
「あっ」
悠真くんが声を出す。
ひまりちゃんの両手の高さが、
少し変わっていた。
右手が下がり。
左手が上がっている。
「えっ!?」
ひまりちゃん本人が、
一番びっくりしていた。
「なんで!?」
私は、
思わず立ち上がる。
「成功したー!!」
◇
教室がざわつく。
「ほんとに動いてる!」
「えー!?」
大地くんまで、
身を乗り出していた。
「やらせじゃね!?」
「してないよ!」
ひまりちゃんは、
本気で驚いている。
さくらちゃんも、
珍しく本を閉じていた。
「……思ったより動いた」
「でしょ!?」
私はもう、
かなりテンションが高かった。
「人って、
想像だけで結構変わるんだよ!」
◇
そのあと。
大地くんでも試した。
「お前絶対動かねーだろ」
と言っていたのに。
少しだけ手が動いた瞬間。
「うわっ!?」
本人が一番びっくりしていた。
私はもう、
笑いが止まらない。
「大地くん、
素直だから!」
「うるせえ!」
「図星だ!」
教室、
爆笑。
◇
そして。
最後に。
悠真くんが、
ぽつりと言った。
「……なんかさ」
「ん?」
「愛衣、
前よりそれっぽくなったよな」
私は、
少しだけ止まる。
「ほんと?」
「うん」
「なんか、
ちゃんと“安心させよう”
としてる感じする」
その言葉が、
妙に嬉しかった。
私は、
少しだけ考える。
ショーのお姉さん。
あの日の空気。
優しい声。
たぶん。
私は、
あの感じが好きだったんだと思う。
“人を驚かせる”
だけじゃなくて。
“安心して楽しめる感じ”。
それが。
なんだか、
すごく心地よかった。
◇
「よーし!」
私は、
勢いよく立ち上がる。
「もっと研究する!」
「うわ出た」
「次はもっとすごいのやる!」
「ほどほどにね……」
悠真くんが苦笑する。
でも。
みんな、
ちゃんと笑っていた。
教室の真ん中で。
私は今日も、
わくわくしていた。
人の心って。
やっぱり、
とっても面白い。




