第七話 『催眠、やってみます!』
「というわけで!」
月曜日の昼休み。
私は机をばんっと叩いた。
「今日は催眠をやります!」
「うわ始まった」
悠真くんが、
即座に顔をしかめる。
ひまりちゃんは、
目を輝かせた。
「さいみん!?」
「この前言ってたやつ!?」
「そう!」
私は、
かなりテンションが上がっていた。
土曜日のショー以来。
頭の中が、
ずっと催眠でいっぱいなのだ。
本も読んだ。
動画も見た。
メモも取った。
つまり。
理論は完璧。
たぶん。
◇
「で、
何するの?」
さくらちゃんが、
半分呆れながら聞いてくる。
私は、
得意げに腕を組んだ。
「まずはリラックス!」
「催眠は安心感が大事!」
「へえー」
「だから!」
私は、
悠真くんを指さす。
「被験者よろしく!」
「なんで!?」
「いつもの!」
「嫌な“いつもの”だなあ……」
でも。
悠真くんは、
結局逃げなかった。
優しい。
◇
「では始めます」
私は、
ちょっと低めの声を出す。
「深呼吸してください」
悠真くんが、
ちょっと笑いをこらえながら息を吸う。
「力を抜いて……」
「うん」
「だんだん眠くなって……」
「いやならないけど」
早い。
私は少しむっとした。
「ちゃんとやって!」
「やってるって」
ひまりちゃんは、
もう笑い始めている。
さくらちゃんは、
本を読みながらこっち見てた。
◇
私は気を取り直す。
ショーを思い出せ。
雰囲気だ。
空気感だ。
「今から、
手がだんだん重くなります」
「重くなるー」
悠真くん、
棒読み。
「もっと本気で!」
「いや本気だけど!」
「じゃあ次!」
私は、
人差し指を向ける。
「この指を見てください」
「うん」
「だんだん、
目が離せなく――」
その瞬間。
ガラッ。
教室のドアが開いた。
「おー何やってんだー?」
大地くん登場。
空気、
崩壊。
ひまりちゃん、
吹き出す。
悠真くんも、
耐えきれず笑い始めた。
「だめだこれ!」
「笑うなー!」
私は机を叩いた。
◇
「いやでもさ」
大地くんが、
椅子へ座りながら笑う。
「催眠って、
もっとこう……」
「ぱちん!ってやったら寝るやつじゃね?」
「それはショー演出もあると思う!」
私は即反論する。
「催眠は安心感と想像力が――」
「愛衣、
急に詳しくなるなあ……」
さくらちゃんが呆れる。
でも。
私は本気だった。
「絶対できるもん!」
「人って、
想像で反応変わるんだから!」
その時。
ひまりちゃんが、
ぱっと手を挙げた。
「はい!」
「私やる!」
「えっ」
「愛衣ちゃんの催眠、
ちょっと楽しそう!」
私は、
少し嬉しくなる。
「じゃあやる!」
◇
数分後。
「……どう?」
私は真剣な顔で聞いた。
ひまりちゃんは、
数秒黙ってから。
「なんか、
ぽかぽかした!」
「おお!」
私は立ち上がる。
「成功!?」
「でもたぶん、
今日暑いだけ!」
「ですよねー!」
教室、
爆笑。
私は机へ突っ伏した。
◇
「……失敗した」
放課後。
私はぐったりしていた。
悠真くんが、
苦笑する。
「まあ、
そんなすぐできないだろ」
「でもショーではできてたもん!」
「プロだし……」
ぐうの音も出ない。
私は、
机へ頬を乗せながら呟く。
「むずかしいなあ」
すると。
さくらちゃんが、
本を閉じながら言った。
「でもさ」
「ん?」
「愛衣の話って、
なんか聞いちゃう感じはあるよ」
私は、
少しだけ顔を上げる。
「えっ」
「なんていうか……
勢いあるし」
「あと、
楽しそうだから」
ひまりちゃんも、
うんうん頷いた。
「わかる!」
「なんかつい乗っちゃう!」
その言葉を聞いて。
私は、
少しだけ元気になる。
「……つまり!」
「才能ある!?」
「調子乗るの早いなあ」
悠真くんが笑う。
でも。
失敗したのに。
なんだか、
ちょっと楽しかった。
たぶん。
催眠そのものより。
みんなで、
“なんでそうなるの?”
って笑ってる時間が、
好きだった。




