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第六話 『催眠ショー』



「えっ、今日ショーあるの!?」


土曜日の朝。


私はチラシを見た瞬間、

飛び上がった。


そこには大きく、


> 『心理誘導&催眠ショー』


と書かれていた。


「催眠?」


私は首を傾げる。


心理誘導ショーは知っている。


あの日。


私が夢中になるきっかけになった、

あのショー。


でも。


“催眠”は、

よくわからなかった。


「本には書いてあったけど……」


「なんか眠くなるやつ?」


お母さんが笑う。


「行ってみる?」


「行く!」


即答だった。



会場へ着く。


でも。


いつもと少し違った。


照明が暗め。


音楽も静か。


空気が、

なんだかふわっとしている。


私は、

少しだけ緊張した。


「……なんか今日、

雰囲気違う」


「そうだねえ」


お母さんも、

少し不思議そうだった。


会場の人たちも、

どこか静かだ。


ざわざわしているのに。


でも、

落ち着いている。


そんな感じ。



そして。


照明が落ちる。


「こんばんはー」


ステージ中央へ現れたのは、

黒髪のお姉さん。


私は、

思わず目を見開いた。


「あっ」


あの日の人だ。


少し大人っぽくなっている。


でも。


笑い方は、

昔と同じだった。


「今日は、

“催眠”をテーマにやっていきます」


会場が少しざわつく。


私は、

さらに首を傾げた。


「さいみん……?」


横でお母さんが小声で言う。


「リラックスしたり、

イメージを使ったりするやつかな」


「へえー」


私は、

わくわくしながらステージを見る。



「まず最初に」


お姉さん――ちーちゃんは、

客席へ向かって笑った。


「催眠って、

“操る魔法”じゃないです」


「むしろ、

“想像に入り込みやすくなる”

に近いです」


その言葉が、

妙に気になった。


“想像”。


私は、

少し身を乗り出す。


ちーちゃんは、

客席全体へ話しかけるように続けた。


「例えば映画見て泣いたり」


「ホラーでびっくりしたり」


「レモン想像して、

ちょっと酸っぱく感じたり」


「それも、

想像に引っ張られてる状態なんですよね」


私は、

思わず「おおー」と声を漏らした。


確かに。


レモンって聞いただけで、

なんか口が酸っぱくなる。



そのあと。


会場全体で、

簡単なテストが始まった。


「両手を前へ出してください」


「右手は重たい」


「左手は軽い」


静かな声。


ゆっくりした喋り方。


私は、

なんとなく真似する。


すると。


「あれ?」


右手と左手の高さが、

少し変わっていた。


「えっ!?」


私は慌てて手を見る。


なんで!?


ちーちゃんは、

楽しそうに笑った。


「今、

“想像”を使いました」


「人の脳って、

結構それに引っ張られるんです」


私は、

完全に夢中になっていた。



その後。


ステージへ数人が上がる。


ぼーっとしたり。


笑ったり。


思わず変な動きをしたり。


会場は、

ずっと笑っていた。


でも。


私は、

笑うより観察していた。


なんで?


どうして?


どうやって?


人って、

こんな風になるんだ。



ショー終盤。


ちーちゃんは、

会場を見渡しながら言った。


「催眠って、

“特別な人だけがかかるもの”

じゃないです」


「安心したり」


「想像したり」


「力を抜いた時に、

自然と入りやすくなるものです」


その言葉が、

胸へ残った。


安心。


想像。


力を抜く。


私は、

その全部を頭の中で繰り返す。



帰り道。


私はずっと、

興奮していた。


「すごかった!」


「手ほんとに動いた!」


「なんで!?」


お母さんが苦笑する。


「愛衣、

ずっとキラキラした顔してるね」


「だって!」


私は、

ぎゅっと拳を握る。


「人の心って、

やっぱりすっごく面白い!」


その時。


私はまだ知らなかった。


数日後。


自分が、

クラスメイト相手に催眠を試し始めることを。


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