第六話 『催眠ショー』
「えっ、今日ショーあるの!?」
土曜日の朝。
私はチラシを見た瞬間、
飛び上がった。
そこには大きく、
> 『心理誘導&催眠ショー』
と書かれていた。
「催眠?」
私は首を傾げる。
心理誘導ショーは知っている。
あの日。
私が夢中になるきっかけになった、
あのショー。
でも。
“催眠”は、
よくわからなかった。
「本には書いてあったけど……」
「なんか眠くなるやつ?」
お母さんが笑う。
「行ってみる?」
「行く!」
即答だった。
◇
会場へ着く。
でも。
いつもと少し違った。
照明が暗め。
音楽も静か。
空気が、
なんだかふわっとしている。
私は、
少しだけ緊張した。
「……なんか今日、
雰囲気違う」
「そうだねえ」
お母さんも、
少し不思議そうだった。
会場の人たちも、
どこか静かだ。
ざわざわしているのに。
でも、
落ち着いている。
そんな感じ。
◇
そして。
照明が落ちる。
「こんばんはー」
ステージ中央へ現れたのは、
黒髪のお姉さん。
私は、
思わず目を見開いた。
「あっ」
あの日の人だ。
少し大人っぽくなっている。
でも。
笑い方は、
昔と同じだった。
「今日は、
“催眠”をテーマにやっていきます」
会場が少しざわつく。
私は、
さらに首を傾げた。
「さいみん……?」
横でお母さんが小声で言う。
「リラックスしたり、
イメージを使ったりするやつかな」
「へえー」
私は、
わくわくしながらステージを見る。
◇
「まず最初に」
お姉さん――ちーちゃんは、
客席へ向かって笑った。
「催眠って、
“操る魔法”じゃないです」
「むしろ、
“想像に入り込みやすくなる”
に近いです」
その言葉が、
妙に気になった。
“想像”。
私は、
少し身を乗り出す。
ちーちゃんは、
客席全体へ話しかけるように続けた。
「例えば映画見て泣いたり」
「ホラーでびっくりしたり」
「レモン想像して、
ちょっと酸っぱく感じたり」
「それも、
想像に引っ張られてる状態なんですよね」
私は、
思わず「おおー」と声を漏らした。
確かに。
レモンって聞いただけで、
なんか口が酸っぱくなる。
◇
そのあと。
会場全体で、
簡単なテストが始まった。
「両手を前へ出してください」
「右手は重たい」
「左手は軽い」
静かな声。
ゆっくりした喋り方。
私は、
なんとなく真似する。
すると。
「あれ?」
右手と左手の高さが、
少し変わっていた。
「えっ!?」
私は慌てて手を見る。
なんで!?
ちーちゃんは、
楽しそうに笑った。
「今、
“想像”を使いました」
「人の脳って、
結構それに引っ張られるんです」
私は、
完全に夢中になっていた。
◇
その後。
ステージへ数人が上がる。
ぼーっとしたり。
笑ったり。
思わず変な動きをしたり。
会場は、
ずっと笑っていた。
でも。
私は、
笑うより観察していた。
なんで?
どうして?
どうやって?
人って、
こんな風になるんだ。
◇
ショー終盤。
ちーちゃんは、
会場を見渡しながら言った。
「催眠って、
“特別な人だけがかかるもの”
じゃないです」
「安心したり」
「想像したり」
「力を抜いた時に、
自然と入りやすくなるものです」
その言葉が、
胸へ残った。
安心。
想像。
力を抜く。
私は、
その全部を頭の中で繰り返す。
◇
帰り道。
私はずっと、
興奮していた。
「すごかった!」
「手ほんとに動いた!」
「なんで!?」
お母さんが苦笑する。
「愛衣、
ずっとキラキラした顔してるね」
「だって!」
私は、
ぎゅっと拳を握る。
「人の心って、
やっぱりすっごく面白い!」
その時。
私はまだ知らなかった。
数日後。
自分が、
クラスメイト相手に催眠を試し始めることを。




