第五話 『ガキ大将』
「おーい!」
昼休み。
廊下に、
やたら大きな声が響いた。
その瞬間。
クラスの何人かが、
「あっ」みたいな顔をする。
私は、
窓際からそちらを見た。
そこにいたのは。
背の高い男の子。
ちょっと日に焼けていて。
声も大きくて。
歩き方もどこか偉そう。
いわゆる。
“ガキ大将”って感じの子だった。
「四組の大地くんだ」
ひまりちゃんが小声で教えてくれる。
「有名なの?」
「めっちゃ有名!」
「いつも騒いでる!」
なるほど。
確かに、
存在感がすごい。
◇
「おっ」
大地くんが、
こっちを見た。
「なんか最近、
心理学ごっこ流行ってるんだって?」
「ごっこじゃないもん!」
私は即反論する。
すると。
大地くんは、
にやっと笑った。
「じゃあ俺もやってみろよ!」
その瞬間。
クラスがざわつく。
「えっ」
「大丈夫かな……」
でも。
私はちょっとわくわくした。
新しいタイプだ。
しかも。
かなりわかりやすそう。
◇
「じゃあ実験!」
私は机へ身を乗り出す。
「大地くんって、
褒められるの弱いでしょ」
「はぁ!?」
即反応。
声大きい。
わかりやすい。
「弱くねーし!」
「ほんとに?」
「おう!」
私は、
にやっと笑った。
「じゃあ大地くんって、
意外と面倒見いいよね」
「っ」
一瞬止まる。
「この前、
一年生助けてたし」
「……別に普通だろ」
少しだけ、
目を逸らした。
私は、
思わず笑う。
「ほら」
「褒められると照れる!」
「照れてねー!!」
クラス、
爆笑。
大地くんは、
顔を真っ赤にしていた。
◇
でも。
少し話してわかった。
大地くんは、
見た目ほど怖くない。
むしろ。
かなり素直だ。
「お前、
絶対今俺のこと観察してるだろ」
「してる!」
「即答かよ!」
「だって面白いし」
「何がだよ!」
私は、
少し考える。
「大地くんって、
強そうに見せたいのに、
褒められるとすぐ困る」
「うっ」
「あと、
頼られると断れない」
「うぐっ」
「図星だ!」
ひまりちゃんが笑う。
大地くんは、
悔しそうに机を叩いた。
「なんでわかるんだよ!」
「顔!」
「またそれかー!」
◇
その時。
さくらちゃんが、
本を読みながらぽつりと言った。
「でも大地くんって、
言われたらちゃんと反応するよね」
「ん?」
「嫌なら無視すればいいのに」
大地くんは、
少しだけ止まる。
そのあと。
頭をかきながら言った。
「……まあ、
なんか面白いし」
私は、
その言葉を聞いて少し嬉しくなった。
やっぱり。
心理学って、
人を嫌な気持ちにするものじゃなくて。
“面白い”
って思える方が楽しい。
◇
帰り際。
大地くんが、
教室のドアから顔を出す。
「おーい愛衣!」
「ん?」
「次またなんかやる時、
俺も呼べよ!」
私は、
思わず笑った。
「うん!」
「また実験しようね!」
「だからその言い方やめろ!」
でも。
大地くんは、
ちゃんと笑っていた。
クラスが、
少しずつ賑やかになっていく。
それがなんだか、
とても楽しかった。




