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第十話 『保護者面談』

ストック放出おわり



「愛衣さんのお母さん、

学校からお話があるそうです」


その連絡帳を見た瞬間。


私は固まった。


「……えっ」


お母さんが、

隣から覗き込む。


「どうしたの?」


「…………」


私は、

そっと連絡帳を閉じた。


無駄だった。


お母さん、

ちゃんと読んでいた。



「心理学?」


夕飯中。


お母さんが、

少し不思議そうに聞いてくる。


私は、

おそるおそる説明した。


「えっとね」


「人の反応見たり、

想像でどう変わるか試したり……」


「催眠って言葉も使ってるって?」


「うっ」


そこだ。


絶対そこが危ない。


私は慌てて手を振る。


「でも怖いやつじゃないよ!?」


「手がちょっと動いたり、

レモン想像してすっぱくなったり!」


お母さんは、

しばらくぽかんとしていた。


そのあと。


ぷっと吹き出す。


「なにそれ」


「ほんとだもん!」


「ふふ、ごめんごめん」


笑いながら、

お母さんは言った。


「でも、

学校側が心配する気持ちもわかるかな」


「うぅ……」


私は机へ突っ伏した。



そして数日後。


保護者面談。


私は、

お母さんの隣で小さくなっていた。


終わった。


たぶん怒られる。


人生終了。


「そんな顔しなくても」


お母さんが苦笑する。


でも。


職員室の空気って、

なんか緊張するのだ。



「失礼します」


部屋へ入る。


佐藤先生が、

少し困ったように笑った。


「今日はありがとうございます」


「いえいえ」


お母さんは、

普通に落ち着いている。


大人すごい。



最初は、

普通の話だった。


授業態度。


友達関係。


成績。


でも。


途中で。


先生が、

少し真面目な顔になる。


「それで、

愛衣さんの“心理実験”についてなんですが……」


来た。


私は、

ぎゅっと縮こまる。


先生は、

慎重に言葉を選んでいた。


「悪意があるわけではないのは、

よく分かってるんです」


「ただ、

“催眠”という言葉だけ一人歩きしてしまっていて」


お母さんが、

ちらっと私を見る。


私は、

しゅんとする。



「愛衣さん、

すごく好奇心が強いんですよね」


先生は続けた。


「観察力もありますし、

人と関わるのも上手です」


「でも、

相手が嫌がってないかは、

ちゃんと気をつけようねって話をしました」


「なるほど」


お母さんは、

納得したように頷いた。


そのあと。


少し笑う。


「この子、

昔から“なんで?”が止まらない子なんです」


「テレビ見ても、

“なんで泣いたの?”

とか聞いてくるし」


「うぅ……」


恥ずかしい。


先生も、

少し笑っていた。



すると。


先生がぽつりと言った。


「でも実際、

クラスのみんな楽しそうなんですよね」


「えっ」


私は顔を上げる。


「愛衣さん、

ちゃんと“楽しませよう”

としてるのが分かるので」


「強引な感じもないですし」


「だからこそ、

完全禁止にするほどではないかなって」


私は、

ぱっと顔を明るくした。


「じゃあ!」


「ただし!」


先生が、

ぴしっと指を立てる。


私は止まる。


「授業中は禁止」


「はい」


「相手が嫌がったら絶対やめる」


「はい!」


「あと、

“催眠術師になる!”

とか言って変なことしない」


「言ってないもん!」


「昨日言ってた」


悠真くんのタレコミである。


裏切り者。



面談終了後。


廊下を歩きながら、

お母さんが笑った。


「愛衣」


「ん?」


「ほどほどにね?」


「うー……い」


私は、

ちょっとだけ反省する。


でも。


完全に否定されたわけじゃなかった。


それが、

少し嬉しかった。



その日の帰り道。


私は空を見上げながら考える。


人の心って、

やっぱり面白い。


でも。


“面白い”

だけじゃだめなんだ。


ちゃんと。


相手が楽しいか。


安心してるか。


それも大事。


たぶん。


ショーのお姉さんも、

そういうことを考えてたんだと思う。


私は、

少しだけ大人になった気分で呟いた。


「……心理学、

むずかしいなあ」


でも。


やっぱり、

楽しい。


その気持ちだけは、

変わらなかった。


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