第三話 『新しい実験相手』
「……なんで俺ばっかりなんだよ」
昼休み。
机へ突っ伏しながら、
悠真くんがぼやいた。
私は、
そんな幼馴染を見ながら首を傾げる。
「だって反応わかりやすいし」
「それ褒めてないよな?」
「褒めてるよ?」
「絶対違う」
失礼だなあ。
でも。
実際、
悠真くんはかなり観察しやすい。
急に名前を呼ぶとびっくりするし。
褒めると照れるし。
嘘つく時はちょっと目が泳ぐ。
見ていて、
すごく面白い。
◇
でも最近。
私は少し考えていた。
“悠真くん以外でも試してみたい”
人によって、
反応は違う。
だったら。
もっと色んな人を観察したら、
もっと面白いんじゃないだろうか。
そんなことを考えていた時だった。
「ねえねえ!」
元気な声。
振り向くと、
女の子がこちらへ走ってきた。
短めの髪。
明るい笑顔。
やたら距離が近い。
「愛衣ちゃんって、
心理学好きなんでしょ!?」
「えっ」
話が早い。
「なんで知ってるの?」
「昨日、
男子が“また悠真が実験されてた”
って話してた!」
「おい」
悠真くんが抗議する。
でも。
女の子は全然気にしていなかった。
「面白そうだから、
私にもやって!」
「えっ、いいの!?」
「うん!」
即答だった。
私は思わず、
目を輝かせる。
新しい実験相手だ。
◇
「私は水瀬ひまり!」
「よろしくね!」
「愛衣!」
「知ってる!」
「えへへ」
元気な子だなあ。
私はさっそく、
ひまりちゃんを観察し始める。
動きが大きい。
表情がころころ変わる。
あと、
思ったことすぐ口に出るタイプ。
たぶん、
かなり反応が面白い。
「……愛衣、
今絶対観察モード入った」
悠真くんが呆れた声を出す。
「わかる?」
「長い付き合いだからな……」
「ねえねえ、
何するの!?」
ひまりちゃんが、
わくわくした顔で聞いてくる。
私は少し考えてから、
にやっと笑った。
「じゃあ簡単な心理実験!」
◇
「まずね」
私は机へ身を乗り出す。
「“赤”って聞いて、
何思い浮かべた?」
「りんご!」
ひまりちゃん即答。
「信号」
悠真くん。
「へえー」
私は頷く。
「じゃあ“青”は?」
「空!」
「海」
「ふむふむ」
私は腕を組む。
「なんかわかったの?」
悠真くんが聞いてくる。
私は少し得意げに笑った。
「ひまりちゃんは、
イメージをぱっと出すタイプ」
「悠真くんは、
ちょっと考えてから答えるタイプ」
「えー!
なんでわかるの!?」
ひまりちゃんが目を丸くする。
私は、
ちょっと嬉しくなる。
「答える速さ!」
「あと、
ひまりちゃんは声大きくなる!」
「ほんとだ!」
ひまりちゃんは、
さらにテンションが上がった。
◇
その時。
後ろの席から、
別の声がした。
「……何それ」
振り向く。
そこには、
本を読んでいた女の子がいた。
長い髪。
静かな雰囲気。
あまり騒ぐタイプではなさそう。
「心理学ごっこ?」
少しだけ、
疑ってる顔。
私は、
その反応を見て思わず笑う。
面白そう。
「違うよ!」
「心理学!」
「同じじゃん」
「違うもん!」
すると。
その子は、
小さくため息をついた。
「……まあ、
ちょっとだけ気になるけど」
私は、
さらに目を輝かせる。
「名前は!?」
「……結城さくら」
「さくらちゃん!」
「距離近」
ひまりちゃんが笑う。
悠真くんは、
また嫌な予感がする顔をしていた。
でも。
私はもう、
わくわくが止まらなかった。
クラスには、
まだまだ知らない反応がいっぱいある。
それって。
すごく、
面白そうだった。




