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『サキュバス・ディレクターズ・カット!』〜俺の現場、まともな人間が一人もいない〜  作者: アキラヤマトリ
第七章:【ディレクターズ・リライト (Director's Rewrite)】 ― 真魔王覚醒。救世のコンテは魔界へ続く
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第三十七話 『万魔帰源』

俺たちは、

そのまま次元の裂け目へ飛び込んだ。


次の瞬間――視界が、

荒れ狂う雲の渦に飲み込まれる。


裂け目の内部は、

まるで嵐の空そのものだった。


灰黒色の雲が何層にも重なって渦を巻き、

その合間を、

紫色の雷光が容赦なく走り抜けていく。


「——気をつけろ。」


左側から、ヘスティアの声。


同時に、右側のカナも俺の腕を強く引き寄せた。


二人に両側から支えられながら、

俺たちは裂け目の通路を高速で突き進む。


雷が耳元を掠めるたび、

鼓膜が痺れるような轟音が響いた。


俺は思わず顔を引きつらせる。


「これ、本当に安全なのか……!?」


「安全じゃない。」


カナは即答した。


「落ちたら終わり。」


「そういうことはもっと早く言え!!」


だが、ツッコミを返す余裕すら、

次の瞬間には消えていた。


前方が、突然明るくなる。


雲の層の先が、

白い光に引き裂かれた。


俺たちは、

そのまま通路を飛び出す。


そして——


視界が、一気に開けた。


「……ここが……」


思わず、息を呑む。


目の前に広がっていたのは、

見たこともない巨大な大陸だった。


空には、橙赤色の夕陽。


その反対側には——


紫色の月。


太陽と月が、同時に浮かんでいる。


現実感のない光景だった。


まるで映画のワンシーンみたいに。


「——魔界。」


隣で、カナが静かに呟く。


俺たちは、まだ上空にいた。


眼下には広大な大地が広がり、

遠くには黒い山脈と、見慣れない森が見える。


風に乗って漂ってくる空気は、

どこか甘ったるいのに、不気味だった。


「まずは降りる場所を探そう。」


ヘスティアが言う。


カナは小さく頷いた。


「私が生まれたサキュバスの村、この近くだから。」


その表情には、わずかに懐かしさが滲んでいた。


「そこで少し準備しましょう。」


「もしかしたら……

族の皆から情報も聞けるかもしれない。」


「……ユウマはともかく。」


ヘスティアが眉をひそめる。


「私まで堂々と魔族の村に入って、

本当に問題ないのか?」


カナは苦笑した。


「大丈夫ですよ。」


「私たちサキュバス族って、

そこまで戦闘狂じゃないので。」


「基本、前線にも出ませんし。」


そう言って、自分の胸を軽く叩く。


「王女様が変に剣を抜いたりしなければ、

あとは私がなんとかします。」


「何だその条件は!?」


案の定、ヘスティアが不機嫌そうに声を上げた。


「はいはい。」


俺は慌てて割って入る。


「今は目的を忘れないで。」


「ヘスティア、ここはカナの地元なんだから、

少しだけ我慢してくれ。」


ヘスティアは不満げに鼻を鳴らした。


だが、さすがに他人の土地で騒ぐ気もないのか、

そのまま黙って引き下がる。


カナも追撃はせず、

そのまま先導するように前へ飛んだ。


しばらくして——


異国情緒あふれる村が、

徐々に見えてくる。


石造りの建物。


木製の尖塔。


窓には紫色の布が掛けられていて、

まるで西洋ファンタジーの世界だった。


カナはその景色を見つめながら、小さく呟く。


「……帰ってくるの、久しぶりだな……」


「みんな……元気かな。」


だが。


地面へ降り立った瞬間——


彼女の表情が変わった。


周囲を、警戒するように見回す。


「……おかしい。」


声が低くなる。


「どうした?」


ヘスティアが尋ねる。


カナは眉を寄せたまま答えた。


「この時間なら……普通、みんないるはずなのに。」


静かすぎた。


笑い声もない。


足音もない。


生活の気配そのものが、消えている。


カナは小走りで村の中を進み始める。


誰かを探すように。


必死に。


俺とヘスティアは、

無人の通りを見ながら、

同時に嫌な予感を覚えていた。


「ユウマ……」


「……手分けして調べよう。」


俺は低く言った。


そして、三人で家々を回り始める。


だが——


どの扉を開けても。


中は空だった。


風で揺れるカーテン。


食べかけの料理。


そして——


床に無造作に散らばった、

大量の革製の服。


生活感だけが残されている。


まるで、人だけが突然消えたみたいに。


カナが、そのうちの一着を拾い上げた。


顔色が、どんどん悪くなる。


「……こんなの、おかしい。」


小さく呟く。


「サキュバス族って、

おしゃれにすごくこだわるんです。」


「正装は、すごく大事な財産で……」


「こんな風に放り捨てたり、絶対しない。」


「……急に何かあったのか?」


俺は周囲を見回しながら言う。


「逃げるしかない状況になった、とか。」


「……その可能性はある。」


ヘスティアも周囲を確認する。


「戦闘の痕跡はない。」


「襲撃というより……急な避難に近い。」


「戦闘……?」


その言葉を聞いた瞬間。


カナが、何かに気づいたように顔を上げた。


次の瞬間——


彼女は勢いよく外へ飛び出していた。


「——っ!」


俺たちも慌てて後を追う。


カナが向かった先は、

村の中央広場。


そして、そこには——


さらに大量のサキュバス族の服が散乱していた。


さっきよりも多い。


もっと乱雑に。


まるで——


そこにいた存在そのものが、

一瞬で消え去ったように。


「……っ。」


俺もヘスティアも、言葉を失う。


逃げた?


そんなレベルじゃない。


村人全員が裸で逃げたとでもいうのか?


カナの足が止まる。


そのまま、一着の服の前に崩れ落ちた。


肩が、小さく震えている。


「……そんな……」


かすれた声。


「……リリス様……どうして……」


「カナ……?」


俺は息を呑む。


彼女の声は、明らかに震えていた。


「……『万魔帰源』。」


うつむいたまま、呟く。


「……リリス様の能力です。」


「すべての魔族の力を吸収して……自分の糧にする。」


その服を、強く握りしめる。


「でも……昔のリリス様は……絶対に、

こんな使い方しなかった……」


「こんな……こんなこと……」


涙混じりの声。


「村のみんなを……全部……食糧みたいに……」


俺は——言葉が出なかった。


食糧。


その単語だけが、

頭の中で繰り返される。


ミクが。


あのミクが。


彼女は震える唇で続けた。


「身体すら……残らないほどに……」


「どうして……」


「どうして、こんな……」


俺とヘスティアは、

ただ黙って立ち尽くすしかなかった。


何も言えない。


どんな言葉も、軽すぎる気がした。


しばらくして。


俺はゆっくり、カナの隣へ歩み寄る。


そっと肩に手を置いた。


その瞬間——


カナは堪えきれなくなったように、

俺の胸へ飛び込んできた。


声を殺して泣いている。


俺は、ただ静かに背中を撫で続けた。


ヘスティアは、何も言わなかった。


嘲笑もしない。


ただ、静かに広場の端へ歩いていく。


そして——


手を上げた。


金色の魔力が地面を撃ち抜く。


轟音と共に、小さな穴が掘られた。


そのあと彼女は、

地面に散らばっていたサキュバスの服を、

一着ずつ丁寧に拾い始める。


綺麗に畳み。


静かに穴へ入れていく。


カナは、その姿を見て目を見開いた。


そして。


涙を拭う。


ゆっくり立ち上がり。


無言で、服を拾い始めた。


俺も慌てて加わる。


三人で、無言のまま衣服を集める。


挿絵(By みてみん)


誰も喋らない。


最後に。


すべての服を穴へ納めると、

カナは自分の手で土を被せていった。


そこに出来上がったのは、

小さな――服だけの墓。


作業を終えたあと。


俺は、それを見つめた。


体が。


財産が。


名前すら。


何も残らなかった人たちの。


それだけが、証だった。


カナは墓の前に立ち、

静かに目を閉じた。


深く、息を吸う。


彼女はその粗末な墓をそっと撫でた。


手のひらは魔界の赤い土にまみれ—— それから。


強く拳を握りしめる。


爪が肉に深く食い込むほどに。


そして。


かすれた声で言った。


「……悠真。」


「……私たち、絶対にリリス様を止めないと。」


「絶対に……ミク先輩を、呼び戻さないと……」


「ああ。」


俺は迷わず頷く。


「当然だ。」


「行くぞ。」


ヘスティアが低く言う。


「一刻も早く、リリスを見つける。」


カナは頷いた。


そして、遠くを見上げる。


地平線の先。


巨大な山。


その頂上には——


尖塔を持つ巨大な城が見えた。


「……魔王城。」


カナが歯を食いしばる。


「……あそこです。」


俺たちは、その方向を見る。


距離があるはずなのに。


あの城から漂う黒い気配だけは、

はっきり感じ取れた。


本能が警告するような圧迫感。


「それじゃ——」


俺が口を開きかけた、その瞬間。


遠くの魔王城が——


揺れた。


次の瞬間。


塔の頂上から、凄まじい爆発が起こる。


黒い魔力が、花火のように内側から噴き上がった。


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