Ep.9 siblings 「兄弟」
村に向かう途中だった。
ぐううぅぅ
お腹が鳴る
「おじさん、お腹減った」
ハイルが袋からサンドウィッチを手に取って少年に三個差し上げた。
「あ、ありがとう」
予想の二個も渡された少年は戸惑いつつも感謝を伝え、その内の一つを少女に渡す。
「一つあげるよ、食べ過ぎは良くないって教えて貰ったから」
「ありがとう」
サンドウィッチを受け取った少女をすぐには食べず、少しの間見つめる。そして、食べ始めた。
モグモグ
青年と少年は、今思い返せばずっと一緒にいる時間が長かった。お互い必要としているのが伝わる。まるで本当の兄弟のような関係だった。あの出来事が起きてから、まだ一日だというのに少年は立ち上がって前に進んでいる。誰でもそう簡単に立ち上がれる訳では無い。けど少年の前向きな姿と青年から受け取った期待がここまで心を強くしている。
ある程度進んで、お腹を満たした時ハイルが気配を感じた。
「ん. . . . 」
ハイルが立ち止まる。
辺りを見渡すと小屋が目に入る。ドアは無く、今にも崩れそうなほどボロボロだった。
「シッ」
ハイルが何かに気づいたようで、静かにする合図を送る。合図を受け取った二人はハイルの背後に隠れ、口を手で隠す。
小屋の中はうっすらと中が見えている。その奥に小さな影が見えた。
音を立てずに少しずつ進むとハッキリと小屋の中が見えるようになる。中には怯えている子供の姿があった。手には小石を強く握っていた。
ハイルが小屋の中に入ろうとした瞬間、その子供が握っていた小石をハイルの顔面目掛けて投げる。
「っ!」
子供は外に逃げようとハイルの足の間を通ろうとしたが、少年とぶつかってしまう。
「うっ!」
「っ!」
ハイルはその子供を捕まえて、何があったか聞き出そうとする。しかしその前に子供が泣き出してしまう。
「やめて、もう逃げないからお兄ちゃんだけは殺さないで!」
ハイルは抵抗する子供を落ち着かせようと少年と少女の隣にそっと下ろして敵意が無いことを示した。
「落ちつけ、何もしなっ. . . 」
ハイルが話終える前にどこからか、石がハイルの前を「シューン」と通る。石が来たであろう方向に向くと10歳ほどの少年が鬼の形相で雄叫びをあげていた。
「俺の弟に手を出すな!!!!!」
手にはナイフを握っており、ハイルに向かって突進して来た。
「このクソ魔女やろう!!!!!!!!」
心臓目掛けて突き刺そうとしたが、届かずナイフを弾かれる。
「くっ!」
ハイルはその子供の兄らしき人の顔を弱く殴った。
「ぐっ!」
兄は2m飛ばされ、立ち上がれなくなる。
吹き飛んだ兄の姿を見て唖然とするも必死にハイルに懇願していた。
「やめて、殺さないでください」
怯えていた弟の方はハイルの袖を引っ張った。見たくもないハイルの瞳を見て。
「殺しはしない」
ハイルは深い意味を込めた訳では無いが弟は殺されはしないが酷い目に合うと思い込む。
「もうやめてよお、お兄ちゃんを傷つけないで」
ますます状況が悪化してしまった。
最初からその気は無い。少年が口を動かす。
「お前達、落ち着いてくれ、このおじさんは良い人だから大丈夫だよ」
ハイルが話す度に誤解されると思った少年が代わりに自分達と魔女との出来事について話し始めた。
「カクカク、シカジカ」
少年の話を聞いた兄弟は悪い人ではないと半信半疑に思いつつも自分達の経緯を話す。
「俺と弟は昨日、魔女に攫われたんだ。お父さんから貰った地図を元にエターナルって言う場所に着くために俺達はこの森を進んでいるんだ」
どうやらこの兄弟はハイルの目的地と同じ場所に行こうとしている。
「君たちの父さんはどこに?」
「魔女に殺された。」
「. . . ごめん」
「謝る必要何て無いよ、そっちと同じく俺達を庇って死んだ。」
「俺のせいで父さんは. . . 」
暗い表情を浮かべた。
少年は何故か兄の方の瞳を見た。顔は平気そうに見えるが、真っ黒な瞳から怒りと悔しさが漏れ出ていた。この人も自分と同じ何かを持っていると、そう思えた。
ハイルが尋ねる。
「一緒に来るか?」
それを聞いた兄弟達は考える暇も無く断った。
「弟と一緒に父さんに別れをしに行く」
「そうか、そうだったな」
会話を終えた後三人は兄弟達に別れを言って、村に向かうのを再開する。
少年「元気でな」
兄「生きてたらな」
別れの挨拶を終え手を振った後、三人を見送った。
「行こう」
兄が手を差し伸ばす
「うん」
傷だらけになった小さな手で握る。
手を繋いだ兄弟に前までの青年と少年の面影が浮かんだ。
つづく