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弱虫運び屋の右腕は殺人オートマタ  作者: 久芳 流
第5章 運び屋としての役割
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第38話 野営地からの避難

「ここまで来れば安心だね」


 討伐隊の野営地を出てしばらくした頃、ピーターさんが安堵の息を溢した。

 意外とあっさりと脱出できて僕もほっと胸を撫で下ろす。

 機械獣が襲ってくるとかもっと危険な目に遭うかと思ったけど、そんなこともなく。

 辺り一面は静寂に包まれ、少し風で砂が舞うくらい。

 嵐の前の静けさとも言えるけれど。


「ふぅ~……本当によかったよ……」


「? 何がでしょうか?」


「いや、ほらさ。災害級の機械獣が攻撃する前に抜け出せてさ。

 正直、命拾いしたよ……」


 やっぱりそうか、というのが僕の感想。

 討伐隊とはいえ新入りさん。やっぱり災害級は怖いもんな。


「あれ? あまり驚かないね」


「はは……そうですね」


 新入りさんだし仕方ないですよ。とは言えないけど。

 僕はピーターさんに愛想笑いを浮かべる。


「なんだ。バレていたか……」


 ピーターさんはつまんなそうに口を窄めている。

 まずい。否定しておけばよかったかもしれない。


「あの……すみません」


「そんな! とんでもない!」


 機嫌を損ねたかも、と思って謝るとピーターさんは慌てて手を振って否定する。


「むしろ感謝しているんだよ! よく俺を逃がしてくれたって!」


 ピーターさんはそう僕に笑みを向けてくれる。


「確かに俺も討伐隊の端くれ。討伐隊になったからには、機械獣をボコボコにしてやりたいさ。

 けれど災害級は無理だぁ。俺が挑んでもただ犬死するだけ。

 だから俺はこうしてエルガスに君を送り届ける方がお似合い。それでよかったんだよ!」


 支部長は相変わらず人を見る目がある、とピーターさんは自分の選択が正しかったかのように胸を張り堂々としている。


「俺はまだ新人。災害級はまた今度にするよ」


 それを聞いて安心した。

 飄々としているが、ピーターさんは間違いなく良い人だ。


「あ、でももし俺が災害級を相手にする時になったら、その時は応援してくれよ?

 俺、頑張っちゃうからさ!」


 そう言って、銃を片手に持ちもう片方の腕で力こぶを作る。

 その様子に僕も笑みを溢す。


「はい! もちろん!」


 そう僕は頷いて、ピーターさんを見ると、


「――あれ?」


 視界の端に何かが見えた気がした。


「ん? どうしたんだい? レオくん」


「ピーターさん。あれって何でしょうか?」


 見えた何かに焦点を移し、指を差す。

 討伐隊の野営地から少し離れ、ケーテン砂漠を中心に野営地から弧を描いた線上にある場所。

 その場所に倉庫のようなものが見えた。

 ここからでは結構離れていてよくわからないけれど、大きさ的には大型トラック一台、入るくらいだろうか?

 場所としても不自然で、自然にできたとは思えない明らかな人工物。


「あぁ~。あれね。MEランサーだよ」


「!! あれが、ですか?」


「正確にはMEランサーを組み立てている倉庫かな」


 ピーターさんは視線を変えずにそう答えた。

 MEランサー。

 シルヴィアさんからその単語は何回も聞かされていたが、あそこで組み立てられていたのか。


「俺もよくわかっていないんだけど、要するに槍型のミサイルだって」


「ミサイルなんですか?」


「そう。ケーテン砂漠区域外から高速で標的を狙い撃つためのミサイル。

 できるだけ砂嵐とかその中に付着しているプラズマ? とかの影響を受けないように考えられた今回の作戦専用の兵器だよ」


「高速で狙い撃つ……でもそれじゃメタルイーターが壊れちゃいません?」


 メタルイーターは振動に弱い。

 確かシルヴィアさんはそれを弾薬として使うと言っていた。

 てっきり災害級の機械獣の側で手持ち爆弾のように投げるのかと思ったけど。

 ミサイルだと振動が激しいし、運よく災害級のところまで壊れずに飛べたとしてもぶつかった衝撃で壊れるんじゃないかな、と素人目線では考えてしまう。


「うん。確かにただのミサイルだと壊れちゃうね」


 そのことは討伐隊も当然わかっていた。


「だから(ランス)型さ。

 空気抵抗を受けないように先を尖らせ、振動や加速度の影響を受けないように槍の中に粘性が高い特殊な緩衝溶液を詰め込む。

 その中にメタルイーターの弾を入れるんだ。

 衝撃を吸収するほどの量を入れるんだから自然と太い円錐のような形になってね。

 推進部は普通のミサイルのように細い円柱になってるから、それが槍のようだってことでMEランサーってついたらしい」


 ピーターさんは手で槍のような形を表現しつつ、そう教えてくれた。

 粘性の高い特殊な溶液――つまりすごくドロドロしているってことだよね?

 まぁ特殊というくらいだから、それ以外にも性質がありそうだけど、振動や加速度の影響が出ないのなら問題ないのかな。

 実際に見られないとイメージが出来ないけれど。


「たぶんもうそろそろ完成だし、見られるんじゃないかな」


 僕の考えが見透かされたかのようにピーターさんはそう言う。


「機械獣に見つからないように倉庫を作って隠していたけれど、もう発射するしね――あ、ほら!」


 説明していると、ピーターさんはバッと倉庫の方を指差した。

 見てみると、倉庫の方でボンという鈍く重い音が聞こえ、砂煙が舞った。

 倉庫の屋根が割れ、壁が前後左右に倒れ始めた。

 そこから現れたのは黒い発射台と――。


「あれが……MEランサー……」


 メタルイーターによる対災害級の兵器。

 発射台に置かれたのは大きな黒い槍のように見えた。

 槍の先端はケーテン砂漠に向けられ、いつでも発射可能な状態に見えた。

 その兵器の存在感はこんなに離れていても際立ち、災害級の機械獣打倒の説得力がなんとなく上がった気がした。

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