第39話 複数の足音
「テストを見学したんだけど、威力は凄まじいよ。
あれで倒れなかったら、もうどうしようもない!」
その時の弾薬はただの弾薬だったんだけど、とピーターさんは得意げに語る。
エルガスまでの道中、ピーターさんはずっとMEランサーを興奮しながら説明していた。
きっとこういう兵器系の話が好きなんだろう、と僕は愛想笑いを浮かべながら付き合う。
「MEランサーの緩衝溶液は実はある機械獣の――」
だんだんと専門的になってきて、よくわからなくなってきた。
話す速度も速くなっていて、専門用語もどんどん出てくるから、異国の言葉を聞いている気分だ。
ピーターさんは前を向きつつ楽しげに語っている。
僕が理解できてなくても本人は気にしていなさそうだし、話半分に聞いていればいいか。
と僕も前方を向いて、景色を楽しむことにする。
行きではゆっくり外を見れなかったから、帰りくらいは楽しみたい。
「ん?」
――だけど、現実はそう甘くはなかった。
「ピーターさん、あれは何でしょうか?」
「ん? なんだい?」
エルガス方向を見てみると、大きな砂煙が舞っていた。
複数に聞こえる足音と共に地面が小刻みに振動している。
「……何かがこっちに向かってきている……?」
「そのようですね。機械獣でしょうか?」
「いや。ここら辺は滅多に出ない。居たとしても傷害級で、数もそんなにはいない」
というよりそういうルートを選んでいるんだけど、とピーターさんは補足する。
なんと。
シルヴィアさんと一緒にいた時は、ちょっと走れば機械獣という具合に遭遇したのに。
まぁシルヴィアさんのことだ。実力もあるし、急いでいたし、ノンストップって言っていたし。
道を選ばず一直線に疾走したのだろう。
……けれどなんとなく腑に落ちない。
安全な道があるならできればそっちに行きたかった。
ただでさえメタルイーターという危険物を運んでいたんだから。
こっちの身にもなってほしい。
「……うーん。なんだろう……人の集団っぽくも見えるし……けれどあんな砂埃上がるか?」
なんて考えている間、ピーターさんは砂煙を観察しながら首を傾げている。
「まさかオートマタ……とか?」
「ははは……まさか……」
ピーターさんは空笑いして否定する。
まぁそうだよな。
フェデック製のオートマタがエルガスを出発したのは昨夜とサムエルさんは言っていた。
機械獣が蔓延る外をたった半日ちょっとで走り抜け、ケーテン砂漠付近に現れるなんていくら何でも速過ぎる。
シルヴィアさんでさえ一日が限界なんだよ。
「…………」
「…………」
けれど、それが次第にこちらに近づいてくるに従って、僕らの顔は青ざめていく。
「オートマタ……」
ピーターさんがそう呟いたように例の無味乾燥なオートマタが10体ほど見えた。
両手でがっちりと――討伐隊備蓄運搬組から奪ったであろう――荷物をホールドしていた。
エルガスの外である荒野には何もない。
だから街内で行ったようなアクロバットな動きはしてはいないが、荷物の耐久を無視したようなスピード重視の激しい上下運動を繰り広げていた。
だけど、僕らが青ざめたのはそこじゃない。
ただのオートマタが半日でケーテン砂漠に着くのは「案外早かったね」で済む話だ。
シルヴィアさんのことだ。たぶんケーテン砂漠の野営地にオートマタが着いた瞬間、斬り捨てるだろう。
けれど、事態はそう単純ではなさそうだ。
まずオートマタはそのどれもがミサイルランチャーやガトリング砲などを肩や背中につけた戦闘仕様。
もう災害級の機械獣と戦闘する気満々の状態だった。
そして、もうひとつ。
これが一番ヤバい。
ピーターさんは目を丸くし、身体を震わせオートマタ達の後ろにいたそいつを指差した。
「ささささささ……殺戮級の機械獣だぁ!?」
巨大な被甲目型の機械獣。エルガスの外で初めて会った殺戮級。
そいつが砂埃を巻き上げながらオートマタ達を追うように泳いでいた。




