第37話 再起動した災害級
機械獣は謎に包まれている生命体だ。
どこから来たのか。どのように生きているのか。
どういう生態系を築いているのか。
情報が少なく、研究も発展途上。
それも仕方がない。
機械獣は凶暴だ。研究しようと機械獣に喰われたなんて話、よくあることだ。
ただそんな命がけの研究によりわかったことも少なくない。
そして、その中の仮説にこんなのがある。
すなわち、機械獣はそれ全体として1個の生命体である、という仮説。
機械獣たちは独自のネットワークで繋がっている。
彼らは絶えず情報連携し、高度な戦略を立て、群れとして機能を発揮する。
世界中に存在する機械獣が全く同じ情報を共有して、1匹の生命体として行動しているのではないか。
そんな仮説だ。
俄かに信じがたし、実際に研究者の間ではトンデモ理論として専ら有名な仮説だ。
突拍子もない上に証拠もない。
提唱した研究者も妄想哲学者と揶揄されるほどの人物だったので、信用度がないし僕もオカルト雑誌で目にしたくらいだった。
けれど――。
「MEランサーの完成度はどのくらいだ!?」
「およそ80%です。完成まであと3時間の見込みです!」
「1時間で仕上げろ! 機械獣の動きは!?」
「現在も飛行型の機械獣が冷却中! それと同時に災害級の周りにいる機械獣も活発になってきています!」
「チッ! 災害級が目覚めたからか……! 攻撃はまだするな!
様子を見て、動きがあり次第、報告しろ!」
災害級の機械獣が雄叫びを上げたあと、野営地は騒然としていた。
まさか今まで来る気配もなかった鴎型の機械獣が災害級の機械獣のために冷却水を運搬するとは考えもしなかった。
まるで災害級の機械獣を起こすための行動。
周りにいる機械獣が――いや、もしかしたら災害級の機械獣自体が――救難信号を送ったかのように見える。
機械獣たちは独自のネットワークで繋がっている。
もしかしたらこの説はあながち間違っていないのかもしれない。
そんな考えが脳裏を駆け巡った。
「レオ!」
その瞬間、シルヴィアさんが僕に近づいてきた。
その表情はここ一日、共に走っていた頃とは打って変わり、討伐隊エルガス支部長としての顔をしていた。
「……シルヴィアさん……なんでしょうか?」
「荷物運搬してもらって早々に悪いが、君をエルガスに帰す」
「わかりました」
「すまないな。事情を汲んでくれて助かる」
申し訳なさそうな顔をシルヴィアさんがするが、僕は首を振る。
災害級の機械獣が再起動した以上、僕のような民間人がこんなところにいても邪魔になるだけだ。
メタルイーターの弾薬は運んだ。
ご飯も食べて少し休めたし、問題ない。
問題はエルガスまで帰れるか、なんだけど。
「ピーター! こっちに来い!」
シルヴィアさんがそう叫ぶと、作戦本部の前で警備をしていたうちのひとりが駆けつけてきた。
討伐隊エルガス支部で門番をしていた新入りさんだ。
短い金髪でそばかすが頬にある真面目そうな青年。
ほっそりとして背が高く、僕よりも少し上くらいの年齢に見えた。
「は!」
緊張した面持ちでシルヴィアさんに向かって敬礼する。
非常事態の上、支部長に呼ばれたらこんな顔をしても仕方がない。
「レオ。こいつはピーター・コート。
ピーター。こちらは運び屋のレオ・ポーターだ」
シルヴィアさんは交互に僕らを紹介してくれた。
僕とピーターさんは互いに軽く会釈をすると、
「ピーター。エルガスまでのレオ・ポーターの護衛をお前に任せる」
シルヴィアさんがピーターさんにそう指示をした。
なるほど。エルガスまでこのピーターさんが護衛についてくれるのか。
ピーターさんはどこか安堵したような顔をして「は!」と敬礼する。
シルヴィアさんは以前、この人のことを新入りといっていた。
災害級の機械獣と対峙することから逃れられる口実ができて、安心したのだろう。
その気持ちは僕もよくわかる。
僕だって出来ることならこんなところすぐにでも離れたい。
「よろしくお願いします。ピーターさん」
「あぁ。こちらこそ。レオくん」
そう言い合って僕とピーターさんは握手を交わした。
「よし。準備でき次第、すぐに帰路につけ。
今はまだ止まっているが、災害級がいつ進み出すかわからん。
出来るだけ早く野営地を離れるんだ!」
「わかりました」
シルヴィアさんはそう言い終えると、忙しそうに作戦本部を出た。
「俺達も行こうか。帰りの用意は大丈夫?」
「大丈夫です」
荷物そんなにないんで。
ピーターさんは僕の返事に満足そうに頷くと、僕らは作戦本部を出た。
行きはシルヴィアさんのスピードに必死だったが、帰りは、たぶん、ゆっくり帰れそうだ。
ここまでで第4章となります。
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