第74話「遊ぶのだって仕事のうち」
「それじゃあココナちゃん、俺はそろそろ帰るよ。また遊びに来るから」
「はい! 楽しみにしています!」
年相応の無邪気な笑顔だ。俺も彼女に微笑み返す。
俺と同じく、『スナッチモンスター』を愛する心を持つココナちゃんと仲良くなれただけでも、今日はここへ来た意味があった。
そして俺は、三人の少女達に向き直る。
「では、失礼します」
そう言って、出来るだけ礼儀正しい姿勢でフードコートを去っていく。
タダノココナちゃん。あの子とは、また明日も会いに行こう。焦らず、少しずつ、情報を探っていけば、いずれあの子が持つスキルへの糸口も見えてくるだろう。
そんな事を考えながらしばらく歩いていくと、懐からスラタロウが顔を出してきた。
「次は、どこ行くの?」
「もう帰る。ここを襲撃するのは、もう少し時間を掛けてからでも遅くはない」
「でも、御主人様。ボク、彼処行ってみたい」
「んっ?」
スラタロウが興味を示した場所は、おもちゃ売り場だった。
「欲しい物でもあるのか? あるなら買ってやるぞ」
まあ、実際には買うというか勝手に持ち帰るだけだが。
こんな世界になった今じゃあ、何を貰ってもどうせ無料なんだし、好きな物はガンガンいただいていけば良いさ。
そしてスラタロウは、少し迷った後、大きな熊のぬいぐるみを選んだ。
「アレが良い」
「なら貰っていこうぜ。こういう状況だからこそ、娯楽物は必要だ」
俺は、熊のぬいぐるみを抱えると、それをスラタロウに手渡した。
そうするとスラタロウは、嬉しそうに表情を浮かべると、自分の体の中へと大事そうに収納するのだった。
*****
ショッピングモールを出て、ホテルに帰った頃には夕方になっていた。
スラタロウは、帰って早々持ってきたぬいぐるみを取り出してポンポン放り投げて遊んでいる。
どうやら、気に入ったようだ。そのうち、名前でも付けるかもしれないな。
「いやー、今日も働いたなー。自分で自分にお疲れ様だよ」
そう呟きながら俺は、疲れた体をほぐすように腕を思いっきり上に伸ばした。
すると、スラタロウが俺の方を向いて目を丸くし出す。
「あれ? 御主人様、今日は何のお仕事をしたっけ?」
「忘れたのか。トランプやったり、ゲームやったり、ちゃんと働いていただろう」
「おー! あれは、お仕事だったのかー! 遊んでいるだけかと思ってたよ!」
……微妙に失礼な事を言ってくるな。このスラタロウ野郎め。
やれやれ、分かってないな。王様ってのは、遊ぶのも仕事のうちなんだよ。
こういう事を言い出すって事は、スラタロウは遊びの重要さを知らないからに違いない。
よしっ! ならば、コイツをもっと娯楽塗れにしてやろう!
「スラタロウ。何ならお前も『スナモン』やるか? 面白いぞ」
「携帯ゲーム? それ、指が無くても出来るお遊び?」
「ああ、勿論だ。棒か何か掴んで、器用にボタンを押していけば遊べるはずだぞ」
「じゃあ……やるっ!」
やった。スラタロウが興味を持ってくれた。
早速遊ばせてやろう。こんな事があろうかと、ゲーム売り場で『スナモン』のソフトを大量に持ってきておいたんだ。
「ほら、これがスラタロウのゲーム機だ。操作方法を教えるからよく聞くんだぞ」
「はーい」
こうして、俺とスラタロウの和やかな時間が過ぎていく。
ああ……、それにしても平和だ。
今日も色々あったけど、仕事の方は概ね順調。特にトラブルも無いし、怪しい動きも今のところ見えない。
魔物という脅威が害をなさない。それだけで、この世界は案外住み良くなれるのが立証された。
しかし、襲われないのは俺だけの話。未だ魔物は人類を滅ぼそうとしている事実は変わりない。
魔物と人間が敵対している限り、真の平和は訪れない。何とかして、この問題を解決しなければ……このままだと永遠に『スナッチモンスター』の続編が販売されなくなってしまう。それは、俺にとって最大級の不幸だ。
「或いは、『スナッチモンスター』のゲームスタッフを全員救出して、ゲームを作らせるか? それも面白そうではあるな」
そんな荒唐無稽な妄想をしていると、部屋の内線電話から着信音が鳴り響いた。
このホテルで、内線を使える者は限られている。そもそも、喋る奴が少ないからな。
俺は、受話器から端末を手に取った。
「はいもしもし」
『旦那ッスか? コスモスですッス。今帰りましたー』
電話の相手は、コスモスだった。
どうやら、キングの情報収集から戻ってきたようだ。
「コスモスか。お帰り、良い情報は手に入ったか?」
『あ、あー。そ、その話はまた今度にしましょうよ!』
歯切りの悪い返事。
あまり期待しないほうが良さそうだな。
『えっとー。実は、言ノ葉杏里も戻ってきているんッスよ。今日あった出来事を伝えたいから、一階のエントランスまで来て欲しいそうッス』
「分かった。今行く」
俺は、端末を受話器に戻した。
時間的には、もうすぐ夕御飯だな。丁度良いし、食事を摂りながらお互いに今日の出来事を語るとしよう。
「さあ、今日の夕御飯は何かなー? 楽しみだ」
俺は、すっかりパン子シェフの料理の虜になっていた。
期待で胸を膨らませつつ、俺達は一度ゲームを中断して部屋を後にし、レストランの方へと向かう。
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