第75話「割と仲良し三人組」
時間を少し遡ろう。
今朝、朝食を終えた後に二階堂翼と言ノ葉杏里が行動を分かれたところから物語は始まる。
*****
朝食を終えた私は、自分の部屋へと戻ってきていた。
おしゃれな内装。ふかふかのベッド。……何となく遠慮して一番安い部屋にしてもらったけど、それでも一泊十万円の部屋だというのだから緊張して変な汗が流れてくる。
いや、それよりも今は別の事で緊張していた。
「どうしよう。つい安請合いしちゃったけど……私に勧誘なんて出来るのかな?」
「みー」
二階堂くんから仕事のお願いをされて、断るのも気が引けたので引き受けた。
というのもここ数日間。外での仕事は二階堂くんに任せっきりで、自分は基本、安全な敷地の中に居たからだ。
『安全だとわかるまで、コトノハさんはしばらくの間待機していてよ』
二階堂くんのその言葉に甘えてしまったけど、危険な役目をずっとさせていた事に後ろめたさがあった。
だから今朝、二階堂くんから仕事を頼まれた時は少し嬉しかった。これで私も、みんなの役に立てると思ったから。
でも。
「今更後には引けねえぞー。一度受けた仕事は、最後までしっかりやるもんだ」
「……コスモス。貴女は、何でここにいるの?」
今この部屋にいるのは、私とリリー、そしてコスモスだった。
しかしコスモスは、二階堂くんから別の仕事を頼まれていたはず。
「ハッハッハ、そんなの決まっているじゃねーか!」
「……?」
「アーえーっと。ホラ、街にいるモンスターが間違ってオメエを攻撃したら大変だろう? けど、オレがオメエに付き添っていれば絶対に安全! オレが奴らに一声掛ければ、蜘蛛の子を散らすように逃げていくぞー!」
どうやら、コスモスは私のボディガードをしてくれるらしい。
「でも、二階堂くんから任された仕事は?」
「それは……今はタイミングが良くない。他の隊長らは、それぞれの仕事で忙しいはずだし、そこへオレみたいな若輩者が邪魔をしたら向こうは気分を悪くする。そうなれば、情報収集どころではなくなるからなー」
なるほど。理屈は通っているように思える。
「みー」
「いやいやッ! 決して怖え〜から行かない訳じゃねーッスよ先輩! あくまで、効率的に考えての判断ッス!」
コスモスは慌てたように取り繕い、そんな彼女をリリーが冷めた視線で見つめる。
(リリー。そこまで怖い顔をしなくてもいいと思うよ?)
どういう訳か、リリーはコスモスに対して少し厳しいところがある。まあ、この間まで殺し合っていた仲を思えば、そういう態度も理解出来るんだけど。どうもそれだけが理由ではない感じだ。
嫌悪感とは異なるような……喩えるなら、『喧嘩するほど仲が良い?』。それか、『好きな子ほどからかいたくなる』そんな心理?
まあ何れにせよこの二人、今ではすっかり仲良しなったように思える。
コスモスも、最初に比べて大分リリーの言葉をわかるようになったみたいだし。
(リリーのスキル『感覚共有』だっけ? それのおかげでリリーの言葉が周りに理解出来るようになるって、二階堂くんが言っていた)
何でも、リリーと心を通わせられている人程、お互いに意思疎通が図れるようになれるそうだ。
つまりコスモスも、段々リリーと仲良くなってきているからこの子の言っている言葉も理解出来るようになったと……そういう事なのだろう。
「とにかく! オレもオメエらに付いていくから、そのつもりでッ!」
「それは構わないけど……」
「みー」
特に断る理由も無い。
それにコスモスの言う通り、万が一の時に彼女が居てくれたら心強いのは確かだ。
「それで、警察署だっけ? そこへ行くのはオレ達だけか?」
「うん」
「……人間共が集まる場所へ行くんだろう。オレはともかく、リリー先輩のその白髪と赤目は目立ち過ぎやしないかー?」
コスモスの言うことは最もだ。
二人共。凄く人間に近しい容姿をしているものの、リリーは少しばかり日本人離れした見た目だ。どうしても注目を集めてしまうだろう。
今回の仕事は、潜入調査という意味も含まれている。なので、あまり目立つ事は避けたかった。
「みー」
「アア、オレの羽とアームは折り畳めるッスから。上着でも羽織って隠せば問題無し!」
「うーん。白髪は帽子で隠して、赤目は眼鏡を付ければ良いかな?」
いっそ髪を染めてしまうのも手だけど、やり方が分からないので失敗した時が怖い。
もしリリーに関して何か言われたら、『親戚の子です』と言って誤魔化そう。
「変装するなら服がいるッスね。地下の倉庫にあるから、そこで色々調達するッス」
二階堂くんは、この辺の店から沢山の物資を集めている。その中には衣服等もあって、アパレルショップから大量に取ってきたらしい。
「じゃあ、一旦地下で着替えてきてから出掛けようか」
「みー」
「賛成ー」
こうして、二階堂くんから頼まれた『異能者』の勧誘は、私を含めた三人で行われる事になった。
正直、あまり自信は無いけれど、とにかく今は精一杯やるしかない。
私は、そう考えて、気を引き締めるのだった。
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