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第42話「冒険の準備」

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 私と二階堂くんは、情報交換をしつつカレーを食べ終えた。疲れていたからか、いつもより食事が美味しかったような気がする。

 下げた食器を流し台へと持っていき、洗浄。

 こんな状況だけれど、やはり汚れた食器をそのままにしておくのは忍びなかった。せめてこのくらいは片付けておこうと思う。


「マメだね〜コトノハさんは。そうやってしていると主婦みたいだよ」

「そ、そうかな?」

「カレーも美味しかったし、料理上手だ。コトノハさんは、きっと良いお嫁さんになれるね」

「や、やめてよ変なこと言うの。それに、最近は男性でも料理する人は多いらしいし。食器洗いだって、別にこれくらいは誰だって出来ることだし」

「え゛っ」


 その時、二階堂くんの口から鈍い唸り声が聞こえてきた。


「どうしたの?」

「……俺、料理はおろか食器洗いも生まれてから一度だってしたことないぞ」

「そ、そうなの?」

「……うん。厨房のことは全部コックに任せているし、そもそも立ち入ることすら珍しいくらいさ」

「コック?」

「お抱えの料理人だよ。何人か雇っているんだ」


 二階堂くんは、さも当たり前のようにそう言った。

 しかし、この国でお抱え料理人を雇っている家庭が一体どれだけあるというのだろうか? 余程のお金持ちでなければ不可能に思える。


「みー」

「こ、こらリリー! そんな失礼なこと言ったら駄目だよ!」

「えっ? リリー、なんて言ったの? ていうかコトノハさん、リリーの言葉がわかるの?」

「な、何となくだけど」

「ふーん。……それで、なんて言ってたの?」

「え!? いや、別に……そう! 大したことじゃないよ、うん!」

「……………………」


 二階堂くんは、黙ってしまった。

 食堂に気まずい空気が流れる。


「ああ。そう言えば俺、学校の食堂に入ったの初めだったなー。ちょっと探索してみよーっと」


 そんな独り言を呟きながら、二階堂くんは厨房の奥の方へ逃げるように進んでいった。

 ……どうやら、彼の心を傷付けてしまったらしい。

 私が二階堂くんと初めて出会ってからまだそんなに時間は経っていないけれど、彼があんな風に傷付くところは珍しく感じた。いつも飄々としているように見えたから。

 まさか料理と食器洗いが出来ないくらいで落ち込むとは思わなかった。


「みー」

「だから、そういうことは言っちゃ駄目なの」

「みー?」

「……もしかしてリリーって、二階堂くんのことが、その……好きじゃないの?」

「みー」


 リリーは、私の質問に返答した。

 ……二階堂くんには、教えない方が良さそうだ。ありのまま伝えるとまた彼を傷付けることになる。


 さて、食器洗いも終えて片付けも済んだので私達はテーブル席で一休みすることにした。

 何だかんだ色々あって疲れが溜まっているのがわかる。今の間だけでも体を休めておいた方が良さそうだ。

 そしてしばらくすると、二階堂くんが戻ってきた。

 彼は、何やら沢山の道具を抱えている。


「見てよコトノハさん。サバイバルで役に立ちそうな道具を集めたんだ。コトノハさんにもあげるよ」

「あ、ありがとう」


 なるほど、サバイバルキットか。確かに、この崩壊した世界ではそういった道具がいざという時に必要かも知れない。

 二階堂くんは、抱えていた道具をバラしてテーブルの上に並べていく。


「さあ、コトノハさん。好きなものを選んでよ」


 彼が持ってきてくれた物は、どれも一般家庭に常備されているような些細な日用品ばかりだった。

 しかし、これらが手元にあることで万が一の際に救われる可能性だってあるのだ。そう考えると、真剣に選ぶべきなのだろう。


「うーん。それじゃあまずは…………まな板、フライパン、麺棒、サランラップ、アルミホイル、ハサミ、ゴム手袋、消毒用アルコール、サラダ油、ガスライター、ポリ袋」

「パスタや缶詰め等の非常食もあるよ〜。あと、たっぷりの唐辛子で作った催涙スプレーも用意したんだ。これを吹きつければ魔物だってイチコロさ」

「そんな物まで。でも、あんまり持っていくと荷物になるかな?」

「そういうと思って、リュックサックを見つけておいたよ」

「みー」

「あ。リリーが二階堂くんのこと褒めてくれてるよ」

「やった! 名誉挽回!」


 二階堂くんは、嬉しそうだ。

 それからも私は持っていく物を吟味していき、一通り役立ちそうな道具を揃えることが出来た。


「これだけあれば十分だろう。存外多くなっちゃったけど、まあ今の状況で食料や日用品は貴重だ。沢山持っておいて損はないはず」

「そうだね」

「ふっふっふ。楽しくなってきたぜ」

「……楽しい?」

「冒険心がくすぐられる、っていうのかな? カバン一杯に荷物を入れて、スリル満点の世界に飛び出すのって楽しいんだ。夢とロマンがある」

「…………?」

「あれ、わからない? 俺は、スナモンをプレイする時、いつもそんなワクワク感でいっぱいになっているけどな〜」


 そう言って、二階堂くんは上機嫌で自分のカバンの中に荷物を詰めていった。

 夢とロマン。

 私にはよくわからないことだけれど、彼はこの状況に喜びを感じているようだ。いっそ不謹慎とも言える考えだが、私には寧ろ羨ましく思えた。

 彼は何というか、心に余裕がある人間だ。楽観的とも言えるけど、不安やストレスをまるで感じていないというのが伝わってくる。

「俺は不安とは無縁の人生を送ってきた」なんて、さっきは冗談だと思っていたけれど案外本当のことなのかもしれない。

 一体、どんな人生を歩めばそんな風になれるのだろうか?


「知らないことを知れるっていうのは、幸せなことさ。発見は、いつだって驚きと興奮に満ち溢れている。コトノハさんも機会があれば、冒険に繰り出すと良いよ」

「いや。魔物やゾンビが現れたり、あちこち歩き回ったり、私にとっては今が冒険みたいなものだよ」

「確かに! ……あと、頼もしい仲間も出来たみたいだし?」

「みー!」


 リリーが我関すると言ったように主張し出す。


「……うん。リリーは私の仲間、だね。それに、二階堂くんも」

「俺も?」

「……違う、かな?」

「はっはっは。そう言われると否定出来ないな〜。よし、俺達は今日から『仲間』だ!」


 二階堂くんは、声高に宣言した。

 仲間、か。

 そんなもの、私には無縁の存在だと思っていた。でも、様々な偶然が重なり合って、私達はこうして共にいる。

 こんな状況ではあるけど、二階堂くんやリリーと出会えて本当に良かったと、私は心からそう思った。

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