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第41話「命<プライド」

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「ふーん、なるほどね〜。やはりあの羽の少女、インセクトキッズが魔物達を操っているボスだった訳か。良い情報を手に入れてくれたね、コトノハさん」

「私は何も……。あのフードの人が話してくれただけだから」

「経緯は重要じゃないさ。大事なのはその情報が俺の耳に届いたという結果だ。しかし、その大男は一体何者なんだろう。只者じゃないよ」

「色々知ってそうではあった、かな?」

「まあ、もし次出会えたら尋ねてみよう。今から探しに行く気にもなれないし」


 私と二階堂くんは、食堂で食事を済ませつつ情報交換を行っていた。

 どうやら二階堂くんも、あの後色んな場所へ行ってきたようだ。その結果、沢山の仲間がやられてしまったという。

 確かに、あれだけ居た魔物達が今は一体も見当たらない。

 皆、屋上で出会ったあのオークに倒されてしまったのだと、二階堂くんは言った。


「俺も自分の身を守るのに精一杯でさ。奴には悔しい想いをさせられたよ。そんな訳だから、結局俺の方はあまり収穫はなかったんだよね。失ったものの方が多い…………でも」

「でも?」

「いやさ。実は俺、初めて友達って呼べる人が出来たんだ! それが思いのほか嬉しくってさぁ」

「……友達?」

「ああ。……アレは、まさに運命の出会いってやつだったね」


 そう言って彼は遠い目をし始めた。

 二階堂くんが妙に上機嫌なのは、もしやその人が原因なのだろうか?


「その人は今何処に?」

「なんか用事があるからって何処かへ行っちゃった。でも、彼女とはまた会えそうな気がするんだ」

「……そっか」


 何だか気になる話だ。


「それで、二階堂くんはこの後どうする予定なの?」

「何も。もう夜も更けてしまったからね。今日は休んで、明日に備えるよ。幸い、二人が見つかったおかげであの拠点にも戻れそうだしさ」


 時計を見てみると、時刻は二十時。

 幸い、校内は電灯が点いているのである程度は明るい。それでも、魔物だらけの外を視界が悪い状況で出歩くのは危険過ぎる。

 私達も今日の外出は控えたほうが良さそうだ。


「カレー食べたら、拠点へ戻ろう。俺は早く横になりたい」

「そうだね。私も少し疲れた。……校舎、潰れたりしないかな?」

「やめてよ縁起でもないこと言うの。半壊したとはいえ、今晩くらいは泊まれるはずさ。多分!」


 二階堂くんは、根拠のないことを自信ありげに答えた。


「さあ、いよいよ本格的なゲームタイムが始まるぞ! 落ち着いて居られるうちにガンガン遊んで行くぜー!」


 二階堂くんはゲームを取り出す。余程、そのゲームで遊びたいようだ。

 ……それにしても、何故彼はああも不安を感じられずに居られるのだろうか? 人が大勢死に、危険生物が徘徊するこの場所で、どうして平静を装えるのか。私は不思議だった。

 もしかしたらこの人は、私と同じで死ぬことに拒否感を抱いていないのではないか? ……そう思ったりもしたのけど、どうやらそういう訳では無いようだ。彼は、自分が生きるために行動して、情報を集めようと頑張っている。


『…………君はさ。死にたいって、思ったことある?』

『え? 無いよ』


 屋上で初めて二階堂くんに出会った時、私は彼に質問した。その後、私は彼と同行すると決めて、今に至る訳だが……。

 私は……何で彼について行こうと思ったんだろう?


「二階堂くん」

「うん?」


 気が付けば、私は声を発していた。

 そのまま言葉を紡いでいく。


「……二階堂くん。言っていたよね。『俺には、自分の命よりも大事なことがあるんだ』って」

「……? そんなこと言ったっけ? まあ、最優先は命ではないのは確かだね。俺には、命を賭けても守りたい『プライド』というものがある」

「プライド?」

「そう、プライド。例えば、俺が崖崩れにあって今にも落下死しそうだとする。そういう時、みっともなく泣き喚いたりはしたくない。クールを装うね」

「う、うん」

「でもこれは、俺だけに限った話じゃない。人は、自分の命より大事にしている物を意外に沢山持っているのさ。コトノハさんだって、絶対持っているはずだよ」

「私……」


 自分の命より大事なもの。

 そんなの、考えたことも無かった。私は人生に絶望して、ずっと死にたいって思っていたから。


「コトノハさんってさ。自分自身が死にたいって考えたことある?」

「えっ!?」


 まるで心を読まれたかのような発言に、思わず驚きの声が漏れた。


「そういう人は、まさに典型だよ。自分の命より大事なもの、プライドを守りたいから『死にたい』って思うようになるんだ。苦しみや悲しみから逃れたいために死を望むのも、プライドを傷付けたくないための自己防衛本能から来るものだと俺は思っている」

「…………」

「逆にプライドが無い奴は、自分がどれだけ傷付いても汚れても平然と生きていたりする。しかし個人的な意見を言わせて貰えば、プライドの無い奴ってのは獣と変わらない。知性ある生物である以上、人間は誇り高く生きるべきだよ」

「…………」

「そのためには、時には自身の命だって賭けるのさ。最も、それは命を軽んじろという意味ではないよ? 誰だって死にたくない。でも、命にも価値があり、それを上回る価値を持つものがあるんだ」

「…………それが、プライド?」


 何だか難しいことを話してくれている。

 しかし彼が言うには、どうやら私はプライドがある人間のようだ。プライドがあるから、それ故に傷付きたくないから死を選ぶのだと。

 けれどおかしな話だと思う。私には、プライドと呼べるような物を持っている自覚がない。そんな物、本当に私の中にあるのだろうか?


「何、簡単な話さ。コトノハさん、百万円あげるから今すぐそのカレーを頭に被って奇声を上げながら食堂中を走り回ってみてよ。あ、シャワーは用意してあげるから」

「ええっ!? ……いや、無理」

「だろう? プライドがあるから出来ないのさ」

「……二階堂くんの言いたいことは何となく分かってきたかも。でも、それって殆どの人に当てはまることだよね?」

「うん。程度は異なれど、プライドはみんなが持っているのさ」

「……でも、私と二階堂くんは違うと思う。私は君みたいに、不安を抱えずに生きられない」

「え、なに? コトノハさん、不安を抱えて生きているの? そりゃあ丁度良い!」


 二階堂くんは、上機嫌にそう言った。


「丁度良い?」

「ああ、気にしないで。つまり俺が言いたいのは、俺は君を助けたいってことさ」

「……え?」

「自慢ではないけど、俺は不安とは無縁の人生を送ってきたからね。そんな俺の支援があれば、コトノハさんの人生もきっと薔薇色。一生不安とは無縁の生活を送ることが出来るよ」


 二階堂くんは、自信満々にそう答えた。

 何だか、怪しいセミナーの勧誘みたいなことを言ってくる。本気かどうか正直疑わしい。


「えっと、そう言うのを求めている訳じゃなくて」

「……あ。何だ、そうなんだ」

「な、なんか、ごめん」

「いやいや、気にしないで。でも、困ったことがあったら何でも言ってよ。コトノハさんには無理なことでも、俺だったら解決出来るかも知れないんだしさ。一人で何でも抱え込む必要はないんだよ?」

「…………うん」


 その言葉を聞いて、私の心が少しだけ和らいだ気がした。

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