第23話「二度目の虐殺」
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「みんな、慌てないように! 先生の指示に従って移動をするんだ!
「ゾンビや怪物達の相手は何とかする! 急いで! 校門を抜けるんだ!」
拠点を離れて、校舎の玄関前まで移動してきた俺とコトノハさんは、そこで多勢の人影を見た。ゾンビではない。紛れもなく生きている人だ。
彼ら彼女らは、先頭を走る教師や生徒達に案内されるまま、一直線に移動をしていた。向かう先は、どうやら学校の校門。十中八九、あそこから校内を脱出するつもりなのだろう。
やはり俺の予想は当たっていたようだ。体育館で襲撃に遭った生存者達が、ここまで逃げてきたのだ。
「あれが、生き残っていた人達? ……あんなにいたんだ」
「うん。四百人くらいはいるらしい。だけど、どうやらここにとどまるのは危険と判断したんだろうね。一か八か、校内を出て助けてくれそうな場所へ向かうつもりなんだろう」
しかし、そう考えると妙だな。
この学校は、校内を覆うように大きな塀があって簡単にはよじ登れない。外出するには、校門。『正門』か『裏門』のどちらかを使う必要がある。
そして、生存者が立て籠もっていた体育館からは、裏門の方が近かったはず。何故わざわざ正門まで移動して来たんだ?
「……あ。駄目だ。校門の前にオークがいる。あれじゃあ外に出られない」
「本当だね。一体どうするつもり……おっと。先生のうち一人がオークに攻撃したぞ」
あの先生。武器を持っているということは、スキル持ちかな?
攻撃を受けたオークは、反撃とばかりに手にしている棍棒を先生に向かって振り回している。先生は、それをいなすように動きながら、オークを誘導しているように見える。
「なるほど。ああやって挑発してオークを校門近くから引き剥がそうとしている訳ね。他の生存者を助けるために」
いや〜見上げた心意気だね。
なかなか出来ることじゃないよ本当。うん。自己犠牲の精神。凄い。
自己犠牲。自己犠牲。……俺が大っ嫌いなやつね。
「や、やった! 今のうちに走り抜けろ!!」
先頭付近を走る生徒が、そんなことを叫んだ。彼の後ろを走る他の生存者は、それに反応して走る速度を上げ出した。
皆、他の者などお構い無しに我先へとひたすら足を前後している。全生物が持つ、「生きたい」という気持ち。そのエネルギーが、この恐ろしい世界から抜け出そうとするため必死こいて爆発させている。そんなように見えた。
「コトノハさん。これは個人的な感想なんだけどさ。俺は、今の先生みたいに自らを犠牲に多くを助けようとする人より、自分だけは何が何でも生き残ろうと無様に足掻く人の方が好き」
「……まあ、言いたいことはわかるかな」
「でしょう? やっぱり人間、いや生物は、生きてなんぼの存在だからね〜!」
結局、どんな道徳観念並べたって、所詮俺らは獣で畜生。だったら、もっと正直に生きるべきだ。己の人生のために。己の命のために。
『自己中心主義』。それは、何よりも自分こそを最も優先する考え方。
自身を尊重し、そのために他者を踏みにじることを厭わない者こそが正義。それは、世界に『生命』というものが誕生した頃から遺伝して受け継がれてきた絶対の本能である。
自分のことより他人のことを大切にする? 実に愚かな行為だ。そういう奴は、ハッキリ言って馬鹿だ。生物というもの、生きるということをまるで理解していない。というか、何故そんな発想が生まれてくるのかが俺には理解できないね。自分が反生物的なことをしている自覚がないのだろうか?
俺は、歴史はあまり詳しくないけど、この世で最初に『他者を重んじろ』などと布教した奴は、その罪の重さをよーく自覚しておくべきだろう。
ほら。アンタが言い広めた主義主張のせいで、今まさに一人の命が愚かしく失われそうになっているぞ。オークを引き寄せた先生は、今この瞬間にも棍棒の攻撃で倒れてしまいそうだ。
「あーあー駄目だこりゃ。そもそもウェイトが違い過ぎるんだよ人間とオークじゃ。あんなデカくて太い相手、まともに戦う方が無理……ああ、叩き潰されちゃったぞ」
先生は、苦戦を強いられながらも何とか時間を稼ごうと粘り続けていたが、遂にオークの棍棒が彼の胴体へと思い切りくらってしまった。結果、先生は倒れて、オークの追撃……棍棒をモグラ叩きのように何度も何度も叩きつけられて、そのまま動かなくなってしまったのだ。
魔物を倒した人間は、ステータスとスキルが手に入り強くなるらしい。しかしそれはそうとして、やはり物理的な優劣はある訳で。そもそも、勝てないっていうね。俺だって戦いたくないよ。あんなデカブツ。
「……あの先生はやられちゃったけど、お陰で何十人か校門の外へ出られたみたい」
「そうだね。まあ、どこへ行くか知らないけれど、達者で居て欲しい…………うん?」
俺が改めて校門の方を見てみると、様子がおかしいことに気付いた。校門から校内から脱出した生徒達が、何故か二の足を踏み出し、在ろう事か再び校内へと戻ってきたのである。
俺は、首を傾げた。そして、俺の疑問はすぐに拭い取られる。
校門の外。大きく開いた門からゾロゾロと行列を組んで、大量のモンスターが雪崩れ込んでくるのが見えたからだ。
「な、何なんだよ何なんだよ!! 次から次へと!!」
「おいどうするんだっ!? もう逃げられる場所なんて無いぞ!!」
「裏門も正門も怪物だらけだ!! 完全に囲まれちまった!!」
……裏門も正門も怪物だらけ、だって?
そうか。この人達は、最初裏門から逃げようとしたけど、魔物がやって来たから逃げられなかった。だから正門まで移動して来たのか。
「しっかし、結構な数だな。パッと見て百体……いや二百体以上。ゾンビもいるなぁ」
俺のスナッチがあれば隠れながら少しずつ数を減らせていけそうだが、彼らにあの状況を打破する奴が果たしているのか。
いや、わかっているさ。そんな奴がいるんだったら、皆あんなに慌てていない。彼らにとって、あのモンスター達の襲来をまさに絶望的な展開なのだ。つまりこれから始まるのは、異形のモノ達による『大量虐殺』。……身が震えるぜ。
「いやー可哀想に。巻き込まれないようにサッサとに逃げないとなぁ」
「ちょ、ちょっと! 目的忘れてない? まだリリーを連れ戻せていないよ」
「そうだった! すっかり忘れていたよ!」
つい目の前の出来事に注目してしまっていた。
あの小娘め! 一体どこに行ったんだ!?
「いた! あそこ!」
コトノハさんが指さした方向は、校舎の壁側だった。
高さは、二階の辺りだろうか? 蜘蛛の巣を巧みに操り、リリーは壁に足を付けて上へと登っていくところだった。
「おーい! どこ行くんだ。戻ってこいリリー!!」
「みー」
リリーは、俺の必死の呼び止めも無視して更に先へと進んでいく。三階付近まで辿り着き、もっと上に向かっているようだ。
「あいつ、まさか屋上に行くつもりなのか?」
「屋上? なんで?」
「さあね。だけど目的地がわかれば先回り出来るかも。階段を使うぜ!」
リリーの目的は不明。校内もえらいことになっている。それでも俺達は、今できることを全力でやり切るだけだ!
俺達は、リリーを追いかけるため、再び校舎へ入り階段を上り、屋上へと向かうのだった。
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