第24話「羽を携える少女」
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校庭では、再び大虐殺が行われていた。本日二度目だ。
校門からの逃げ道を失った生徒教師らは、まさに前門の虎後門の狼といった状態。迫りくるモンスターとゾンビの群れに為す術なく、やられていく生徒達がチラホラ。しかし、前回と違う部分は、戦える者が何人かいるということだろう。『職業』と『ステータス』。これを手に入れたことで、ただの人間だった頃とは圧倒的に身体能力が上がり、特殊な技が使える。元々、ランク☆LV1程度のモンスターならば、無能力者でもその気になれば勝てるのだから、二回目となると生存者達も慣れて、対抗策を検討することも出来ているように見えた。
「うーん。やっぱり、あれだけの人間がいると、殲滅するも一筋縄じゃいかねーかー。雑魚中の雑魚共じゃ話になんねーなー」
校舎の屋上。校庭が一望出来る場所から、そんな声が聞こえてきた。
声色からして女性。それもわりかし若い感じだ。その容姿を見れば、大体12〜13歳ではないかと予想される。
ただ、その少女を一目見たならば、まず第一に思うのは彼女の年齢などではない。
『羽』だ。少女の背中からは、まるで蝿の羽のようなものが二本生えていたのである。
よくよく見てみれば、少女の容姿は普通の人間とは異なる部分があった。
頭からは長い二本の触手。
横腹からはクレーンゲームのアームのようなものが付いていた。アームは黒く、何に利用するのかわからない。
それ以外は、取り立てておかしな部分はないので、ひょっとすればただのコスプレ少女ではないかとも思えるが、現在のこの状況から鑑みるに、彼女を一般人と想定するのは少々迂闊と言えよう。そして、実際として少女は人間ではない。この地に訪れた異形のモノ達と同じ存在。『モンスター』なのである。
「流石にランク☆☆のモンスターが『オーク』だけなのはきついかー。あー、見積もりミスったなー」
こんなはずではなかった、と羽の少女は呟く。
少女の想定では、例え人間共がモンスターを狩り、力を得ようとも十分押し切れると考えたのだ。実際、最初の奇襲作戦では上手くいき、一気に数百人規模の戦死者を出すことに成功した。倒せば倒す程、モンスターは経験値を手に入れ強くなり、後は人間を『ゾンビ化』させて戦力を増やしていけば殲滅するのも時間の問題だ……そう考えていた。
しかし、油断し過ぎていたのだ。仕事が思ったより順調にいき、少しだけ休憩をしていた羽の少女が再びエリアに戻ってみると、どういう訳かモンスターの数がありえない程減っていた。少女が使役している『小蝿』達がそれを知らせてくれたのである。
理由を尋ねてみると、どうやらこのエリアに強力な『プレイヤー』が現れたのだと。そいつが、モンスターを次々に消していき、在ろう事かモンスターを従えてしまっているのだと。……羽の少女は、小蝿からそのような説明を聞かされた。
慌てた羽の少女は、すぐに他のエリアから応援を要請してここに誘導してきた。そして、都合良く人間の集団が外を出歩いていたので突撃の命令を下したのだ。正門と裏門、逃げ道を断つように。しかし、結果はあまり芳しくない。人間達は抵抗して、一回目の奇襲と比べて明らかに火力が足りていないように見えた。
「隠し球として用意していた高LVのオークくんも、向こうで足止めを受けているみたいだし、やっぱりオレが行くしかねーかー。嫌だなー」
羽の少女は、ゲンナリとした様子でそう言った。彼女には、彼女を指揮している『上司』がおり、任務が失敗したと聞けば自分にどんな不始末を負わされるのかわからない。最悪『処分』されることもありうるだろう。
羽の少女は、自らが戦うことを好まなかった。だが、こうなってしまっては仕方ない。このエリアの制圧を無事果たすため、その二枚の羽を広げて人間達が集まる地へと飛び立とうとする。
…………しかし、その時だった。
「みー」
不意に、奇妙な鳴き声が聞こえてきた。
振り向くと、そこには白髪の少女。いや、モンスターである羽の少女は、その白髪の少女もまた、自分と同じモンスターであると気付いた。
白髪少女のモンスターは、その無感情な瞳を羽の少女に向けてじっと見つめていた。
「あれれー? こんなモンスター連れてきてたっけかなー? ていうか、そもそも何故ここに……」
と、羽の少女が首を傾げた次の瞬間。
ブォォオオオオオオオッッ!!と、白髪少女の掌から燃え滾るような灼熱の炎が放射されたのであった。
「おぉわぁっ!?」
驚いた羽の少女は、寸前で空を飛んで回避。
しかし直後、白髪少女は指先から蜘蛛の糸を放つと、羽の少女の足部分に命中させた。すると、白髪少女は蜘蛛の糸を強く掴み、それを引っ張り振るい回すようにして羽の少女を屋上の硬い床へと叩き付けたのだ。
「ブゲラァッ!!」
想像もしていない痛みが、羽の少女の顔面を貫き、奇声を上げる。
白髪少女は、身悶えする羽の少女に近づこうと歩みを進める。
羽の少女は、何が何やらわからなかったが、取り敢えず彼女を危険だと判断して反撃に移ることにした。
「あ、現れよ眷族達!!」
羽の少女の周囲に、無数の小蝿が出現された。
小蝿の大きさは、せいぜい1センチ程度だろうか。しかし、それらが一か所に固まることでまるで巨大なボールのように象り相手を圧倒させようとする。
そして、小蝿の群れは一斉に白髪少女に向かって突撃を仕掛けた。この小蝿には、物理的な攻撃力こそ皆無なものの毒性を持っており、皮膚に触れることでダメージに与えるが出来るのだ。それが数百数千という規模で群がれば、相手を命の危険に追いやることさえ可能となる。
「みー」
しかし、小蝿の群れが白髪少女の体に纏わり付くことはなかった。
白髪少女は、自身の指先から蜘蛛の糸を放出して『巣』を作り出したのである。1センチの小蝿さえ逃さぬ細かく編まれたその蜘蛛の巣は、勢い良く投げられ小蝿の群れを余すことなく捕らえたのであった。
自分の技を難なく対応された羽の少女は、唖然とした表情を浮かべた。
「くっ! なんだオメエはっ!? このオレが誰なのか知って攻撃してきたのか!?」
「みー」
羽の少女の問いかけに、白髪少女はいつものように鳴き声を上げるだけだった。
「……言葉を話せない? なら、せいぜいランク☆☆☆のモンスター……いや、しかしそれにしては技の威力も手数も桁違い……」
羽の少女は、何やらぶつぶつと独り言を呟きながら考え込んでいるようだったが、やがて吹っ切れたように白髪少女に向かって吠えだす。
「まー何でも良いわっ!! オメエがどこの誰だろうと、どうせオレより強くねーんだ! だったら売られた喧嘩は買わせてもらうぞこの野郎!!」
羽の少女はそう言い放ち、即座に臨戦体制に移った。
『白髪少女』VS『羽の少女』。
二人の魔物同士の衝突が、今始まろうとしている。
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