大地の王宮4階層
「うわぁ・・・」
「これは、凄いですね」
アキト国製の魔法薬で体力や魔力を回復した後、3階層から降りてきたハルたちは、見えてきた景色に思わず足を止めどこまでも続くように見える地平線を眺めた。
5人を待っていたのは燦々と照りつける太陽に、細かな砂が巻き上がる不毛の大地、砂漠のエリアだった。
「これはまた厄介そうなエリアだな。暑くて体力を奪われる上にかなり広そうだ。2階層と同じように進路を確定してから進むべきだな。ハル、気配を探ってみてくれ」
「任せて!」
レナードの言葉を受け、ハルが【感覚強化】を発動する。そして目を閉じて意識を集中させ、4階層の中で強い気配を探し始めた。
すぐにハルは目を開ける。
「いた!!2階層の時と違って今度ははっきりとわかる。2時の方向に真っ直ぐ進んだ所。かなり強い気配、恐らくSSランクの上位レベルの魔獣がいる。距離は・・・10キロはありそうだ。ここ、ほんとに迷宮の中なの?どれだけ広いんだ・・・」
「まあ、迷宮の謎をいちいち気にしていたら切りがないさ。他に何かわかったことは?」
「彷徨いている敵のレベルが高いね。AランクからSランク上位ってところかな。意図的なものかどうかはわからないけどここから真っ直ぐ目標の大きな気配に向かって進むと2つの集団にぶつかるね。手前のものはAランクの魔獣が50体ほど。もう一つの群れはSランクが10体ほど。後、目的地の周辺にわかり辛いけど複数の強い魔獣の気配がある。大きな気配がボスのものなら、ボス部屋の周囲を守っているって感じかな」
「なるほどな。Aランク50体とSランク10体ならこの戦力でならそれほど手こずらないだろう。この迷宮に入って既に5時間近く経っている。時間を節約するためにも2階層と同様に最短ルートで進む。それと、距離があるようだし、身体強化を使ってハイペースで移動するぞ。魔力の回復効果のある魔法薬は小まめに摂取しておくように。では、出発しよう」
ハルたちは身体強化をして4階層の攻略を開始した。
5人は入口から真っ直ぐ2時の方向に動き出す。散発的な戦闘を行いながら、4階層をハイペースで進んで行き、3キロほど進んだ所で小さなオアシスが見えてきた。そのオアシスの周囲を陣取るように、50体ほどの、全身を黒光りする硬質な鱗で包んだ4足歩行の大きな魔獣たちが彷徨いている。
「え、ドラゴン!?いや、翼が無いですね。大きなトカゲですか?」
「Aランク魔獣、ドラゴンモドキだね。竜種じゃなくて亜竜種って扱いだったはず。あれが、さっき気配を探った時に見つけた手前側の群れみたいだね」
「亜竜種ですか!?それってワイバーンと同じ?」
「そ。竜種ほどじゃないけど手強いよ。硬くてパワーがある。ドラゴンモドキは口から火のブレスも吐くしね」
「なるほど、それでどうしますか?」
「まあ、強いって言ってもあくまでAランクだし、50体程度ならそれほどリスクはないけど・・・。どうする、義父さん?」
「そうだな・・・。この先にSSランクの上位レベルの魔獣がいるなら少しでもお嬢さんの能力を上げておくべきだろう。Aランクの中でも上位の魔獣だ。お嬢さんならまだそれなりの成長が見込めるだろう。倒して行くぞ」
ハルたちはこのままドラゴンモドキの群れと戦うことを決め距離を縮めた。ドラゴンモドキに気付かれないギリギリの距離からハルとセシリアが魔法で先制攻撃を掛ける。
「【サンダーレイン】!!」
「【ライトニングカノン】!!」
ハルの魔法で、ドラゴンモドキの上空に現れた魔法陣から雷の雨が降り注ぐ。また、セシリアが放った魔法は高速でドラゴンモドキの元まで飛んでいき、炸裂した。広域を高圧電流の衝撃波が覆う。
魔法が消えた時には2つのクレーターができており、半数以上のドラゴンモドキがブスブスと黒焦げになり煙をあげて白目を剥いていた。
「予定通り削ったよ!!」
「よし、こちらも行くか」
レナード、セーラ、ロッテの3人が突然の攻撃を受け混乱の極みにあるドラゴンモドキの群れに強襲をかける。レナードとロッテは流れるように、セーラは1体1体確実に、ドラゴンモドキを仕留めていった。
「終わったね。お疲れー」
後方で待機していたハルとセシリアは戦闘が終わったのを確認してオアシスの傍までやってきた。辺りにはドラゴンモドキの死骸が散乱している。
「あー、オレとセシリアがやったドラゴンモドキの素材は使い物にならなさそうだな。こっちは焼却して、
3人が倒した分だけ回収しておこう」
ハルは素材として使えそうなドラゴンモドキを回収した後、黒焦げになったドラゴンモドキを集め、高温で焼却した。死骸はきちんと焼いて処分しておかないとアンデットになって動き出すのだ。
「オッケー。終わったよ」
ドラゴンモドキの処理を終え、ハルは休憩していた4人に声を掛ける。
「お疲れ様です」
「よし、それでは行くとしよう」
ハルたちは再び焼けた砂の上を進み始めた。
再び3キロ程進むと次のオアシスが見えてきた。先ほどより規模が大きく、湖の周辺にはちょっとした花畑が広がっている。その花畑を我が物顔で踏み躙りながら歩く大きな魔獣たちも視界に入る。
「へえ、また亜竜種か。それもかなり珍しい奴だね」
「ああ。俺も久々に見るな」
2本の足で立つその魔獣の体長は10メートルを超え、身体はドラゴンモドキと同様に硬質な鱗で覆われており、身体に対して大きな顎には鋭く巨大な牙が並んでいる。前傾姿勢で立っているためにバランスをとるために尻尾は長く進化し、逆に2本の指が付いた前肢は小さく退化している。
「Sランクの魔獣にして、古代型亜竜種のティラノドンだね」
目の前の大型魔獣ティラノドンは大昔から存在し、その姿をほとんど変えずに現代まで子孫を残してきた種族だ。秘境の無間砂漠や、常闇の大樹海にも同種や亜種が存在するが、かなり個体数は少なく、少なくとも1箇所に10体も集まっているのはハルも初めて見た。
「ドラゴンモドキはともかく、ティラノドンの素材を丸焦げっていうのはもったいないな。なるべく小さな傷で仕留めよう」
「了解。それじゃあ今度は、頭部を撃ち抜く感じで・・・」
土の属性を持つティラノドンに有効なのは風属性の魔法。しかし、風属性の魔法の中でも電撃系の魔法では先ほどのように、電流で余計な部分を焦がしてしまうかもしれない。となると風を使った魔法で攻撃すべきだろう。
「となると・・・、【エアライフル】でも使おうかな」
ハルは魔法で空気を圧縮しはじめた。ハルの目の前に圧縮された空気でつくられた弾丸が10発出来上がる。
「もっと鋭く・・・。後は高速回転で貫通力を上げて!!」
魔力制御で少しアレンジを加え、威力を高めてから『エアライフル』を発射した。回転により貫通力と安定感を増した空気の弾丸は次々とティラノドンの頭部を撃ち抜いた。
「へえ、ハルの魔力制御も前より良くなっているんじゃないかしら」
「本当?外界に出てからも毎日トレーニングしていた甲斐があったかな」
最低限の傷でティラノドンの群れを倒したハルは【アイテムボックス】にティラノドンの死骸を回収した。
「さて、ボス部屋と思われる場所までもう一息だ。最後まで気を抜かず行くぞ」
また、歩き出してから3キロほど進んだところでオアシスが見えてきた。今度のオアシスは今までのものとは比べ物にならないほど規模が大きい。
「魔獣は・・・見当たらないな。だが、確かに強い魔獣の気配はある。慎重に近付くぞ」
ハルたちは魔獣の襲撃に警戒しながらオアシスに近付いた。そのままオアシスの周辺の探索を行う。
「あ、湖の中心部に小島がありますよ。あの、小島に何か建物がありませんか?」
セーラが指さす方を見ると湖の中には確かに島があり、そこに小さな神殿風の建造物が建っていた。
「ほんとだ!かなり怪しいね」
「あの建物の中がボス部屋になっているに違い無いニャー!早速行ってみるニャー!!」
「あ、ちょっと!?」
ハルたちが止める間もなくロッテが湖に向かって駆けだした。そのまま湖に足を踏み入れる。次の瞬間ロッテのすぐそばでいくつもの巨大な水柱が上がった。
「な、何ニャー!!?」
いくつもの巨大な影が水中を走り、驚いて周囲を見回しているロッテに向かっているのが見えた。
「水中だ、ロッテ!何か来てるよ!!」
ハルの声に反応し、ロッテが大きく飛び退る。直後、水中から巨大な咢が現れ、直前までロッテが立っていた場所を呑み込んだ。
「ニャー!!?危なかったニャー!!」
「ボス部屋と思われる場所の周囲に複数の強い魔獣の気配があるって言っておいたじゃんか。ほら、次々来るよ!」
ロッテに追いついたハルたちが装備を構える。水中から次々と巨大な魔獣が地上に上がって来ていた。
「大きい・・・」
セーラが思わず息をのむ。水中から地上に上がってきている魔獣たちはどれも10メートル以上、大きいものだと15メートル近い大きさがあった。
2メートル近いサイズを持つ頭部、平べったく長い胴体に丸太のようなごつごつした尻尾。
「大型のワニ型魔獣ディノダイルだ!」
水中から上がってきたディノダイルは全部で10体。凶悪な牙を見せつけるように大きく口を開け威嚇しながらハルたちに近付いてくる。
「流石にあれに噛み付かれたら俺たちでも痛手を負うぞ。気を付けろ!」
レナードが警戒を促す。尋常ではない咬合力を持つディノダイルの噛み付きは、時に竜種すらも傷つけるという。アキト国製の最高品質の防具を着けていても安全とは言い難い攻撃力を持つ強敵なのだ。だが・・・
「義父さん、少し試したいことがあるんだけど。調査団の試験の時に何度かワニ型魔獣と戦ってその時に攻略法を見つけたんだ。もしかしたらディノダイルにも有効かもしれない」
ハルがレナードに申し出た。ハルは調査団の入団試験の際に数回ワニ型魔獣と戦う機会があり、その際にワニ型魔獣を一瞬で無力化する方法を見つけたのだ。
「わかった。まずはハルに任せよう。慎重にな」
「うん。それじゃあ早速・・・【氷縛】!!」
ハルは、身体の一部を氷漬けにすることで相手の動きを封じる水属性魔法『氷縛』を使った。ディノダイルが口を閉じた瞬間に発動させ、ディノダイルの口を閉じた状態で固定する。すると、ディノダイルは必死に口を開けようとするがどうやっても開かないらしく四苦八苦している。
「どういうことだ?あの魔法の拘束力はそれほど強いものではないはずだが・・・」
レナードが首を傾げる。ワニ型の魔獣は顎の強さが有名であるためそれほど強い束縛力のない【氷縛】でディノダイルの口を塞ぐことができるのが不思議だったのだ。
「うーん。どうやらワニ型の魔獣は噛む力は凄いけど、口を開く力はむしろ弱いみたいなんだ。だから口を閉じたタイミングで固定してやれば無力化できるみたい」
「へえ、興味深い発見ね。どのワニ型魔獣にも共通することなのなら今後の狩猟がかなり楽になるわね」
セシリアが興味深そうにディノダイルを観察する。未だに氷の縛めを解けた個体はいなかった。
「とりあえず、ディノダイルにも有効みたいだね。それじゃあセーラ、さくっと殺ってきちゃって」
「いいんですか?かなり強い魔獣だったみたいですけど」
「Sランクの上位レベルだね。まあ、このレベルなら少しはオレたちでも成長が見込めるけど、今はセーラの強化が最優先かな。あの神殿の中にいるのはどうやらSSランクでも上位の魔獣みたいだし。流石にオレたちでも気を引き締めないとやばい相手だからね」
「わかりました。では・・・」
時に竜種にすら傷を負わせる大型のワニ型魔獣ディノダイル。しかし、自分の武器を奪われたディノダイルは碌に抵抗もできないままセーラの刃で討たれることとなった。
ディノダイルを回収したハルたちは魔法で湖の一部を凍らせ氷の橋を造り、湖の中心部に浮かぶ小島に渡った。
「へえ、結構立派な建物ね」
セシリアが感心したように呟く。5人の目の前に建つ神殿のような建物は細部にまで様々な意匠が凝らされた立派な造りだった。
「ま、いつまでも見とれてるわけにはいかないし、そろそろ神殿の中に入ろうよ」
ハルが促し、5人は神殿の入口をくぐった。神殿内部も精巧な造りになっている。感心したようにあちこちを眺めながらしばらく進んだ所で周囲の神聖な雰囲気からかけ離れた禍々しい扉が見えてきた。
「あった!ボス部屋だ!!」
「ああ。奥から危険そうな気配が漏れてきている。しっかりと準備を整えてから中に入ろう」
ハルたちは魔法薬で魔力や体力の回復をしたり、武器の状態を点検したりして準備を整えてからボス部屋の扉を押し開いた。同時にボス部屋の中から強烈な威圧感が流れ出してくる。
「これほどとは!みんな気を付けなさい!これはかなり強いわよ」
今までにないほど警戒しながらハルたちはボス部屋の中に足を踏み入れた。光が灯り、徐々に部屋の中が明るくなってくる。次第にハルたちの目に巨大な魔獣の影が映り始めた。
「おいおい・・・マジか」
ハルの表情が強張る。いや、ハルだけではない。目の前の魔獣の正体を知っているレナード、セシリア、ロッテはもちろん、その正体を知らないセーラすら目の前の魔獣から放たれる威圧感に表情を硬くしていた。
深紅の硬い甲殻に覆われたその身体は頭から尾の先までで優に20メートルはある。頭胸部と腹部はくびれずにつながっており、そこから4対の歩脚と、長く発達した1対の鋏状の触肢が出ている。腹部から伸びた長い尾は節により自在に曲げられ尾の先端部分には鋭い毒針がついている。鋼をも軽々と切り裂く驚異的な切れ味を誇る鋏と、大型魔獣すら即死させる尾の先の針から分泌される猛毒により「赫き厄災」と太古から恐れられてきたサソリ型魔獣。その名も――
「SSランク上位の魔獣、アンタレスだ!!」
魔装を発動しながらハルは剣をアンタレスに向ける。アンタレスも鋏を打ち合わせ、威嚇音を放ってくる。
「ロッテとお嬢さんはバックアップに回ってくれ。俺とハルとセシリア様で対応する!」
流石にセーラとロッテにアンタレスは荷が重いと判断したレナードが2人を下がらせる。装備による能力の底上げを考慮しても、現時点でのセーラの戦闘力はSランクの上位程度。ロッテの戦闘力はSSランクといったところだ。ロッテに関しては戦えないこともないが、かなりのリスクを負うことになるのでバックアップに回すという選択をした。
「俺たち3人なら、苦戦は免れないだろうが1対1でも決して勝てない相手ではない。3人でなら油断さえしなければ確実に倒せるはずだ」
「そうだね。慎重に、確実に仕留めよう」
レナードが前衛、セシリアが後衛、ハルが遊撃のポジションをとる。
そのタイミングで、アンタレスが動き出した。巨体に似合わぬ俊敏な動きで接近し、レナード目掛けて巨大な鋏を振り下ろしてくる。
レナードは左右に細かくステップを踏みながらアンタレスの猛攻を何とか躱していく。
アンタレスの動きをけん制するようにセシリアが魔法で攻撃を仕掛け、その間にハルはアンタレスの側面に回り込む。
アンタレスはレナードへの攻撃を中断し、鋏でセシリアの魔法をはたき落していく。その隙を突こうと、ハルが側面からアンタレスに向かって駆けだした。
アンタレスはセシリアの魔法を弾きながら一瞬ハルに視線を向けると。長い尾の先をハルに向けた。ハルの足元に赤い魔法陣が浮かぶ。
「っと、【ウォーターシェル】!!」
ハルは突進を中断し水の壁で自身の周りを覆った。直後、ハルの足元の地面から焔の竜巻が発生した。巨大な焔の竜巻は水の防壁を纏ったハルを完全に呑みこんだ。
次の瞬間、膨大な量の水蒸気が発生し、周囲の視界を奪う。焔の竜巻が消え、水蒸気が治まってきたところで、かなり小さくなった【ウォーターシェル】に包まれたハルが姿を見せた。
なんとか焔の竜巻を防いだハルは反撃で【アイスランス】を放つ。
それに対しアンタレスは土魔法【ロックウォール】で地面を隆起させ、魔法を防いだ。
「アルダートン流二の型【雷迅剣】!」
アンタレスがセシリアとハルの魔法に対応している一瞬の隙を突いてレナードが強力な戦技を繰り出す。鋭い一撃は固いアンタレスの甲殻をも軽々と切り裂いた。
アンタレスは鋏で払いのけるようにして攻撃を繰り出す。硬直が解けたレナードは、剣で鋏を防ぎながら、アンタレスの力に逆らわずそのまま後退した。
レナードが離れたタイミングを見計らってハルとセシリアが魔法で猛攻をかける。アンタレスも鋏や魔法で対抗するものの徐々にダメージを蓄積させていく。
アンタレスは状況を打開するために大きく動き出した。接近戦が得意でないセシリアに肉薄しようと致命的な攻撃以外を無視して走り出す。
セシリアは身体強化をして移動速度を上げ、魔法を放ちながら後退し、アンタレスとの距離を保つ。
攻めあぐねるアンタレスをハルとレナードが背後から狙う。アンタレスはその場で一時停止し長い尾を一旦振り上げると、遠心力を付けるように斜めに振り下ろし、そのまま尾を水平に伸ばしながら高速で回転し、2人の接近を阻む。
尾の先の毒針を警戒し、ハルとレナードは後退を余儀なくされたが、足をとめたアンタレスに容赦なくセシリアの魔法が襲いかかる。
ついにダメージの蓄積が重なり、アンタレスの片方の鋏が吹き飛んだ。
一瞬怯んだのを見逃さずハルとレナードが接近を試みる。
アンタレスは体勢を崩しながらも、ハルとレナード目掛けて何度も毒針を突き出し接近を阻む。セシリアが再び魔法で狙おうとするが、アンタレスもセシリアに向かって魔法を放ち、セシリアは防御に回る。
今度はハルが毒針の射程圏外から魔法を放ち、アンタレスを攻撃する。
アンタレスは残った片方の鋏でハルの魔法を受け止めながら、セシリアに魔法攻撃を繰り返す。
その直後、アンタレスがガクッとバランスを崩した。
アンタレスが自分の足元を見下ろすとハルの隣に立っているはずのレナードが鋏を失った側の足を切り落としていた。
直後、ハルの隣に立っていたレナードの姿が空気に溶け込むようにして消えていく。こちらはハルが魔法で生み出した幻覚だったのだ。
重心が偏り、転倒しながらも毒針でレナードを狙うが、攻勢に移ったセシリアが尾を狙い撃ち軌道を逸らした。毒針はレナードの数十センチ離れた所に突き刺さる。
「【雷迅剣】!!」
レナードの雷の闘気を纏った剣が鋭く閃き、毒針のついた尾の先端がアンタレスから斬り別れた。
最大の武器を失ったアンタレスに3人が猛攻撃をかける。
アンタレスも最期まで激しい抵抗を見せたが、ついに力尽き地面に崩れ落ちて動かなくなった。
「はぁはぁ。なんとか倒せたね」
「ああ。流石に疲れたな・・・」
「あのレベルの相手と戦うのはかなり神経を使うわね」
戦った3人はかなりぐったりしている。人数差により終始押していた戦いではあったが、個々の実力はほぼ同格であり、少しでもミスがあったなら誰かがやられていてもおかしくない戦いだった。
「皆さんお疲れ様です」
「大丈夫ですかニャー?下に降りるのは少し休憩してからにするニャー」
後方で戦況を見守っていたセーラとロッテが声をかける。戦っていなかった2人もアンタレスの放っていた威圧感と、激闘の空気に呑まれ、大量の汗を掻いていた。
「そうだね。流石に少し休みたいな」
「この部屋ではまともに休めないだろう。隣の小部屋まで行ってから少し休憩を取ろう」
ハルたちはアンタレスを回収し、隣の小部屋まで移動すると、気が抜けたかのように座り込んだ。いや、実際かなり気が抜けている状態だと言っていいだろう。人間、極限の緊張状態の後は誰であれ気が緩むものだ。
「あー、なんか急に疲れが出てきた。家に帰ってだらだらしたい・・・」
「安全な小部屋とはいえ流石に気を抜き過ぎだ。まあ、気持ちは分からなくもないが」
「相手もかなり手強くなってきているしここで一旦しっかりと休みましょう。魔法薬で回復して、ついでに食事もとっておきましょう。そろそろ外は夜のはずだから」
「言われてみればお腹がすきましたね」
「賛成ですニャー。腹ごしらえして万全の状態で下に降りるべきニャー」
ハルたちは魔法薬による回復を待つ間に、夕食をとることにし、セシリアが調理した簡易ながらも絶妙な味わいの野菜とくず肉のスープと、パンを食べ始めた。




