大地の王宮3階層
本日2話目です。
セシリアが魔法で3人の泥を綺麗に落とした後、ハルたちは奥の小部屋から階段を下り、3階層に向かった。
3階層に降り立った5人を出迎えたのは日の光と強い風、そして左右の切り立った崖だった。
「ここは・・・岩場?いや、峡谷か」
「そうみたいですね。これが3階層の地形のようです」
「どうやら1本道になっているようだな。先程の階層と違って進路を迷わず済みそうだ」
ハルたちは早速3階層を歩き始めた。崖の上からの奇襲を警戒しつつ峡谷を進んでいく。やがて、前方に無数の魔獣が見え始めた。
「岩の魔獣?いえ、あれはゴーレムね。かなり数が多いわ」
人型のものもあれば犬型や馬型のものなどさまざまな形のゴーレムが峡谷を塞ぐかのように立ちふさがっていた。その数は数百。ひょっとすれば500体を超えるかもしれない。
「どうするニャー?一体一体はそれほど強くはニャさそうニャけど流石に数が多いニャー」
「そうね・・・。私とハルの合成魔法で一気に数を減らしましょう。ハル、やれるわよね」
「もちろんさ!どの魔法を使う?」
「周囲への影響と後始末を考えて【ニブルヘイム】にしましょう」
「わかった。じゃあ、いくよ!!」
ハルとセシリアは互いの指を組むように手を握った。ハルが水属性の魔力、セシリアが風属性の魔力を放ち、その手の間で2人の魔力が合わさっていく。
「「【ニブルヘイム】!!!」」
2人がそう唱えた直後、ゴーレムたちのいる遥か前方で青白い閃光が走った。ゴーレムたちの足元に青白い魔力の光を放つ巨大な魔法陣が現れ、次の瞬間絶対零度の冷気の暴風がその周囲を覆う。
「す、凄い・・・」
セーラは目の前の光景を見て呆然とした。500体近いゴーレムたちがたった一発の魔法で全て氷漬けになり、動きを止めていた。
「ふう、成功だね。合成魔法は難しいけれど成功すれば通常の数分の1の魔力で莫大な威力の魔法を行使できるんだ」
「そうなんですか・・・。私合成魔法という言葉を初めて聞きました」
「効果は高いけど本当に難しいのよ。魔力制御に長けた2人の魔法使いが息を合わせてようやく成功する魔法。だから、理論上では存在しても実際に使える者はほとんどいない筈。よほどの魔法好きでないと知らない言葉でしょうね」
「私、放出系の魔法が苦手なんで身体強化と生活魔法くらいしか学んでないんです。知らなくて当然だったんですね」
「なかなかの魔力量なのにもったいないわ。見た感じ放出系の魔法に適性が無いわけではなさそうだし覚えてみたら戦闘の幅が広がるかもしれないわよ」
「そうですね。何度もハルの闘い方を見ているからそれはわかります」
魔法の話をしながらハルたちは氷漬けになったゴーレムたちの横を通り過ぎていく。ずっと進んだ先に魔獣の群れの気配はあるが、しばらくは魔獣の襲撃を受けることもなさそうだ。
しかし、ゴーレムの群れを越えた直後、ハルたちは嫌な予感を感じて武器を抜いた。直後、崖に空いたいくつもの穴から小型の魔獣が大量に湧き出してきた。
「何だ?気配がなかったよ!?」
「考えるのは後だ。まずは排除するぞ!!」
跳びかかってきたゴールドラットを切り落としながらレナードが叫ぶ。幸い出てきたのはD・Cランクレベルの雑魚だった。冷静に対処すれば危険な敵ではない。だからこそ気配を察知できなかったことに驚いたとも言えるが。
魔法使いのセシリアを守るように残りの4人が外向きに円陣を組み、接近する敵を薙ぎ払う。そして、セシリアが魔法で広範囲の敵に攻撃を加える。まだ穴から出てきている魔獣もいるようだがすぐにハルたちを囲む魔獣の群れは小さくなっていった。
「終わったか。なかなかの数だったな」
「もっと上のランクの魔獣が出てきていたら大変だったね。でもなんでこの程度の魔獣の存在に気付けなかったんだろう?」
ハルは倒した魔獣の死骸を眺めながら首をかしげる。罠や魔獣の襲撃に備え、警戒はしていた。隠密に優れた上位の魔獣ならともかくこれだけの数のD・Cランクレベルの魔獣に奇襲を受けたのが信じられなかった。
「どうやら原因は魔獣たちが出てきた穴の方ね。ハル、見てみなさい」
セシリアが指差す方に視線を向けると小さな横穴の一つからどうやら先ほどの奇襲に出遅れたらしいゴールドラットが1匹出てきた。穴の中にいる間は全く気配が感じられないのに穴から出た瞬間ゴールドラットから気配が放たれる。
「この穴が気配を隠している!!?」
「そのようだな。このようなトラップは初めて見たが。ここから先は魔獣の気配が感じられなくても常に奇襲への警戒をしておかなければならないようだ」
「厄介ですね。精神的な疲労が溜まりそうです」
ダンジョン攻略において感知能力は極めて重要な要素だ。罠の位置や敵の潜む位置を早く的確に見抜ける者たちが生き延び、大きな成果を挙げる。しかし、今の罠はその感知能力に自信を持つ者ほど隙を突かれる形となる危険な代物だった。
やむを得ず少し移動速度を落とし、安全を確認しながらハルたちは歩き続けていた。あれから既に3回気配を隠す罠による魔獣の奇襲を受けているものの襲撃の前に罠に気付き、準備をしてから戦ったので特に苦戦はしなかった。初見殺しのトラップだが、一度乗り切って移動速度の低下と精神的疲労を受け入れれば回避不可能な罠ではないのだ。
「どうやらここには横穴は無いみたいですね」
「はぁ。気配が掴めないと一々目視で確認しないといけないから大変だね」
「しかたないですよ。それに普通は気配探知だけに頼ったりしません。そんなことができるのは極一部の人だけですよ?」
「人間、一度便利なものを知ってしまうとなかなか元の不便さは受け入れられないんだよ・・・。まあ、それは置いといてそろそろ次の大きな気配に近付いてきたね」
「ああ。何かの魔獣の群れだな。今度も結構多そうだぞ」
峡谷は時折カーブしており、ハルたちの現在地からではまだ敵の姿は目視できないものの、次の大きな気配がすぐ近くに迫っていた。数は先ほどのゴーレムの大集団よりは少し規模が小さそうだが1体1体の強さはこちらが上だ。
「とりあえずオレとセシリアの魔法で数を減らそう。生き残りがいれば残りはセーラたちに任せるよ」
「そんニャことを言って、どうせさっきみたいに一撃で全滅させるっておちに決まってるニャー」
「戦いたいならちゃんと残しておくって。そのくらいのコントロールはできるから」
戦い方を話しながらハルたちは大きなカーブを曲がっていく。このカーブの少し先から魔獣の群れの気配が漂ってきている。
「あれは・・・Bランク魔獣アーマーバッファローの群れね」
カーブを曲がり終えたところで大型のウシ型魔獣の群れが見えてきた。筋肉質の大柄な身体はその名前の由来となった、鎧の様な硬質の皮膚で覆われている。その数は300といったところか。アーマーバッファローの群れもハルたちを視認し、雄叫びを上げながら、鋭い角をハルたちの方に向け一斉に突進を始めた。
「よし、まずはオレとセシリアが――なっ!?」
アーマーバッファローの群れに魔法による先制攻撃をしようとした直後、突如としてすぐ近くのいくつかの岩が動き出したのがハルの視界に入った。
「ロックマンティスロード!!?くそっ、罠による奇襲を意識させておいてこのタイミングで上位の隠密型魔獣か!!」
動き出した岩の正体はSランクのカマキリ型魔獣ロックマンティスロード5体だ。身体を丸めて岩に擬態していたロックマンティスロードは絶妙なタイミングでハルたちに攻撃を仕掛けてきた。
ハルたちに至近距離から10本の巨大な鎌が振り下ろされる。それぞれ後退するか武器で弾くかして対応したが、ロックマンティスロードは鋭い刃を連続で振り下ろしてくる。
「気を付けろ!!アーマーバッファローの群れも間もなく到着するぞ!!」
ロックマンティスロードに対応しながらレナードが叫ぶようにして注意を促す。アーマーバッファローの群れの地鳴りのような足音が峡谷に響き渡り、実際、ハルたちの近くは小さな揺れすら起き始めていた。
「あー、もう!!ここまで接近されたら広域殲滅魔法が使えない!どうする?」
「こうなったら仕方ないでしょう。真っ向から叩き潰すわよ」
セシリアが物騒なことを言いながら目の前のロックマンティスロードの胴体に風穴を空ける。セシリアの前のロックマンティスロードは怯みながらも反撃しようとしていたが、セシリアの魔法で続けざまにいくつもの大穴を空けられその場に崩れ落ちた。
「ええい、やるしかないか!!秘境を越えて活動する調査団員の実力見せてやる!!」
ハルは自分に活を入れながら目の前のロックマンティスロードを頭から真っ二つにした。ロックマンティスロードは体液をまき散らしながら倒れる。左右に別れた体がまだわずかに動いているのは昆虫型魔獣特有のタフさによるものか。しかしその状態では何もできないし、直に絶命するだろう。無力化したと考えていい。
「その意気だ、ハル。お嬢さんは落ち着いて目の前の敵を斃してからでいい。先に俺たち4人でアーマーバッファローの群れを迎え撃つぞ」
愛剣に付着したロックマンティスロードの体液を振り払いながらレナードが目前に迫るアーマーバッファローの群れに視線を向けた。
セーラはまだ最後のロックマンティスロードと戦っているが、レナードもロッテも既に自分が戦っていたロックマンティスロードを撃破していた。世界最高の危険地帯とされる秘境はAランク魔獣はもちろんSランククラスの魔獣が当たり前のように歩き回っており、外界ではかなりの脅威とされるBランク魔獣が被食者でしかないような場所だ。秘境を歩いていれば時折SSランククラスにも遭遇するし、稀に伝説級と呼ばれるSSSランクも見かけることがある。そんな場所を越えて外界まで出て活動するのが調査団だ。Sランククラスの魔獣の奇襲を受け、さらには100体を超えるBランク魔獣の群れが迫っているという普通に考えれば絶望的な状況も彼らにとってはありふれた出来事に過ぎないのだ。
「ウオォォォッ!!【ウォークライ】!!!」
ハルは一時的に自身の身体能力を高める戦技【ウォークライ】を使った。気分が高揚し、全身に力が漲っていくのを感じる。同時に【ウォークライ】の副作用である戦闘への渇望と破壊衝動が沸き起こってくるが、ハルは自分の意思でその感情をコントロールし戦闘への集中力へと昇華していく。
「よし!行くぞっ!!まずは機動力を奪ってやる!!」
ハルは自分たちとアーマーバッファローの先頭集団の間の地面を魔法で泥沼に変えた。高速で突進してきていたアーマーバッファローたちは泥濘に足を取られ失速及び転倒する。
その後に続いてきたアーマーバッファローたちは自身の速度のせいで前方の急激な失速に対応できず、先頭集団に激突。さらにその後に続いてきたものが連鎖的に追突したり、倒れているものに足を引っ掛け自身も転倒していく。
途中で前方の異変に気付いたらしくアーマーバッファローの群れは足を止めたがそれまでに50体近いアーマーバッファローが死傷していた。
前方に仲間たちの死体でできたバリケード、左右に切り立った崖と後方以外を封鎖され、すし詰め状態のようになり碌に身動きのとれなくなったアーマーバッフローに対し攻勢に出る。
「アルダートン流二の型【疾駆け】!!」
ハルは高速で駆け抜けながら風の闘気を纏った剣でアーマーバッファローを次々と斬り捨てていく。
アキト国最強の武術の流派の一つであるアルダートン流。二の型は風の属性の戦技である。幼少の頃より義父からアルダートン流の手ほどきを受けているハルはそのほとんどの技をマスターしていた。
ハル、レナード、ロッテが前方から碌に身動きの取れないアーマーバッファローを屠っていると、群れの後方で爆発が起こった。セシリアが【エクスプロージョン】の魔法で後ろから削りだしたらしい。
さらに最後のロックマンティスロードを斃したセーラが参戦してきた。
アーマーバッファローも抵抗しようとするが自在にその巨体を動かすだけのスペースが無い。実力を出し切れない状況のままその数を減らしていく。
とうとうアーマーバッファローの群れは逃げに入った。
前方の仲間を盾に中盤から後方にかけてのアーマーバッファローが180度向きを変え逃走し始める。
「あら、距離をとってくれるのならむしろ好都合よ。遠慮なく広域殲滅魔法を使わせてもらうわ」
セシリアが杖を上げ、大きく息を吸う。
「集え!天空を覆い尽くす大いなる暗雲よ――」
「うげっ!?セ、セシリアが詠唱してる!!」
「な、セシリア様本気ですか!!?」
「や、ヤバいニャー!!?アーマーバッファローなんかの相手をしてる場合じゃないニャー!!!」
セシリアが魔法の詠唱を始めたのを見てアキト国の3人が顔を青くした。
「え、急にどうしたんですか?」
事情がわからないセーラは首を傾げる。
「セ、セシリアは火・風・土・水・無・時・空間・光の8つの魔法属性に適性があってそれぞれの属性のSSランクまでの全ての魔法を使うことができるんだ。それも無詠唱で!」
ハルがみんなを集めていくつもの防御の魔法を構築しながら返事する。
「それは・・・凄いですね!!あれ?でも今詠唱してますよね?」
セーラの視線の先ではセシリアが澱みなく魔法の呪文を唱えていた。
「確かにセシリアは無詠唱で魔法を使える。けれど、詠唱が無意味というわけじゃないんだ。前にロックアントクイーンと戦った時にオレもやったんだけど、同じ魔法でも込める魔力の量や魔力の制御技術で威力や範囲を増減できる。そしてセシリアは詠唱を行うことで魔力の制御を自分の極限レベルで行うつもりだ。要は魔法のブーストだね・・・」
「なるほど。それで、ハルたちはいったい何故そんなに顔色を悪くしてるんですか?」
「・・・過去にセシリアは湖を1つ一瞬で蒸発させている。・・・極限までブーストした【ファイアーボール】1発で」
「え!!?」
「それに今セシリアが使おうとしている魔法は――っとヤバい!セシリアの魔法が完成する!!両手で目と耳を保護して大きく口を開けて対ショック姿勢!!」
アーマーバッフォローの上空に巨大な黒雲が出来上がっていた。セシリアの魔法の発動が迫っているのに気付いたハルは自分の意識の全てをを発動中の結界などの防御の魔法に向ける。
そして、最後の呪文を唱えながらセシリアが杖をさらに高く上げた。
「――天より裁きの鎚を下せ!!【雷神の鎚】!!」
次の瞬間、目を閉じていた筈のハルたちの視界が真っ白に染まった。直後、凄まじい衝撃波が体を通り抜けていくのを感じる。
少しして激しく体を揺さぶっていた衝撃波が治まったのを感じてからハルたちは目を開けた。強すぎる光にやられて目がチカチカしていた。さらに、キーンと酷い耳鳴りもしている。
徐々に視界がはっきりしてきたハルたちが見たものは巨大なクレーターが両側の崖をも呑み込み、大きく地形を変えてしまった峡谷の姿だった。
「ふう、久々に本気で魔法を撃ったわね」
セシリアのちょっと満足げな声が聞こえ、ハルたちは反射的に叫んでいた。
「いくらなんでもやりすぎ((です(ニャー)))!!」
「ああ、良かった!!ボス部屋から先は無事みたいだ。階段まで無くなってたらどうしようかと思ったよ」
「・・・失礼ね。私はそんなヘマしないわ」
「だまっらっしゃい!!アーマーバッファロー相手にあんな洒落にならない魔法を撃ったセシリアに文句を言う資格は無いよ」
「だって・・・。最近書類整理ばかりで碌に魔法が使えなくてストレスが溜まってたからつい・・・」
「『だって』でも『つい』でもありません!ちゃんと反省しなさい!!」
「はい・・・」
ハルたちは飛行魔法でクレーターを越え、その先にあるボス部屋の前まで来ていた。どうやらボス部屋より先はセシリアの魔法に巻き込まれてなかったらしい。いつもは禍々しい気配を放つボス部屋の巨大な扉が、所々崩れていたり、蝶番が壊れた箇所があり、非常にみすぼらしくなっていたが、まあ許容範囲である。
珍しく、セシリアがハルに叱られてしょぼーんとしていた。ハルは怒りながら、いつもとのギャップでちょっとセシリアが可愛いと思ってしまったが鋼の忍耐力で表情には出さなかった・・・と、思う。セーラが若干冷めた目でこちらを見ているのは気のせいだと思いたい。
「ごほん。とにかくさっさと次の階層を目指そう。みんな準備はいい?」
「はぁ・・・。私は大丈夫ですよ」
「ああ。俺も大丈夫だ」
「いつでもいけるニャー」
「・・・はい」
セシリアがまだしょぼーんとしているが、全員準備は出来ているようなので、ハルはボス部屋の扉に手をかけた。
ガラガラドッシャーン!!!
「「「「「・・・・・・」」」」」
ハルの手が触れた瞬間にボス部屋の扉が崩れ落ちたが気にせず、そう、決して気にせずにボス部屋に入る。みんなの顔が少し引き攣っていたりはしない。
相変わらず真っ暗なボス部屋を進んでいく。2層で奇襲を受けたので全員かなり警戒していた。やがて部屋に明かりが灯っていく。
部屋の中央付近に3つの影が立って、否。建っていた。
「これは・・・石像ですね。真ん中が竜で、両脇は巨大な鎧の騎士ですか」
そう。部屋の中央には4つ足で立つ、頭部に2本の湾曲した鋭い角をもち、背中の翼を広げた大きな竜の石像と、その左右に3メートルほどの高さの、盾と剣を持った鎧の騎士の石像が建っていたのだ。
「ええっと、これを壊せばいいんでしょうか」
「壊す、か。あながち間違ってないかもね。セーラ見てごらんよ」
ハルは3つの石像を指差す。セーラがその先を追って見てみると、3体の石像のそれぞれの頭部から胴体に向かって徐々に色付き、生気が灯り始めていた。
「っ、ゴーレム?いえ、これは!!」
「うん、石の番人・・・ガーゴイルだ。そろそろ来るよ!!」
全身が色付き、生気に満たされたガーゴイルたちが動き出した。
「俺とロッテがそれぞれ騎士のガーゴイルを一体ずつ受け持つ!ハルとお嬢さん、セシリア様は竜のガーゴイルを」
「オッケー!!行くよ!!」
ハルは竜のガーゴイルに向かって駆けだした。2体の騎士のガーゴイルが、先頭を走るハルを狙って巨大な剣を振り下ろしてくるがレナードとロッテが間に割って入り軌道を逸らした。そのまま2人は騎士のガーゴイルと戦い始める。
「はあっ!!」
ハルは竜のガーゴイル目掛けて、走った勢いのまま上段から鋭く剣を振り下ろした。しかし、石の竜は見かけによらぬ俊敏さで後方に跳躍してハルの攻撃を回避。そのまま翼を広げてボス部屋の上空に飛び上がった。
「意外と速い!セシリア!!」
「ええ。任せなさい!」
セシリアが上空の竜のガーゴイル目掛け【ウィンドカッター】を放った。しかしガーゴイルは、空中で身を捻り、なんとかセシリアの魔法を躱す。
「やるわね。なら!」
再びセシリアが杖を上げる。今度はセシリアの目の前に10の風の刃が現れた。それぞれが違った軌道を描きながら、高速で上空のガーゴイルに殺到する。
「グオォォォォ!!!?」
ガーゴイルは高速で飛び回り5つの【ウィンドカッター】を回避、さらに頭部の角で2つの【ウィンドカッター】を防いだが、残りの3つの【ウィンドカッター】はガーゴイルに命中。2つが背中の両翼を半ばから切り落とし、最後の1つが胴体に深い傷をつくった。
ガーゴイルは悲鳴をあげて地上に落下した。間髪入れず、ハルとセーラが追撃を加える。
「【パワースラッシュ】!!」
「【Xスラッシュ】!!」
2人は戦技を使い一気に止めを刺そうとする。しかし、ガーゴイルは咄嗟に反応し僅かに体を反らした。
結果、ガーゴイルは片角と、前足一本を失いながらも致命傷は回避した。しかし受けたダメージは小さくなく、戦技の後で硬直している2人への反撃はすぐには出来なかった。
一瞬の間の後、ガーゴイルは硬くしなやかな尻尾を鞭のように振るい、ハルとセーラを狙ったが2人も硬直から回復し、ガーゴイルから距離をとって回避した。
「思いのほか粘るな。Sランク上位からSSランク下位ってとこか。セーラ、最後まで気を抜かず行くよ!!」
「えっ?あ、はい」
ハルとセーラが離れたのを見計らってセシリアが魔法を放つ。翼を失ったガーゴイルは躱せずに直撃を受ける。
「よし、今だ!!」
ハルとセーラはセシリアの魔法を受けて怯むガーゴイルに再び戦技を放つ。今度は避けられず、2人の闘気を纏った刃はガーゴイルの硬い体を大きく切り裂いた。
「グオォォォォ・・・」
ガーゴイルは弱弱しい泣き声を上げると巨大な身体を横たえ、動かなくなった。
直後、少し離れた所から重いものが倒れたような音が聞こえてきた。レナードとロッテも騎士のガーゴイルを倒し終えたようだ。
「よし、これで3階層もクリアだね!!お疲れ、セーラ、セシリア!!」
「ええ、お疲れ様」
「――あ、はい。お疲れ様です・・・」
「ん、どうしたのセーラ?なんだかぼんやりしてるけど。ひょっとしてバテちゃった?」
「いえ、違います。その・・・今の敵って本当にSSランクの下位くらいの強さだったんですか?」
「ん?まあ、そうだね。SランクとSSランクの境目くらいの強さはあったからSSランク魔獣に分類されてもおかしくなかったと思うよ」
「そうですか・・・。それって以前戦鬼のダンジョンで遭遇した酒呑童子と同じくらいってことですよね?」
「んー、そうだね。若干酒呑童子の方が強かった気もするけど、それほど大きな差はないかな。少なくとも茨木童子よりは確実に強いね」
「そうですか。あの時は目の前の相手が怖くてしょうがなかったのに、今は凄い装備をしているとはいえあの時ほど脅威を感じなかったというか・・・」
「セーラはあの時と比べ物にならないほど強くなってるよ。このダンジョンでセーラは格上の敵を何体も倒しているからね。だからこそそれほど脅威を感じなかったんじゃないかな。この件が終わった後に、普段の装備に戻ったらかなりの成長を実感できるんじゃない?」
「そうなんでしょうか?少しでもハルとの差が縮んだのなら嬉しいですね」
「確実に縮んでるよ。さ、みんな待ってるしそろそろ行こう。また一緒に冒険者をやれるようにさっさとこの件を終わらせなきゃね」
「そうですね!先に進みましょう!!」
ハルとセーラは他の3人が待っている奥の小部屋の方に歩き出した。




