ハルの過去とエド城の地下
本日も2話更新予定です。
「な、なんでここにアキト国にいるはずの2人がいるんだ!!?」
ハルは突如現れた義父とセシリアの姿に驚き、そう声をあげていた。慌てて声を落とし、周囲を確認するが、トーキョーの街からは少し距離があることもあり門のところにいる兵たちにはぎりぎり声が届かなかったようだ。
「・・・2人はアキト国にいるんじゃなかったの?」
改めて少し声を落としたまま2人に問いかける。
「ああ、先ほどまでは俺もセシリア様も国にいた」
平然とそう答える義父にハルは首をかしげる
「どういうこと?この短時間でここまで来るには【転移】でも使わないと・・・あっ!」
「そういうことだな。量産品の転移結晶は帰還ポイントとして設定されている調査団の本部にしか【転移】できないが、【転移】の魔法なら一度行ったことのある場所まで瞬時に移動できる。そして転移魔法の使い手はハルだけではないということさ」
「ということはセシリアはこの近くに来たことがあったんだね?」
ハルの言葉にセシリアが頷いた。
「そういうことね。14年前、シノノメ王国が滅亡する寸前にこの場所を訪れたわ」
「14年前・・・。ひょっとして前回の予言に関係があるの?」
確か前回時の大精霊であるツァイトが予言を出したのが14年前だったはずだ。
「ええ、その予言を受けてトーキョーでの最期の決戦の最中にこの地で一つの任務を果たしたわ。レナード、今こそハルにあの予言にまつわる話を伝えるべきではないかしら?」
「・・・そうですね。この地にハルが訪れたのも何かの縁なのでしょう」
セシリアの言葉に頷いたレナードがハルの方に向き直った。
「ハル、知っての通り14年前に、ツァイト様が予言を出された。その内容は『まもなく勇者の末裔が治める国が亡びを迎える。その国には生まれたばかりの王子がいる。その子を決して死なせてはならない。王子の死は後にこの国を危機に曝すだろう』というものだった。
もともとアキト国とシノノメ王国は密かに交流があり、シノノメ王国が危機に陥っていることはわかっていた。しかし勇者様の遺した意向で、アキト国は外界での出来事がアキト国に何らかの影響を与える場合を除き、基本的に外界の出来事に干渉してはならないことになっている。シノノメ王国の方もアキト国に、戦争激化に伴う亜人族の受け入れ要請を出した以外は救援を求めてこず、アキト国は静観を余儀なくされていた。そこに、ツァイト様の予言が出され、大義名分を得たアキト国はすぐさま調査団と、セシリア様やゼノンといった実力者を派遣した。俺も調査団の一員としてこの地を訪れた。
しかし、俺たちが到着した時には既にトーキョーで決戦が始まっていた。戦火に包まれたトーキョーの街の中に潜りこみ俺たちはシノノメ王国王城エド城を目指した。仲間の協力を得て俺はなんとかエド城までたどり着き、そこでシノノメ王国国王ご夫妻にお会いした。お二人と王妃様に抱かれた王子をアキト国に匿うと説得を試みたのだが、ご夫妻はこの国を治める者として自分たちだけ逃げ出すわけにはいかないとどうしても首を縦に振ってくださらなかった。ただ、この子だけはなんとか逃がして欲しいとご夫妻から頼まれ、王妃様から王子を預かり、俺はエド城を後にした。
戦闘を避けてトーキョーの街を抜け、街の外でセシリア様たちと合流を果たし、俺たちはアキト国に帰還した。ハル、その時俺が連れ帰ったシノノメ王国の王子こそがおまえだ」
「え・・・ええっ!!?」
話の内容に驚き、潜入先のすぐ近くと言うことも忘れてハルは思わず大声を上げる。
(オレがシノノメ王国の王子!?確かにオレは養子だし、時期的にもあってるけど・・・。唐突過ぎてどう受け止めればいいかわからない・・・)
混乱しぼんやりするハルをレナードが抱きしめた。
「今まで詳しい出自を教えなくて済まないハル。きっとこうしてハルが混乱してしまうと思ってなかなか言い出せなかった」
「いや、それは別にいいよ。実際こうしてそのことをどう受け止めればいいかわからなくなっただろうし。・・・ねえ、義父さん、血は繋がってないけど義父さんはオレの父親だよね?」
「ああ、ハルは俺の大事な息子だ」
「そっか・・・。それならいいや。まだ、心の整理はつかないけど、オレの生まれのことを考えるのは後にするよ。今はとりあえずやるべきことを片づけないとね」
ハルは深呼吸し、ざわついた心を鎮めた。
「落ち着いたようね。それじゃあ悪いけど次はこの娘たちをどうにかしてくれる?人間の女の子とは挨拶もしておきたいし」
セシリアが指さす先にはハル以上に混乱しているセーラとロッテがいた。
「ハ、ハ、ハルがシノノメ王国の王族!?それに、所々聞いたことのない言葉が出てきたけど私何かとんでもないことを聞いたのでは!?」
「ニャー!?ハルが勇者様の子孫!?ど、どうするニャー?ということは私は次期王妃ニャー!?」
「おいこら、セーラはともかくロッテは何訳わからんことを抜かしてんだ・・・」
ハルはさりげなく既成事実を作ろうとするロッテに鋭い突きを入れた後、セーラの前に立つ。
「セーラ、とりあえず難しいことを考えるのは後にしよう。こっちの事情に巻き込んで悪いけどセーラが選んだ道だ。最後まで付き合ってもらうよ」
「え、あ、はい。そうですね。失礼しました、もう大丈夫です」
「うぐっ、酷いニャー・・・」
どちらもとりあえずは落ち着いたようで、タイミングを見計らってセシリアとレナードがセーラに声を掛ける。
「初めまして。私はセシリア・オーディン。ハルの魔法の師よ。こっちのレナードを通してあなたのことは聞いているわ」
「初めまして。ハルの義父のレナード・アルダートンだ。息子がお世話になっているようだ。これからもハルと仲良くしてやって欲しい」
「あ、初めまして。セーラ・グラディウスと申します。私の方こそハルに何度も助けていただいています」
セシリアたちは初対面なのでいろいろと話を始めた。これからおそらく戦闘になる以上は少しでもコミュニケーションをとって連携を取りやすくしておく必要があるからだ。
その間にハルは目を閉じて自分の状態を確認する。
(――うん、問題ない。さっきの話は驚いたけど、少なくとも今は落ち着いている。これなら戦闘に集中できそうだ)
ハルはゆっくりと目を開いた。ちょうどセシリアたちのほうも話が一段落ついたようである。
「よし、それでは早速ハルたちが見つけたダンジョンに向かおうか。おそらくハルの言っていた大きな建造物の跡地というのはエド城の跡地だ。地上の兵士は無視して階段の先の部隊を一掃した後にダンジョンに向かう。っとそうだ、ハルたちにこれを渡しておこう」
そう言ってレナードはフードつきのマントを取り出した。
「これは?」
「ロックベル大工房の最新作だ。そのマントについているフードは特別製でね。同じマントを着用している者以外にはどんな角度からでも顔の部分が影になって見えなくなる魔法が掛かっている。今後も外界で活動するのなら顔が割れるのはは厄介だろう?」
「へえ、便利だね。さっそく使ってみようか」
ハルたちは装備の上からマントを着る。ゆったりとした設計なので充分余裕を持って着ることができた。
「よし、それでは王城跡地の地下に向かうぞ。それぞれ隠密コートと隠密マントを着衣!階段の中腹で隠密装備を脱いで落ち合おう」
レナードの指示の元、ハルとセーラは隠密マントを被り、他の3人は隠密コートを着用し姿を消して移動を始めた。監視の兵たちを躱し、王城跡地の地下に向かう階段を下る。半ば付近まで来るとハルとセーラはマントを脱いだ。すぐに他の3人も姿を現す。
「よし、全員集まれたな。ハル、地下での戦闘音が地上に漏れないよう、この辺りに防音の魔法を張ってくれ」
「了解だよ。・・・【防音】。ん、これで大丈夫」
「よし。基本、俺とロッテが前衛で、ハルとお嬢さんが遊撃、セシリア様が後衛でいこう」
「了解ニャー」
「オッケー」
「わかりました」
「妥当な布陣だと思うわ」
ハルたちは布陣を整え、階段を下りていった。しばらく歩き、階段の終わりと広場が見え始める。
「(3・2・1で突撃するぞ。――3・2・1!)」
レナードの合図でハルたちは一気に駆けだした。
「何だ?敵襲か!?」
「落ち着け、大した人数じゃない。取り押さえろ」
アクレストの兵士と傭兵が気付き武器を構える。そこにまず前衛組がとんでもない速度で突っ込んだ。
「なんて速さだ!!こいつらいったい、ぐあっ!?」
前衛の2人にかき回され相手は混乱に陥る。
「セーラ、行くよ!!」
「はい!!」
ハルとセーラも相手に突入する。前衛2人に気をとられ反応が遅れた兵士を平打ちで昏倒させる。
「ぐっ、この!!」
近くの兵士たちが反撃してくるが咄嗟の一撃であり大した勢いはない。僅かに体を傾け槍を躱すと、再び剣の腹で頭部を強打する。
「さて、私もそろそろ手を出させてもらおうかしら」
セシリアが世界樹の枝やミスリル等で造られた最高品質の愛用の杖を掲げる。
「くそ、まずは一人だ!撃て!!」
魔力銃を持つ傭兵たちが少し離れた場所に立つセシリアに向かって発砲した。
「私にそんなガラクタが通用すると思ったのかしら」
セシリアに向かって飛んでいた銃弾は突然軌道を変えてバラバラな方向に飛び散った。今、セシリアは無詠唱で、さらに完璧な魔力制御により誰にも気付かれることなく風の魔法を放ったのだ。
何が起こったかわからない傭兵たちはあわてて次の弾を込め始める。
「低精度、低威力、単発式の初期型の魔力銃ね。外界にそれが出回っているのは驚きだけど、まだまだ研究不足ね」
次の瞬間、気付けば傭兵たちは空中を舞っていた。10メートル近く吹き飛び、後ろの壁に激突し彼らは意識を手放した。
「そちらも終わったようね」
セシリアが杖を降ろす。ハルたちも他の兵士たちの意識を飛ばし終えていた。
「流石はセシリアだね。気付けばもう魔法が掛けられた後って怖いよね」
「ふふ、ハルもセシリア様に比べればまだまだ精進が足りないようだな」
ハルたちも武器を降ろし、戦闘態勢を解く。
「こいつらはどうするニャー?ほっといたらすぐに目を覚ますニャー」
「そうね、眠りの魔法を掛けてしばらくは起きられないようにしてしまいましょう」
再びセシリアが杖をあげる。次の瞬間兵士たちは一瞬わずかな光に包まれ、苦しげな呼吸が穏やかで一定のリズムごとのものに変わった。
「さて、これで彼らはしばらくは目を覚まさないはずよ。今のうちにその扉の先に向かいましょう」
ハルたちは目の前の巨大な扉を見上げる。かなり古そうだが丈夫で精巧なつくりの扉だ。その先からはあいかわらず高難易度の迷宮であることを示すピリピリした空気が流れてきている。
「よし、じゃあ行くよ?」
ハルは一歩前に出てその扉を力いっぱい押し始めた。




