馬車の行方
「ここがうちの拠点だニャー。好きなところに座るニャー」
そう言ってロッテは少し古びたソファーに腰を下ろした。今ハルたちがいるのはリッテンバニア内にある調査団が所有する一戸建ての建物だ。ロッテが言うには、各地に調査団員用の外界での活動拠点があるらしい。表向きの所有者は冒険者のレナード・アルダートンということになっているそうだ。
「こんなとこがあったなんて知らなかったよ。義父さんも何も言ってなかったし」
「拠点は大都市にしかないし、団長は基本的に自分で宿を探すからたぶん忘れてたんだニャー」
ハルの言葉にロッテが答えた。
「ええと、よくわかりませんが私はここに来てよかったのでしょうか?」
いまいち事情が呑み込めていないセーラが遠慮がちに尋ねた。
「問題ないニャー。ハルに同行者がいれば支援するように団長に言われているニャー」
どうやらレナードが同行者がいる可能性を伝えていたらしい。
「ふう、それにしてもどこかで見覚えがあるとは思ったけど猫耳がないからすぐには気付かなかったよ。それが変化の指輪の効果?それに正直こんなに早くロッテと合流できるとは思ってなかったしね」
「酷いニャ―!自分の女の顔を忘れるニャんて・・・」
「人聞き悪いこと言わないでよ・・・。ほら、セーラが真に受けてるじゃないか」
「え!?あ、冗談なんですか?」
「わ、私は遊びだったのニャー!?」
「だから、そういうのはいいってば。それで?正直助かるけど、義父さんからはかなり忙しくしているって聞いてたのに何でこんなに早く会いにこれたのさ?」
「ニャハハ、実は結構前から調査が行き詰っていてここの所はほとんど進展が無いんだニャー。途方に暮れていたところで団長からの連絡でハルが新しい手掛かりを見つけたかもしれないと聞いて藁にもすがる思いで急いでここまで来たんだニャー」
どうやら、ロッテが担当していた地震と魔獣の件は調査の進展の見込みがほとんどないらしい。それならばとハルたちの手伝いにやって来たそうだ。
「なるほどね。妙な奴に襲われたところだし、正直ロッテが手伝ってくれるのは助かるよ。それじゃあ、とりあえずオレたちが持ってる詳細な情報を見てもらおっか」
ハルは情報屋がまとめた資料とハルたちが確認した情報をロッテにまとめて伝えた。
「なるほどニャー。確かに興味深いニャ―。王城に王国軍本部、リッテンバニア大演習場、軍需倉庫・・・。むー?そういえば前に何かを見たような気がするニャー・・・」
「うん?何か調査に関わりそうなものなの?」
「どうだったかニャー。気にはニャったんだけど忙しかったから後回しにしたのは覚えてるニャー」
ロッテは何かを思い出しそうなようでうんうん唸り始めた。
「うーん、だったら今から関係各所を見に行く?そろそろ日も落ちるし近付きやすいとは思うけど」
ハルが考え込むロッテに提案する。
「日も落ちる?・・・そうだニャ、あれは確か深夜のことだったニャー。調査で深夜にリッテンバニアに戻って来た時に・・・。もう少しで全部思い出せそうニャから深夜に現場を見れば何か閃くかもしれないニャー」
「深夜か。だったら軽くお腹に食べ物を入れて仮眠をとっておいた方がよさそうだね。キッチンで何か作って来るよ」
「あ、私も手伝います」
ハルとセーラは一緒にキッチンに向かった。具を少なめにしたスープを飲んだ後、3人は数時間仮眠をとった。
「よし、それじゃあ行くよ」
深夜2時頃、ハルたち3人は拠点を出発した。密集した建物の屋根を上を駆け、レッドクラウン城の方に向かう。深夜でも王城付近は警備の兵が巡回しているので王城付近が見渡せる位置に来たら足を止める。
「(どう、ロッテ?何か思い出せそう?)」
「(もう少しで全部思い出せそうニャー。確かあの時は・・・、そうニャー!確か前もちょうどこれくらいの時刻だったニャー。城の門が開いてそこから――)」
ロッテが城の方を見ながら話しだした時に急に城の門が静かに開き始めた。そしてそこから数台の荷車を取り付けた馬車が出てくる。
「(あ、あれだニャー!前にもこのくらいの時刻にこっそりとあの馬車がどこかに向かっていたニャー。あの時は王族のお忍びの馬車かと思ったんニャけど、数日後に同じくらいの時間帯にあれと同じ馬車が軍の本部から出ていくのを見て不思議に思ったんだったニャー!)」
「(それは怪しいですね。どうします?)」
「(調査している件と関係してるかはわからないけど怪しいことは間違いない。2人が行けるならこのまま追跡しよう)」
「(誰に聞いてるニャー。余裕に決まってるニャー)」
「(仮眠もとりましたし問題ありません。追いかけましょう)」
3人は距離を開けてこっそりと馬車を追いかけ始めた。馬車は真っ直ぐ北へ進んでいく。そのまま北側の門を抜け街道を北上する。
「(見る限り探知系の魔道具は設置されてないようだ。護衛も少数のようだし荷車に乗り込むよ)」
「(了解です)」
「(わかったニャー)」
3人は音もなく馬車に駆け寄り、静かに荷車に乗り込んだ。
「(さて、中身は何かな?)」
ハルが荷車の上を保護している布をめくる。そこにはぎっしりと魔石が詰め込まれていた。
「(ビンゴだ!!)」
「(前の荷車には魔水晶が積まれていました)」
「(方角も北だニャー。これはいよいよ怪しいニャ―)」
「(このまま目的地まで連れて行ってもらおう。さて、この馬車はいったいどこに向かってるのかな?)」
3日後、ハルたち3人を乗せた馬車は未だに街道を進んでいた。
「(街で馬と御者を変えながらほぼノーストップで3日。そろそろ国境付近なんじゃないの?)」
「(リッテンバニアから北東方向。このペースだと明日にはゼノビア共和国か、フェンリルが実効支配する無法地帯に出ますね)」
「(た、退屈過ぎて死にそうニャー)」
「(頑張れロッテ。ん、減速を始めた。また街かな)」
隠密マントを被って荷車から身を乗り出し前方を窺う。先には確かにどこかの街があった。しかし・・・
「(なんだあれ?規模はかなり大きいけど人が住んでいなさそうっていうかボロボロの廃墟じゃん。あんな街で馬の交換ができるのか?)」
「(あそこは・・・もしかして)」
セーラが呟く。
「(ん、セーラあそこがどこなのか知ってるの?)」
「(いえ、ただの推測ですが、アクレスト北東部の国境付近にある大規模な廃墟となれば10数年前までこの付近にあった勇者の末裔の国シノノメ王国の王都だったトーキョーではないかと)」
「(ああ、そういえばそんな国があったそうだね。ロッテ、あそこはトーキョーであってる?)」
「(間違いないニャ―。あそこは今、亡都と呼ばれているトーキョーだニャー。けど、だとしたら変だニャー。あの街はシノノメ王国が亡んだ際に破壊の限りをつくされて見ての通り廃墟だニャー。馬どころか人も住んでいない筈だニャー)」
「(ということは、あそこが目的地なのかもね。街の中からちらほらといない筈の人の気配を感じるよ)」
ハルたち3人は隠密マントを使い、姿を隠すと馬車がトーキョーの街の崩れかけた門の前で一時停止した瞬間に荷車から飛び降りた。すぐに門の陰にいたアクレスト軍の装備をした兵士たちがやってきて積荷の確認を始める。
「(やっぱりここが馬車の目的地だったみたいだね。異変が始まったアクレスト王国の北の方にあり、魔石・魔水晶が集められ、いない筈の人間がいる。セーラ、ロッテ。どうやらここにオレたちが知りたいものの答えがあるみたいだ。早速調査を始めるよ!!)」
聖陽歴816年10月14日、ハルたち3人はトーキョーの地に辿り着いた。
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