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ハル・アルダートンと大地の王冠  作者: ゆう
第3章 異変の調査
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凶刃

 本日2話目です。

 それは無意識の行動だった。秘境という世界で最も過酷な戦場を生き抜いてきたハルだからこそできた反応。気が付けばハルは左手側に飛び退きながら左手で腰に差していたナイフを抜き、咄嗟に前に突きだしていた。ナイフに金属がぶつかるキィンという鋭い音。次の瞬間ハルは再び空気を裂く鋭い音を耳にする。


 「っ!!」


 ハルは迫りくる何かを躱して背中から倒れこみながら近くにあった椅子を蹴り飛ばす。真っ直ぐ吹き飛んだ木の椅子はしかし空中で真っ二つになり床に落ちた。


 その隙にハルは体勢を立て直し目の前に立つ存在に視線を向ける。白髪頭に白い口髭を生やした極東風の顔立ちの老人男性。しかし、黒い衣服に包まれたその肉体は歳を感じさせないほど引き締まっている。体格はそれほど大きくない。意図的に筋肉を付けすぎないように鍛えているのだろう。右手に刀、左手に脇差という特徴的な装備だ。


 「ハル、大丈夫ですか!!?」


 少し離れた所で男にショートソードを向け牽制しながらセーラが聞いてきた。


 「ああ、何とかね。流石に驚いたけど。こいつ、まったく気配が無い!!」


 目の前に立っているのに本当にそこに立っているのか不安になってしまうほどの気配のなさだ。だからこそハルですらぎりぎりまで気が付けなかった。


 「かかかっ!!!あそこから儂の刃を躱すか。面白い!!やはりおまえがターゲットだったか」


 「ターゲット?」


 「おっといかんいかん。儂は自分の仕事を全うするまでよ!!」


 今まで全く気配を放っていなかった男からセーラが体を硬くして後退るほどの濃密な殺気が漂ってきた。


 (何なんだこいつ!?この威圧感はSランククラスだぞ!セーラじゃ手も足も出ない!!)


 ハルはセーラを庇うように前に出る。同時に老人が右手の刀で鋭い突きを放ってきた。ハルが最低限の動きで躱そうと反応した瞬間、老人は僅かに体を捻り突きからハルの首を狙った斬撃に切り替えてくる。


 「うぐっ!!」


 何とかナイフで刀を受け止めた時にはもう老人の左手の脇差がハルの右目の数ミリ先まで迫っていた。しかし、ハルも右手で刃の腹を殴り軌道を逸らしてこれを躱す。


 「かかかっ!!やるなわっぱ!!儂の動きに初見でついてくるとは!」


 老人はとても楽しそうに笑いながらも凄まじい速度で斬撃を繰り出してくる。今度は右手と左手で異なるテンポで攻撃を仕掛けてきた。


 「くっ、やり辛い!!」


 自分のリズムを崩され、ハルは防戦を余儀なくされる。


 (この男、明らかに対人に特化したタイプだ。動きが読めない!けど、地力は圧倒的にオレの方が上、時間をかければ!!)


 老人の攻撃を何とか捌きながら隙を窺う。その時、老人の衣服から何かが零れ落ちるのが見えた。高速での戦闘中、一瞬でも視線を動かすことは大きな隙になりかねない。しかし、ハルは自分が感じた直感に従い床に届こうとする落下物を見る。落下物が何か認識した瞬間、ハルの背中に戦慄が走った。


 (【ウォーターシェル】!!)


 ハルは無詠唱で自分とセーラに厚い水の壁で周囲を囲み身を守る水属性の防御魔法『ウォーターシェル』を掛けた。次の瞬間、轟音と共に強烈な閃光がハルの視界を覆った。水の壁が強烈な爆風を受けて激しく揺らいでいる。


 (この距離で爆弾とか洒落にならないっての)


 ハルは【ウォーターシェル】を維持しながら老人の気配を探る。


 (いない?逃げたか?いや、あれだけ上手く気配を消せる奴ならそこらへんに潜んでいるかも)


 爆風が通り過ぎ、部屋の中を煙が包みだす。今の爆弾で火が付いたようだ。老人を探すが既に近くにはいないようだ。


 (まずいな。このままじゃ人が集まってしまう。とにかくここを離れないと)


 ハルは魔法を維持したまま、背後のセーラの方に駆けていく。


 「セーラ、ここを離れるよ」


 「は、はい。でもいったいどこへ?」


 「考えるのは後だ。とにかく今は人が集まる前にここを離れよう」


 念入りに老人の気配に気を配りながらハルは【ウォーターシェル】を解除しセーラを抱き上げ窓から外に飛び出した。幸い、夕方・人気のない怪しげな裏通り・まだ爆発が起こった直後ということもあって人は集まって来ていなかった。


 セーラをお姫様だっこした(かついだ)ままハルは裏通りを高速で駆け抜ける。小まめに脇道に入り通りを変えながら走り続け、宿からかなり離れた所まできてようやくハルは足を止めた。


 「ふう、流石にここまで逃げてくれば大丈夫かな」


 「ハル、うっ、そろそろ降ろして、けほけほ、もらえませんか・・・」


 セーラが頬の周辺だけ赤くしながら顔全体は青くするという器用な真似をしながらハルに頼んできた。どこか嬉しそうな表情をしつつも、高速移動で酔ってしまったのか苦しそうだ。


 「あ、ごめんセーラ!慌ててたからさ。大丈夫?」


 「な、なんとか。少し休めば問題ありません」


 ハルはセーラを下した。セーラは壁に寄りかかり深呼吸しながら体調を整える。数分後には酔いも収まってきたようだ。


 「ふう、もう大丈夫です。それにしてもあの人はいったい何者だったのでしょうか?」


 「わからない。口ぶりから察するに誰かに依頼されてオレを狙ってたようだけど・・・」


 ハルは外界に来てまだ日が浅い。今、潜入し調査を行っているアクレスト王国以外からは狙われる理由は無いはずだし、アクレスト王国にもうまく密入国したはずだ。


 (宿の婆さんが怪しい奴がいると情報を流した?いや、逃げる時に気配を探ったけど明らかに何も知らなかったような慌て方をしていた。だったらいったい誰が・・・)


 ハルは心当たりを探るが特に思い当たる相手はいない。


 「うーん、やっぱりわからないな。これ以上考えても答えはでなさそうだ」


 「そうですか・・・。それにしても困りましたね。今後はどう動きましょうか?」


 「あの宿には戻れないし、あの婆さんが情報を流したら他の同種の宿でも泊まれなくなる可能性があるね。もしくは泊まれても国に報告されるかもしれない。あれだけの爆発が起きたんだ。間違いなく国側が何事か調べ始める。宿を爆破されたんだしあの婆さんも無理にオレたちのことを庇おうとはしないだろうね。名前は知られていないからすぐにどうこうということは無いだろうけど容姿は見られてるわけだしあまり街は出歩けなくなる。さて、どうしたものかな・・・」


 とりあえず拠点の確保は必須だ。しかしハルとセーラは密入国しているため、宿で身分証を見せたら後に密入国の件が発覚する恐れがある。さらに先ほどの襲撃と爆発のせいで身分証を求められない裏の宿にも泊まれなくなる可能性が出てきた。


 「――大通り付近の空家でも探そうか」


 「空家ですか?けどなんで大通りの近くなんです?人が少ない裏通りのほうがいいのでは?」


 「確かに、大通りの近くの方が人が多いから誰かに会うといった意味ではリスクが高い。けどさ、逆に人の少ない裏通りの空家にいきなり誰かが棲みついたらそれはそれで目立つんだ。裏の人間はそういった部分に敏感だからね。どっちもリスクがあるけど大通り付近の空家の方が比較的リスクが低いと思うんだ」


 「なるほど。では大通りの方に移動しますか?」


 「そうだね、なんとか誰もいない空家を見つけて・・・誰か来る」


 こちらに誰かが向かってくる気配を感じハルは隠密マントを取り出すとセーラと一緒に被った。


 気配はどんどん近付いてくる。


 (ん?この気配どこかで・・・)


 ハルは近付いてくる気配が自分の知っている者のものだと感じた。隠密マントの中からじっと近付いてくる気配の方を見つめる。


 曲がり角からついに人影が現れた。20歳くらいの活発そうな人間の女性だ。何かの魔法を使っているらしく女性の体を包むように魔力がめぐっている。


 (んんっ!?あの顔どこかで・・・。何かが足りない様な気がするんだけど)


 そんなことを考えながらじっと女性を観察していると、女性は突然しゃがみこみ、手をついて地面の匂いを嗅ぎ始めた。


 「(な、何やってるんでしょうあの人・・・)」


 「(オレに聞かないでよ・・・)」


 美人と言っていいような女性がいきなり奇怪な行動を取り出したのを見てセーラが若干引きながら小さく耳打ちしてくる。ハルも女性の行動に若干引いていたが女性を見ていると浮かんでくる何かが足りないという感想がどこから出てくるものなのか考えながら女性の観察を続けた。


 女性は地面の匂いを嗅ぎながら徐々にハルたちに近付いてくる。ハルとセーラはマントを被ったまま少しずつ移動し謎の女性との距離を保つ。先ほどまで2人が立っていた場所までやってくると女性は念入りにその辺りの匂いを嗅ぎ始めた。


 「(ハル、ひょっとしてあの人私たちの匂いを嗅ぎ分けていたんじゃ)」


 「(隠密マントで匂いの消えるあそこまで追って来たってこと?そんなことできる人間は・・・ん、人間?)」


 ハルはまじまじと女性の顔を見つめた。この顔自体は知っている。後はもう少し何かがあれば・・・


 (眼鏡・・・じゃないし、ほくろ・・・でもないな。もっとこう、重要なものが・・・)


 と、その時ようやく立ち上がった女性が周囲を見渡しながら呟いた。


 「むー、私の鼻じゃこれ以上は無理だニャー」


 (ニャー?猫?・・・!!!)


 「そうか、猫耳だ!!!」


 ハルは考え事が解決し、とてもすっきりした気持ちになりながら声を上げていた。どうやら少し声が外に漏れたようで女性がハルたちの方に視線を向ける。


 「(ハル!?急に何を――)」


 「大丈夫だよセーラ。ちょっと変装してたから気付くのが遅れたけどあれはオレの知り合いだ」


 そう言ってハルは隠密マントを脱いだ。ハルとセーラの姿が露わになる。


 「ニャ、やっぱりハルだニャー!!」


 突然人が現れたことに驚きもせず、女性は2人の方に駆け寄ってきた。


 「久しぶりだニャ―!!会いたかったニャー!!」


 女性は隣のセーラが思わず真っ赤になるほど思いっきりハルに抱きつき頬ずりを始めた。


 「うわ、ちょっと落ち着いてよ()()()!」


 「嫌だニャー。久々のハルを堪能するんだニャー」


 ハルとセーラの前に現れたのはアキト国調査団に所属する猫の獣人ロッテだった。


 


 


 






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