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ハル・アルダートンと大地の王冠  作者: ゆう
第3章 異変の調査
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王都リッテンバニアと異変の調査

 今日も1時間後にもう一話更新予定です。

 翌朝、いい宿とは言い難いものの久々にベッドで寝れたこともありハルはすっきりとした目覚めを迎えた。対照的にセーラは顔色が悪い。


 「大丈夫?何かあったの?」


 「大丈夫です。ただ、明け方までずっと・・・いえ、何でもありません」


 「今日は軽い下調べ程度の予定だし体調悪いならここに残っていてもいいよ?」


 「いえ、一緒に行きます。ここに残っている方が堪えそうなので・・・」


 ハルとセーラはそろってボロ宿を出た。


 「今日はとりあえずリッテンバニアの地図を頭に入れるのと情報屋のレポートにあった商店の位置、魔石・魔水晶が運び込まれた施設を一通り見て回ろうか」


 「わかりました。ではとりあえず街を一通り歩いてみましょう」


 2人はさっそくリッテンバニアの街を歩き始めた。







 アクレスト王国王都リッテンバニア。人口は約15万人。この街がアクレスト王国の王都と定められたのがウィステリア王国の王都オルタンシアとほぼ同時期の203年前である。アクレスト王国は760年という長い歴史の中で何度も遷都を経験している。もともとアクレスト王国はかつてこの一帯に広がっていた小国群の中の一つであった。周辺の小国に戦争を仕掛け、占領・割譲・併合を繰り返す内に今の国土が形成された。今でもアクレスト王国は軍事大国の1つであり、14年前に超巨大傭兵団フェンリルを雇い、北のゼノビア共和国と共謀し勇者の末裔の国と謳われていたシノノメ王国を攻め滅ぼしその国土の半分近くを自国のものとしたことは記憶に新しい。国王による絶対君主制が敷かれており、国王の住まいであるレッドクラウン城はリッテンバニアの北部に位置する。街の南部にはアクレスト王国軍本部が、東部には軍の大演習場が、西部には兵舎群と軍需倉庫群があり、アクレスト経済の中心地であるのと同時に巨大な軍事都市の顔を持っている。







 「ふう、流石に一回りするだけでも一日かかってしまいましたね」


 「やっぱり、オルタンシアと大差ないほど大きな街なだけはあるね。今日はここまでかな。明日から場所を確認しておいた商店を詳しく見ていこう」


 ハルとセーラは適当な店で夕食をとった後ボロ宿に戻り翌日以降の調査のために休みをとることにした。相変わらず夜になると生々しい声が聞こえてきたが流石に疲労が溜まっていたセーラは無事ぐっすりと寝ることができた。







 翌朝、『防聴』の魔法を張ったボロ宿の部屋でハルとセーラは今後の動き方を確認していた。


 「さて、オレたちはアクレスト王国が何のために魔石を集めているのかについて調べるわけなんだけど、昨日レポートにあった場所は一通り見て回ったけどやっぱり最終的な搬入先の国の施設はかなり警備が厳しそうだね」


 「確かにそうでしたね。と、なると先に各施設に魔石・魔水晶を運搬した商会の方を調べてみた方がいいかもしれません」


 「だね。もしかしたら何か今後の調査の手掛かりになるものがあるかもしれないし」


 「資料にある魔石・魔水晶の密輸を行った商会の内、リッテンバニアに拠点があるのは7つ。アウディー商会、カッペロ運輸、クローズ商会、テレジア商事、ニックス交易会社、ラプター商会、ルア・ノーバ商店ですね」


 「まずは一通り調査してみよう。とりあえずオレはアウディ商会に向かうからセーラはルア・ノーバ商店を頼んでいいかな」


 「え、私一人でですか?ある程度気配を隠すことはできますけど潜入なんてほとんど経験が無いですし難しいと思うのですが・・・」


 セーラは困惑したようにハルに告げる。確かに一般人よりはその手の技能も優れているだろうがあくまで自分は剣士なのだ。どこかでミスをするかもしれないと思った。


 「大丈夫だよ。昨日見た感じではかなり楽に入り込めるはずだ。それにセーラにはこれを貸してあげるから」


 そう言ってハルが取り出したのは国境越えの時に使った隠密マントだった。姿・気配・匂い・ある程度までの音を消すアーティファクト級の魔道具だ。


 「セーラはこれを被って調査を進めて。これを被っていればまず気付かれることは無いよ。誰かの気配が近付いてくるのを感じたら作業をやめてじっとしていればいい。時間が掛かってもいいから確実にいこう」


 「確かにこのマントを被っていればなんとかなりそうですね。けど、ハルはどうするんですか?」


 「オレのことは心配しなくていいよ。いくらでもやりようはあるからね」


 セーラのその問いに不敵に笑いながらハルが答えた。


 2人は準備を整え、遅くても第5点鐘がなるまでにはここに戻ってくる約束をした後それぞれの目的地に出発した。








 セーラと別れた後、大通りに出て少し進むと目的地であるアウディー商会が見えてきた。情報屋の資料によると、ここは主に魔道具を扱う商会で専属の魔道具職人を多数抱えておりその関係で魔石・魔水晶も扱っていたようだ。お抱え魔道具職人による自社ブランドは手頃な値段設定のものが多く、なかなかの人気があるという。販売店がアクレスト王国内に7店舗、ウィステリア王国内に2店舗、魔道具工房がアクレスト王国内に3つ、ウィステリア王国内に1つあり、今回ウィステリアの工房の魔石がリッテンバニアにある工房兼販売店舗であるアウディー商会本店に流れた後、アクレスト王国の軍の施設に搬入されたらしい。


 まずは店の前を通り過ぎながらちらっと店舗内を覗いてみる。アウディー商会本店の1階、大通り側が魔道具の販売スペース、奥側が工房になっており、2階が事務所と倉庫になっているようだ。この日も戦闘用の魔道具を買いに来た冒険者や、日用の魔道具を買いに来た主婦などでそれなりに賑わっていた。魔道具の中には高価な物もあるので窃盗防止と接客のために店の中を巡回している従業員は多いが防犯用の魔道具などの存在は感じられない。次に2階の気配を探ってみる。すぐに10人程の気配を感じとった。戦闘要員ではない。事務員たちのものだろう。


 少し考えた後、ハルは相手から認識されなくなる幻属性Aランク魔法【認識阻害】を使った。この魔法は術者の姿を見た者に作用する魔法で、一度術にかかると自力で魔法を破るか、術者が魔法を解除するまで術者が何をしていようと認識できなくなるという魔法だ。目の前に術者が立っていてもそこに人が立っているということを認識できないし、術者が目の前で歌を歌っていてもそのことに気が付けない。術者に殴られても魔法にかかっている間はそのことに気が付かず、術が解けた後でどこかにぶつけたのかと首をかしげることになる。もっともこの魔法には制限があり、この魔法が効くのは生き物だけである。よって防犯用の魔道具やゴーレムなどに対してはまったく効果がない。だからこそ、ハルは国境越えの際にこの魔法を使わなかったのだ。


 防犯用の魔道具の見落としが無いか確認しながら店舗に足を踏み入れる。丁度、買い物が終わって店を出ようとしていた女性冒険者と目があった。次の瞬間、女性冒険者の目から光が失われ、彼女は何事もなかったかのように店から出て行った。


 「魔法は効いてるね。やっぱり防犯用の魔道具も置いてないか。そう言えばカシス、オルタンシアで入った店でも防犯用の魔道具は見たことないよなぁ」


 ハルは首をかしげながら2階を目指す。防犯用の魔道具はアキト国では簡単に手に入るものだが、外界ではまだ製造技術が確立されておらず、せいぜい作れるのは気休め程度の効果しかない代物だ。実用レベルの物は太古の遺跡で発掘されたアーティファクトやダンジョン深層で見つかる希少な魔道具くらいで、国の重要な施設や大貴族の屋敷くらいにしか設置されていないというのが実状だった。


 ハルは悠々と2階に上がり事務室のドアを開ける。室内で書類の整理や売り上げの計算をしていた事務員たちが音に気付き顔を入口に向けたが次の瞬間には目の光が消えた職員たちは何事もなかったかのように作業を再開した。


 「うーん、気配でここにいるのは全員一般人だとわかってはいたけど、もう少し警戒した方がいいんじゃないかな。この魔法が使える人ならやりたい放題なんだけど・・・」


 ハルは苦笑しながら必要そうな書類を探し始めた。


 実際、ハルの言う通り【認識阻害】を使える者がいればほとんどの場所で何をしてもばれることは無い。しかし、その心配をする必要性は限りなく0に近かった。


 魔法には系統魔法と呼ばれるものと系統外魔法と呼ばれるものがある。系統魔法とは火・風・土・水・無・時・幻・空間・光・闇の10種の魔法の属性の総称である。そしてそれ以外の魔法が系統外魔法である。もっとも系統外魔法は体系化された魔法ではなく、とある個体が偶発的に手に入れた先天的才能のようなものだ。例えば触れた物を粉々に砕く魔法であったり、目があった相手を石化する魔法といったものが挙げられる。系統魔法は適性を持つ者が魔法を理解し、発動に必要なプロセスを踏むことで発動するわけだが、系統外魔法は術者が自分の魔法のことを理解していなくてもその結果を望めば魔法が発動する。もっとも、系統外魔法を使える者は極稀にしか生まれてこないため、一種の例外のような存在なのだが。そしてハルは知らないことだったが、外界では10種の系統魔法の内、比較的適性を持つ者が生まれやすい火・風・土・水・無の5属性以外の魔法の体系は遥か昔に失われていたのだ。残りの5つは失われた魔法(ロストマジック)と呼ばれ、多くの者が研究を進めているが未だにその体系を取り戻せてはいない。つまり、外界の人間にとっては幻属性の魔法は過去に失われたものであり、それを使われるということは想定できないことなのだ。








 「うーん、ここにも特にめぼしいものは無いな。ま、あの情報屋の情報が正しいと確認できただけでも良しとするか」


 夕方、ハルは6件目のラプター商会の事務所内を物色していた。ハルの予想以上にどの商会も幻属性魔法【認識阻害】への耐性がなかったため調査は簡単に進んだのだが、わかったのはこれらの商会がアクレスト王国相手に魔石・魔水晶の密売を行っていたという事実だけで、やはりアクレストが何のために魔石を集めているのかが分かるような物は何も無かった。


 「後はセーラに任せたルア・ノーバ商店だけどやっぱりそこにも無いんだろうな・・・。となると流石に警備が厳しそうだったけどやっぱり国の施設を調べるしかないか」


 ハルはラプター商会の事務所を後にした。店を出て人影のないところで『認識阻害』を解除した。そのまま宿に向かって歩き出す。







 「あ、ハル。お疲れ様です」


 「お疲れセーラ。もう戻ってたんだね」


 宿の部屋の中には既にセーラが戻って来ていた。早速ハルはセーラに何か気になるものは見つかったか尋ねた。


 「いえ、情報屋さんが集めていた物以上は特にありませんでした」


 「あーやっぱりかぁ。こっちもだめだったよ。ルア・ノーバ以外は全部見てきたんだけどこれといった物はなかったね」


 「ええっ!?アウディー商会だけではなかったんですか!?」


 セーラが驚いて大きな声を出した。


 「いや、最初はアウディー商会だけで、もし余裕ができれば他の所も、くらいの気持ちだったんだけど、どの商会も防犯意識が薄くってね?」


 「そんなことはないと・・・いえ、ハルにとってはそうかもしれませんね」


 ハルの非常識さを何度か見ているセーラはどこか遠い目をして答えた。


 「ま、まあ早く済んだのはいいことじゃんか。とりあえず明日から魔石・魔水晶が搬入された施設を調べていこう。さて、調査の話は今日はここまでにして何か食べに行こうよ」


 「そうですね。とりあえず大通りに出ますか?」


 2人は立ち上がりドアに向かった。ハルはドアノブに手を掛けた時にふと今日調査中に見かけた店のことを思い出す。


 「ああ、そういえばアウディー商会の近くに結構美味しそうな食堂があったよ。そこに行ってみな――」



 







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