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ハル・アルダートンと大地の王冠  作者: ゆう
第3章 異変の調査
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リッテンバニア到着

 本日2話目です。

 オルタンシアを出発してから1週間目の夜、ハルとセーラはアクレスト王国に2番目に近い村からアクレストの国境に向けて旅立った。1番近い村を避けたのは2番目の村に比べて密入国者への警戒レベルが遥かに高いからである。まだ、ちらほらと通行者がいる街道を避けて街道の横の背の高い草原の中を進んでいく。いい具合に雲が出ており、辺りはかなり暗い。魔獣との遭遇を避けながらハルとセーラは国境方面に歩を進めた。国境最寄りの村を回り込むようにして避け、数十分進むと国境を警備しているローデス砦と国境に沿って築かれた長い城壁が見えてきた。この城壁はアクレスト国境沿いにある3つの砦と繋がっている。


 「(かなり高い城壁ですね。通過の履歴が残ってしまうとはいえやはり正規の手続きを踏まないとここを抜けるのは難しくないですか?現時点ではまだ私たちはただの旅の冒険者で通用しますよ?)」


 城壁を見上げながらセーラが小さな声で耳打ちする。実際正規の手続きを経てアクレストに行って何らかの騒動に巻き込まれてもその場で身分証を見られない限りは本人を特定されない可能性が高い。とはいえ、ハルとしては背後にアキト国の存在があるだけに、より確実性を求める必要があるのだ。


 「(大丈夫。ちゃんとどうやってここを越えるかは考えてたから。セーラ、オレのそばまで来てくれる?)」


 ハルはセーラに手招きし近くに呼び寄せる。同時にアイテムボックスから大きな1枚の厚手の布を取り出した。


 「(それは何ですか?)」


 「(これ?うーん、口で説明するより実際に見てもらった方が早いかな)」


 ハルが、厚手の布を頭からかぶる。次の瞬間、ハルを包んだ大きな布が周囲の景色に溶け込むようにしてハルごと見えなくなった。


 「(え、ハル!?)」


 姿どころかハルの気配まで消えてしまいセーラは驚く。直後、大きな布を脱いだハルが何事もなかったかのように目の前に姿を現した。


 「(とまあ、こんなわけでこの隠密マントを被ると姿と気配と匂いとある程度までの音を消すことができるのさ)」


 「(そ、そんなものが・・・。それってひょっとして太古の遺産(アーティファクト)なんですか!?)」


 アーティファクトとは古代の遺跡から見つかる現代より遥かに高い技術を誇った古代文明の遺産である。通常では考えられない様な力を持つものが古い遺跡から極稀に発掘されるのだ。


 「(いや、これはアーティファクトではないよ。正確には昔見つかったアーティファクトの解析に成功して新たに作りだされたものさ。まあ、それでもかなり貴重なものなんだけど)」


 アキト国のエルフとドワーフが協力して発見されたアーティファクトの解析を進め、アーティファクトとほぼ同様の効果を持つものを完成させたのがこのマントである。ミラージュカメレオンやスニーキングウルフなど秘境の魔獣の素材を使って作られるもので、調査団員にはこのマントの素材となる布で特注のコートが与えられる。しかし、ハルは調査団に入ってすぐに外界に出ることになったのでコートの製作が間に合わず、この隠密マントが与えられることになったのだ。


 「(というわけでこのマントを被って検問所を抜けよう。それこそアーティファクト級の探査装置のようなものが無い限り見つかることはないはずさ)」


 「(でもハル、マントは1枚しか無いんですよね?だとするともう一人は検問所を使えませんよ?)」


 「(大丈夫だよ。ほら、このマントは結構大きいから)」


 そう言ってハルはセーラを抱き寄せ、2人を包むようにマントを被った。


 「!!!!!!!!?☆●△■×ムグッ――」


 「(ちょ、セーラあんまり大きな声出しちゃだめだよ。ある程度の音までなら消してくれるけど一定以上の音は消し切れずに漏れちゃうんだから)」


 訳の分からない言葉をしゃべりだしたセーラの口を慌ててハルが押さえた。パニック状態になっているセーラが暴れないように口を押えたままギュッと抱き動きを封じる。――その姿が外から見えていれば間違いなくハルは検問所の兵に犯罪者として取り押さえられていただろう。


 セーラが落ち着きを取り戻すまでにかなりの時間を要したが、二人は隠密マントを被り、ローデス砦の一階にある検問所に足を踏み入れた。検問所にはそれなりの数の兵士がいたが誰もハルとセーラに気が付く様子はない。何らかの装置が作動する様子もなく2人は悠々とローデス砦を突破した。


 「(ふう、第一関門は突破だね。ん、セーラどうしたの?)」


 「(い、え、何でもないです・・・)」


 何故かセーラが俯いてハルから顔を背けていたが特に問題は無いようだったのでそのまま隠密マントを被ったまま進んでいく。すぐに次の関門が見えてきた。


 「(あれがアクレスト側のミルジアナ要塞か。セーラこのまま通り抜けるよ)」


 「(は、はい)」


 ハルとセーラはローデス砦と同じように要塞の一階の検問所を歩いて行く。こちらでも2人を見咎めるものは無く2人は無事にアクレスト王国に潜入を果たした。








 乗合馬車を使うと馬車から降りるときに駅で身分証を提示しなければならなくなるので、ハルとセーラは10日程かけ徒歩でアクレスト王国の王都リッテンバニアを目指した。


 聖陽歴816年10月9日夜


 「――よし、通っていいぞ」


 「ありがとうございます。馬を出せ!」


 リッテンバニアの入口は多くの者が並んで立ち入りの許可を待っていたのでハルとセーラは隠密マントを被り目に付いた商隊の荷車の上に乗りこんで、無事にリッテンバニアの街に入ることに成功した。隙を見て荷車から降り、人気のないところまで歩いてから隠密マントを脱いだ。


 「ふう、ようやく着いたか」


 「流石に時間が掛かりましたね。これからどうしますか?」


 「とりあえず拠点を決めよう。身分証の提示を求められない様な裏通り辺りの怪しげなところがいい」


 「なるほど。早速探してみましょう」


 ハルとセーラは大きな通りから離れるようにどんどん奥へ向かって歩いて行った。5本も奥の通りまで出ればすぐにそれっぽい雰囲気に包まれた通りに出た。


 「この辺りで探してみようか」


 「わかりました。あ、あそこ宿なんじゃないですか」


 「うーむ・・・。まあ、条件的には悪くないかな・・・」


 早速セーラが見つけたようだ。セーラが指し示す先には確かに怪しげな宿があった。あった、が・・・


 その宿に近付くといくつもの男女の喘ぎ声とガタゴトと大きな音が響いてきた。


 「えっ、あれ?」


 セーラがようやく宿の正体に気付いた時にはハルはもう宿の入口を開けていた。


 入口には番台がありそこには柄の悪そうな老婆が腰かけていた。


 「何だい?一般客なら一泊で2000J、訳ありなら一人一泊10000Jだよ」


 「いやいや、この設備で10000は取り過ぎでしょ。もうちょっと安くなんないの?」


 「ふん、うちは客の素性とかは関係なく宿泊できる数少ない宿だよ。まあ、どちらかというと連れ込み宿として使われてるがね。顧客の情報を聞かない、売らない、何をしようと関与しない。こんな条件で10000Jは良心的な値段だと思うがね。不満なら他を探しなよ」


 「はあ、わかったよ。その代わりこっちのこと探ってきたらただでは済まさないぞ」


 「ふん」


 ハルは軽く脅しをかけてから老婆に金を支払った。老婆は金を確認すると錆びついた鍵をハルに向かって放り投げ、不機嫌そうに番台に突っ伏した。


 「行こう、セーラ」


 「え、ハ、ハル!?ここここの宿はやめておきませんか!?」


 真っ赤になったセーラが慌ててハルを止めようとする。いくつかの部屋から男女の声が響いてきていた。


 「うーん、別の宿を探してもいいけど大抵この手の宿はどこも同じような感じだと思うけど・・・。ねえ婆さん、素性を聞かずに泊めてくれるところはここの他にどんなとこがあるの?」


 番台に突っ伏した老婆はめんどくさそうに顔を上げる。


 「言っとくがあんたらがよそに行くことにしようと貰った分は返さないよ。その上で聞きたいのなら・・・。そうさね、5件ほど知ってるがやっぱりどこもうちと大差はないね」


 「だってさ、セーラ」


 「うう、わかりました・・・」


 諦めたようにがっくりとうなだれたセーラを連れてハルは自分たちの部屋に入った。狭く、薄汚いへやにベッドが2つポツンと置かれている。部屋を区切る壁はかなり薄いらしく、いくつか先の部屋から生々しい声が響いてくる。


 「とりあえず今日は休もう。しばらく野宿が続いていたから疲れも溜まっているだろうしね」


 「ね、寝れる気がしないんですが・・・」


 「寝ころんで目を閉じてるだけでも結構疲れは取れるもんさ」


 そう言ってハルはベットの一つに横になった。


 セーラも同じように隣のベッドに横になる。


 ハルはすぐに眠りに落ちたが、セーラが眠りに就けたのは周りの部屋から声が響いてこなくなった明け方になってからだった。







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