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ハル・アルダートンと大地の王冠  作者: ゆう
第3章 異変の調査
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アクレスト王国へ

 翌朝ハルとセーラは宿舎1階の食堂で朝食をとった後、今後どう動くかについて話し合うためにハルの部屋に戻ってきた。椅子に腰かけて早々、セーラが自分の考えをハルに伝える。


 「昨夜、あれからいろいろ考えてみましたが、魔石・魔水晶の件は冒険者ギルドに報告してそちらにお任せするのがいいと思います。もともとカシスのエルマー支部長から聞いた情報から調べ始めたわけですし、事件の黒幕が国となると私たちではこれ以上何かすることはできないと思います」


 やはりセーラはアクレスト王国と言う国家が絡んでいる以上、自力で何とかなる問題ではないため、冒険者ギルドに任せるべきと判断したようだ。


 「そうだね。オレもそうするのが最善だと思う」


 「じゃあ、――」


 「だけどごめん、オレはこのまま自力でこの事件のことをもっと詳しく調べなきゃいけないんだ」


 「え、ええっ!?」


 セーラの声を遮るようにしてハルははっきりと宣言した。セーラは驚き思わず声をあげる。


 「で、でも内容的にこれ以上踏み込むのはかなり危険ですし・・・、何より自力でできることには限度がありますよ?仮にさらに詳しい調査に成功しても事件そのものを解決するにはアクレスト王国を説得する必要がありますが、それは個人でできるようなことではありません」


 セーラは少しでもハルの考えを読み取ろうというように真っ直ぐハルの目を見て反論する。ハルはセーラの視線に圧されるように視線を逸らしながら口を開いた。


 「わかってるよ、セーラ。オレとしても自力でこの件を解決できるとは思ってない。ただ、この件は単に魔力資源不足に陥りそうになったアクレストが周辺国から魔石と魔水晶を裏で入手していたという単純な話ではないと考えているんだ。この件にはまだ何か裏がある。セーラも知っているようにオレにはちょっとした事情があるわけだけど、もともとオレが調べていたことと昨晩情報屋で判明したことに関連性がある可能性が高いとわかったんだ。完全にこっちの事情で申し訳ないけど、オレはこの件についてもっと詳しく調べなければならない理由があるんだ。それでこれから調査していく際に冒険者ギルドやウィステリア王国に介入されると色々と動き辛くなる。だからオレは少なくとも調査が終わるまでは昨晩情報屋で手に入れた情報をギルドや国に報告するつもりはない。ああ、でもセーラがギルドに報告するというのならそれを止めたりはしないよ。動き辛くはなるけれどそれならそれでやりようはあるからね。とにかく、オレはこれから現地に行って調査をしなければならない。もちろんこちらの事情にセーラを巻き込むつもりもないからアクレストにはオレ一人で行くよ。明日の朝にはこの街を出発するつもりだ。急な話で本当に申し訳ないけどパーティーは解散しよう」


 「えっ・・・」


 ハルの最後の言葉を聞き、セーラは目を見開いて固まった。ハルは急な展開に思考がついてこれてないのだと判断し再び口を開く。


 「新たに誰かとパーティーを組むのもいいし、セーラなら充分ソロでもやっていけると思う。今後セーラがどう動くかはこれからじっくり考えればいい。オレは明日の出発に向けて準備を始めるよ。また後で話そう」


 ハルは呆然としているセーラを残し逃げるように自室を出た。準備と言っても必要な物のほとんどはアイテムポーチに入っており、いくつかの消耗品を買い足すだけだ。さらに、アイテムボックスの中にアキト国産の食料や装備、薬品なども大量に入っているため実際のところかなりの期間補充無しでもやっていけるだけの蓄えはある。アキト国の物を使いたくない、もしくは使えないという状況があるかもしれないから念のために買い足しておく、という建前だが、実際のところ自分の中の迷いが表に出てしまう前にその場を離れる口実として使ったと言われたほうがしっくりくる。







 「後は、ジークとグリシナに謝った後、義父とうさんに連絡を入れるってとこか」


 いくつかの店で買い物を済ませ、ハルは冒険者ギルドに向かった。そろそろ時刻は昼であり、冒険者講習の戦闘訓練は休憩時間に入っているはずだ。受付嬢に講習生のいる大部屋を聞きそこに向かう。部屋の中を覗くと、ちょうど講習生(Fランク)たちが昼食をとっていた。相変わらず味気なさそうなメニューである。


 「ええっと・・・。あー、いたいた。おーい、ジーク、グリシナ!」


 ハルの声に気付き、2人が顔を向けたので手招きをして呼び寄せる。


 「ん?あ、ハルにいだ!・・・ってあーそうだ!!ハル兄、冒険者講習がこんなにきついなんて聞いてないよ!?なんで教えてくれなかったんだよ?」


 「あれ?そうだっけ?それは悪かった。そんなことより今日は2人に用事があってね」


 「そ、そんなことより!!?」


 ジークが涙目で詰め寄ってくるが、ハルはあっさり受け流した。そのまま自分の要件を伝えていく。


 「どうしても外せない用事が入ってね。明日の朝にはこの街を出る。その用事がいつまでかかるかわからないけど少なくとも2人が冒険者講習を終えてもしばらくは戻ってこれないと思う。冒険者講習に放り込んでおいて、2人が冒険者講習を終えて出てきてみればいつの間にかオレがいなかったじゃ悪いと思ったから一応伝えに来たって訳さ」


 「ええっ!?それはないよハル兄!!依頼か何かだったら断ってよ!」


 「あんまり無茶言わないのジーク。もともと5日間だけって約束だったでしょ。勝手に今後も色々教えてもらえると思ってたのが悪いのよ。それで、用事と言うのはセーラさんも一緒ですか?」


 グリシナがジークをなだめながらハルに質問してきた。


 「・・・いや、今回は完全にオレの私用だからね。セーラとは別行動。今後セーラがどうするつもりかは聞いてないけど王都に残る可能性も十分あると思うよ」


 「そうなんですか?なんだかいつも一緒にいるイメージがあったので・・・」


 「あー、まあ確かにパーティー組んでからはずっと一緒にいたかな。って言っても2か月程だけど」


 「ええっ、そうなんですか!?てっきり私とジークのように昔から仲が良かったんだと思ってました」


 グリシナはとても驚いたようにそう言った。


 「周りからそう思ってもらえるだけの関係が築けていたのなら嬉しいね。っと、そろそろオレは行くよ。この後少し寄るところがあるんでね。それじゃあ2人とも冒険者講習頑張って」


 ハルは踵を返し部屋の外に向かう。


 「あ、ハル兄、その用事が終わったら孤児院に顔を出しに来てよ!シスタージエナもお礼言いたがってたし、俺もまだハル兄たちから教えて貰いたいことが色々あるんだから!!」


 慌ててジークが声を掛けてきた。


 「うーん、ちょっと今後の予定が立てられない状況だから約束はできないけど心には留めておくよ。それじゃあねジーク、グリシナ」


 ハルは手を振って2人に別れを告げた。








 ハルはその足で街の外に出てきた。しばらく歩き、木々に囲まれた人気のない場所に着くと【念話】を始める。


 「(義父さん、今ちょっといい?)」


 「(――ハルか。大丈夫だぞ。どうかしたか?)」


 ハルの【念話】にレナードが答えた。


 「(義父さんに言われた通りに盗賊事件の黒幕を追ってたらいくつか例の異変の件との共通点が見つかったんだ。どうもアクレスト王国が半年ほど前から周辺国から裏で魔石を集めていたらしい。盗賊事件はどうやらその一端だったみたいだ。)」


 「ふむ、『アクレスト』と『半年前』か。確かに異変と関連性がある可能性があるな。それで、ハルはこれからどうするつもりだ?」


 「(オレはすぐにでもアクレストに潜入して詳しい調査を行うつもりだよ。ロッテは地震・魔獣関連の調査で忙しいだろうし、オレが魔石・魔水晶方面から調査を進めていこうと思ってる。できればロッテともコンタクトをとりたいところだね)」


 「(わかった。忙しくしているし、実際に会えるかはわからないがロッテにハルがそちらに向かうと伝えておこう)」


 「(うん、よろしくね。)」


 「(ああ、任せておけ。そういえばハルはそちらで知り合った女の子とパーティーを組んでいると言っていたがその娘のことはどうするんだ?)」


 「(・・・パーティーを解散することにしたよ。亜人を差別するようなタイプではないけれどアキト国の存在を人間側に知られるのは拙いし、何より今回は相手が大きすぎるからね。同年代の中ではトップクラスの実力者なんだろうけど流石に国を相手にするのは無茶だ)」


 「(よかったのか?そちらでできた初めての友人の一人なんだろう?)」


 「(それは・・・。でも、こちらの事情で危険に巻き込むわけにはいかないし)」


 「(ハル、それがお互いが心から納得して出した結論だというのなら俺も何も言わない。ただ、もしもそうでないのならもう一度じっくりと話し合って互いに納得できる答えを出しなさい。そうすれば最終的にどんな選択をするにせよ後悔することはないだろうからな)」


 「(・・・わかった。もう一度セーラと話をしてみるよ。)」


 「(そうか。いい答えが見つかることを願っているよ。また何かあったらいつでも連絡しておいで)」


 「(うん、それじゃあね)」


 ハルは義父との念話を切った。誰にも見られていないことを確認してから街の方に歩き出す。


 「急な話だったし、もう一度セーラと話し合ってみるか」


 ハルは自分の事情をどうやってセーラに伝えるか考えながらギルドの宿舎に向かった。







 ギルドの宿舎に帰ってみると既にセーラはハルの部屋から自室に戻ったようだった。


 「おーい、セーラ今朝の件で少し話がしたいんだけど」


 セーラの部屋のドアをノックをしながらハルが呼びかける。


 「・・・・・・・・・・・・・・・」


 「ん、あれ?セーラ聞こえてる?」


 「・・・・・・・・・・・・・・・」


 「あ、れ?セーラさーん、もしもーし・・・」


 「・・・・・・・・・・・・・・・」


 部屋の中から気配はするがハルの呼びかけにまったく反応しない。


 (これは・・・、ひょっとしてかなり怒っていらっしゃる!!?)


 だらだらとハルの全身から嫌な汗が出てくる。本来ならパーティーメンバであるセーラとじっくりと話し合わなければならないような内容であったが、自分の中の迷いを断ち切るべくかなり強引に話を進めた自覚はあった。


 「あー、そのセーラ?大事な話なのに強引に話を進めちゃって悪かったよ。オレ自身色々迷ってる部分もあるからもう一度これからのことをじっくりと話し合いたいんだけど・・・」


 「・・・・・・・・・・・・・・・」


 ハルの呼びかけにやはり反応は無い。結局その日セーラの部屋の扉が開けられることはなかった。








 翌日の早朝、ハルは乗合馬車の駅に一人で立っていた。結局セーラと話し合うことができなかったが、それは強引に話を進めた自分の責任である。後ろ髪を引かれる思いをしながらも、自分の最優先の任務を果たすべく予定通りアクレストに向けて出発することにした。身分証でもあるギルドカードを使うと自分がそこにいたという証拠を残してしまうため、アクレストの国境付近の村まで馬車で向かい、そこからはこっそりと国境を越えてアクレスト王国内に潜入する予定だ。


 始発の馬車を待ちながらハルは無意識にため息をついていた。自分で思ってた以上に喧嘩別れのような形でセーラと別れるのが堪えているらしい。


 まだ、ほとんど人のいないオルタンシアの街はいつもの喧騒が嘘のように静まり返っている。と、その時静寂の中から小さな足音が聞こえ始めた。なんとなく足音がする方に視線を向けたハルは驚いて固まった。


 ハルの視線の先にいたのは瞳に強い意志を宿したセーラだった。セーラは真っ直ぐハルの目の前まで歩いてきた。


 「セーラ昨日はごめん。2人でしっかりと話し合うべきことだったのに――」


 「私も行きます」


 「えっ?」


 「私もハルと一緒にアクレストに行きます」


 セーラは昨日のハルのようにハルの言葉を遮るようにしてはっきりと宣言した。


 「昨日1日ずっと考えましたが、やっぱりいきなりパーティーを解散するというのは納得いきません。私には今のところハルとのパーティーを解散する意思はありません。ハルに事情があるのは知っていますが、それは私とハルのパーティーが解散するということとは関係ないはずです。確かに私はハルと比べればとても弱いです。詳しい事情は知りませんが、アクレスト王国となんらかの形でぶつかることになれば私は無力な存在になるかもしれません。だから、私の実力ではハルの足手まといだから、もう私とパーティーを組みたくないと言うのであればパーティーの解散を受け入れましょう。でも、昨日言っていた自分たちの事情に巻き込みたくないからなどといった理由では認められません。パーティーメンバーであるハルの事情ならそれは私の事情でもあるはずです。だから、ハルが私のことを自分のパーティーメンバとして実力不足だと言うのでなければ、私はハルのパーティーメンバーとしてハルと一緒にアクレストに向かいます」


 驚くハルにセーラははっきりと自分の意思を告げた。そのままセーラは昨日のようにハルの目をじっと見ながらハルに1つの問いを投げかける。


 「ハル、私はハルのパーティーメンバーとしては力不足ですか?」


 「セーラ・・・」


 ハルは目を閉じ、義父の言葉とセーラの言葉を反芻しながら自分の中の気持ちを見つめなおしていく。しばしの黙考の末、ハルはセーラの視線をしっかりと受け止めながら口を開いた。


 「そんなことはない。セーラが力不足だと感じたことはないよ。ただセーラの言う通りこれからオレはアクレスト王国と何らかの形で衝突することがあるかもしれない。国という巨大な組織を相手にするのならかなりの危険が付きまとう。だからこそ昨日オレはセーラを巻き込みたくないとパーティーの解散を宣言した。セーラはオレにとって特別な人(外界で初めてできた友人)だからね。自分のせいでセーラが傷つくのは見たくないと思ったんだ」


 「と、特別な人!!?」


 「だけど、セーラの言葉を聞いて決心がついたよ。やっぱりオレもセーラと一緒にいたい。もしもピンチになってもオレが絶対守るからこれからもオレのパートナー(パーティーメンバー)として隣にいて欲しい」


 「パ、パートナーとして隣に!!?」


 「だからセーラ、これからもオレと・・・セーラ?聞いてる?」


 「は、はいぃ!!!」


 「???・・・というわけでこれからもパートナーとしてよろしくね。そして改めてお願いしたい。セーラこれから厄介ごとに首を突っ込むことになるかもしれないけど力を貸してほしい」


 「は、はい!ふ、不束者ですがよろしくお願いします!!!」


 「不束者?まあいいや、セーラ馬車が来たみたいだ。行こう!!」


 ハルは笑顔でセーラに手を伸ばした。何故か赤くなっているセーラがハルの手を見て一瞬ビクッとしたもののおずおずとその手を握り返した。


 こうしてハルとセーラは共にアクレスト方面に向かう馬車に乗り込んでいった。なお、近くを散歩していた老夫婦が2人(主に初々しい反応を見せていたセーラ)の様子を見てほっこりとした気持ちになりほほ笑んでいたという。






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