王都観光
王都に着いた翌朝、ハルとセーラはオルタンシアの観光に出かけた。どこに行こうかと考えているハルにセーラが提案してくる。
「ハル、せっかくオルタンシアまで来たのでオルタンシア大聖堂に行ってお祈りしませんか?」
「ん?大聖堂か。うん、いいよ。早速行ってみようか」
こうしてまず、ハルとセーラはオルタンシア大聖堂に向かった。オルタンシア大聖堂はアキト国やウィステリア王国があるこのアーベンティア大陸全土で信仰されている『神聖教会』の礼拝堂で、ウィステリア王国内最大の規模を誇る聖堂である。『神聖教会』はそれほど戒律が厳しくなく、機会がある時に教会に来て礼拝をして行けと言うくらいで、後は「窃盗を禁ず」等の割と当たり前のことしか束縛されない。だからこそ大陸中で受け入れられ多くの人が信仰しており、大陸に住む人の7割近く、特に大陸の中部から西部にかけては9割以上の人が神聖教会の信徒だと言われている。アキト国所属のハルは違うが、セーラも神聖教会の信徒であった。
せっかく誘って貰ったのに自分は信徒ではないからと言い出すのもどうかと思ったのでハルは何食わぬ顔で大聖堂までやって来た。荘厳な雰囲気の大聖堂内に入ると、丁度ミサが行われており、多くの人が真摯に祈りを捧げていた。若干の居心地の悪さを感じながらもハルもセーラを真似て祈りを捧げた。
「しばらくお祈りができてなかったので良かったです。次はどうしますか?」
「それじゃあ、次は記念公園に行ってみようよ。ここも有名な観光地らしいし」
「私も聞いたことがあります。とても大きな公園みたいですね?」
ミサが終わり、多くの人たちと共に大聖堂から出てきたハルとセーラは次に、オルタンシア記念公園を訪れることにした。この公園の中央には、ウィステリアを建国した初代国王の銅像が建っている。アーベンティア大陸西部の中では比較的歴史の新しいウィステリア王国だが、もともとは、今のウィステリアとほぼ同じ国土を有する国があったが、王族同士での殺し合いや流行り病の影響で王族が死に絶え、王家の血を引く大貴族が覇権をめぐって争ったらしい。数年続いた戦争を制し、このオルタンシアを首都として国を新たに建てたのが銅像になっている初代国王だったという訳だ。
しばらく、公園を歩いていると第3点鐘が鳴らされ、正午を告げた。
「そろそろお昼だね。おっ、あそこに屋台が出てるよ!せっかく天気もいいしあの屋台で食べ物を買って公園で食べようよ」
「いいですね!あれはホットドックの屋台みたいですね。向こうのベンチに座って食べましょうか」
ハルとセーラは屋台でホットドックを買い、近くのベンチに座って昼食を取った。その後、腹ごなしに公園を歩きながら次の行先を話し合う。
「人気のある観光地なら、他には闘技場が有名ですね。行ってみますか?」
「ああ、あの大きな建物か。そだね。ちょっと覗いてみよっか」
ハルたちは公共区にある建物の中でも一際大きく、すり鉢状という特徴的な形をした闘技場に向かった。
この闘技場では様々なイベントが行われるが、普段は剣闘士たちがここで闘っているらしい。といってもこの国に奴隷制度は無く、当然剣闘士たちも奴隷ではないので、殺し合いをさせる訳にはいかない。かといって、非殺傷性の武器で闘っているのを見ても緊張感が無く、面白みに欠ける。そこで行われているのが魔獣と剣闘士の戦いだ。冒険者をしているとそんなの日常茶飯事ではないかと思ってしまうが、一般人が魔獣と人の殺し合いを見る機会はそれほど多くないため、いい娯楽になるらしい。ハルとセーラも人気の観光地ということで一応顔を出してみたが・・・
「うーん、無駄に大きな動き、派手なパフォーマンス。これは完全に見世物だね」
「そうですね。わざと危険度の低い攻撃を受けて派手に吹き飛んだりしてピンチの演出をしたりしてますね。普段、魔獣との戦いを見ることが無い一般の方はあれくらいの方が面白いのでしょうが、やはり私たちが楽しめる場所ではなかったようです」
しばらく見ていたもののここではあまり楽しめないと判断したハルとセーラは闘技場を離れた。
「ここの隣は王立図書館だったね。このまま行ってみようよ」
「わかりました。どんな本があるでしょうか」
次に2人が訪れたのは王立図書館だった。蔵書数は30万に及ぶと言われている。入口に受付があり、2人はそこに向かった。
「ようこそ、王立図書館へ。ご利用方法はご存知ですか?」
「いえ、初めて利用するのでわかりません。教えてください」
受付の男性に聞かれハルが答える。受付の男性は丁寧に説明を始めた。
「まず、ご入場の際にはお一人様10000Jをお預かりします。本は貴重な物であるため、一冊一冊がそれぞれ高価なものです。ですので、本を乱雑に扱ったりして、本を傷めたり紛失された際はこの10000Jは弁償費用の頭金としていただくことになります。そのようなことが無ければお帰りの際にお返しします。なお、本館に所蔵されている本は紛失及び盗難を避けるため、館外に持ち出しすることはできません。ただし、羊皮紙などをご持参していただきそこに本の内容をメモして持ち出すことは可能です。その際に本を汚さないようにご注意ください。お帰りの際はなるべく元の所に本をお返しください。どこにあったか思い出せない場合はここの職員に声をお声かけください。以上となりますが、なにかご質問はありますか」
「いえ、大丈夫です」
「それでは入場料の10000円をお預かりいたします」
ハルとセーラはそれぞれ10000J払い、図書館に入った。落ち着いた雰囲気の中、2人は色々な本を見て回り、いくつか気になったのを持って空いていた椅子に腰掛け、ゆったりと読書を始めた。ハルは、地理などに関する本を、セーラは武術関連の本や恋愛小説などを読んで、2人は結局夕方まで図書館で過ごした。
「そろそろいい時間だね。どうする?もう宿舎に戻る?」
「いえ、でしたらこのまま夕食を食べに行きませんか。この街にある店でどうしても行ってみたい喫茶店があったんです」
「へえ、どんなとこなの?」
「なんでも、有名なパティシエが手掛けるスイーツが絶品だとか。特に特製パフェが凄いらしくて一度食べてみたかったんです」
「よし、じゃあ今日はそこで夕食にしよう!」
ハルはセーラに連れられて有名なパティシエがいるという喫茶店にやってきた。小奇麗な店だが、恐ろしく女性の割合が多い。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「あ、2人です」
「かしこまりました。ご案内いたします」
店員に案内されて席に着く。ハルはパスタと食後のデザートにフルーツタルトを頼んだ。セーラは特製パフェのみである。
「他のもの頼まなくていいの?」
不思議に思ったハルが質問する。
「いえ、ここの特製パフェってとても大きいみたいなんです。あ、あそこの方が食べてますね」
セーラの視線を追ってハルが見てみるとある女性が座っているテーブルの上に巨大な塔が鎮座していた。高い。そして太い。見ると所々他のテーブルにも同じ巨大サイズのパフェがそびえたっている。
「・・・あれは一体何人前なのさ?」
「え、普通に1人前ですよ?」
思わずつぶやいたハルを見てセーラが不思議そうに首をかしげる。
それはないだろうと反論しようとした時にハルはあることに気付いた。
「なん、だと!?恐ろしい速度でパフェが消えていく!!?」
見ると女性客たちが一心不乱にパフェを食べ進めていく。どう考えても女性の胃袋よりパフェの方が大きなはずだが、女性たちはなにごともないかのように食べ終えた。
「馬鹿な!?い、いったい何が起こって!!?」
信じられない光景に目を剥くハルのもとに注文したパスタがやってきた。同時にセーラの目の前に巨大なパフェが君臨した。近くで見れば見るほど大きい。
「いや、それはいくらなんでも無理でしょ!?」
「さっきから何を言ってるんです、ハル?まあ、いいです。いまはそれよりパフェです!いただきます!!」
セーラは目を輝かせながら食べ進めていく。ハルもパスタを口に運んでいるが目の前の信じられない光景のせいで味がまったくわからなかった。ハルにデザートのタルトが届く頃にはセーラの目の前のパフェの残りは既に4分の1を切っていた。最後までペースを落とさず食べ進め、ハルがタルトを食べ終わる頃にはセーラの目の前からもパフェが姿を消していた。セーラは普段はハルより食べないのにこの日は結局一人でペロリとパフェを食べきったのだった。
「・・・あのパフェはセーラのお腹のどこに行ったんだ?」
宿舎に帰りながらハルは遠い目をして呟く。どう見てもセーラの体型はパフェを食べる前と一切変化がなかった。
「何言ってるんですハル。女の子にとってスイーツは別腹ですよ?」
人体の神秘を垣間見た気がしたハルはぼんやりとしながら宿に向かって歩き続けた。




