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ハル・アルダートンと大地の王冠  作者: ゆう
第2章 外の世界
20/44

盗賊被害とギルドの作戦

今回、ちょっと長めです。あと、少し残酷描写あります。

 4人組の冒険者と揉めた約2週間後のことである。ちなみにあの4人組はアレクセイ教官にこってり絞られた後、冒険者間の揉め事で武器を抜いたことが問題になり、それまでにも様々な問題行動をとっていたらしく多額の罰金、Eランクへの降格、冒険者講習の再受講などを課されたらしい。近々冒険者講習で地獄を見ることになるだろう。


 この日も無事に依頼を終え、報告を終えたハルとセーラが宿に帰ろうとしたところで受付の女性が2人を呼び止めた。


 「ハルさん、セーラさん、依頼を終えられたばかりのところで大変申し訳ないのですがこの後少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


 「はい?一応大丈夫だけど・・・」


 「ええっと、どのようなご用件でしょうか?」


 「いえ、ここでは少し・・・。二階の小会議室までお越し願いたいのですが」


 「??・・・分かりました」


 小会議室に案内され少し待っているとやがてドアが開き、70歳くらいの立派な顎鬚をたくわえた老人が中に入ってきた。


 「待たせてすまんの」


 「いえ。ええと・・・」


 服装も一目で高級品だとわかるものでそれなりの立場の人物とは分かるのだが、ハルもセーラも目の前の人物に見覚えはなかった。困惑する2人を楽しそうに見つめながらその老人は自己紹介を始めた。


 「わしはここのギルドの支部長をやっとるエルマーじゃ。おまえさんらのことはアレクセイたちから聞いておるよ。いずれ話をしてみたいと思っとったところでちょうどおまえさんらに頼みたい案件が出てきたんで直接会うことにしたんじゃ」


 「支部長!?」


 「ええっ!?」


 世界中に影響力を持つ冒険者ギルドの支部長となるとかなりの立場の人間ということになる。思わずハルとセーラは驚きの声を上げた。2人の反応に一頻り笑うと支部長は話を再開した。


 「さて、おまえさんたちに頼みたい案件についてじゃが・・・、おまえさんらは今この街の周辺で盗賊による被害が増えておるのは知っとるかの?」


 ハルとセーラが頷く。


 「はい。それで最近護衛の依頼や護送の依頼がかなり増えていますよね」


 「それと徐々に減っていた被害がここ数日でまた増え始めているとか」


 盗賊の噂を聞き、商人も護衛を増やしたり、護送の依頼も数パーティーで受けるなどして盗賊からの被害が徐々に減ってきていたのだが、ここ数日でまた何件も盗賊の被害が出たらしい。


 「うむ。そのとおりじゃ。では、話が早いの。どうやら、最近また被害が増えだしたのは盗賊側に情報が漏れているかららしいのじゃ。」


 「情報が、ですか?」


 「うむ。最近盗賊どもの動き方が明らかに変わったそうじゃ。戦力が充実している商隊付近には決して現れず、逆に戦力に不安がある商隊はほぼ確実に襲われているらしい。明らかに盗賊どもはいつどこをどの程度の戦力を持った商隊が通るかわかった上で動いておる。どうやら、クエストボードに貼られた依頼の内容と、その依頼をどれくらいの人数の冒険者が受けたのかが盗賊に伝わっておるようじゃな」


 「それって、盗賊が冒険者ギルドに入り込んでいるということですか?」


 セーラの言葉に支部長は首を振る。


 「いや、その可能性は低いじゃろう。街の中に入るには身分証がいる。無くても入ること自体は可能じゃが、すぐにギルドカードなどの身分を証明できるものを用意せねばならん。街から出る時も身分証が必要じゃ。そして、身分証をつくる魔道具じゃが、あれは遥か昔、今より技術がずっと進んでおった時代の遺跡から見つかったアーティファクトの1つでな。カードを作る時、その者が犯罪者であるならばすぐにわかるようになっておるのじゃ。既にカードを持っておった者が罪を犯してもわかるようになっておる。だから、盗賊は街の中に入ってもすぐに見つかることになるし、外に出ることは不可能なのじゃ。ただ、これにはいくつか例外と抜け穴があっての・・・。例えば、盗賊などの罪の重い犯罪者を殺しても犯罪者とはならんし、犯罪履歴も残らん。戦争などで人を殺したとしても同様じゃ。また、犯罪履歴が出るのは実際に犯罪行為を行った者か、犯罪者の仲間になった者のみでの。じゃから、盗賊自身が情報を集めるのは難しいが、盗賊の仲間ではない別の誰かが盗賊と接触して情報を渡している可能性は充分にあるのじゃ。盗賊と話すこと自体は罪に問われんし、ギルドのクエストボードを見ることも当然罪ではないからの」


 「そんな抜け穴が・・・。だとするとやっかいですね。もう情報提供者に目星は付いているんですか?」


 ハルが顔を顰めながら問う。


 「残念ながら恐らく冒険者じゃろうな。冒険者でない者がクエストボードを覗きこんでおったら目立つからの。さらに、条件としてまずはここの数日の間、毎日ギルドに顔を出している者が挙げられるの。まあ、これはかなりの人数が当てはまる。次にそれなりに長い時間ギルドの中に留まっている者とも考えられるの。しかしこれもそれなりの人数が該当するのじゃ。酒場で一日過ごす者もおるくらいじゃからな。この条件でおまえさんたちは候補から外れるがの。おまえさんたちは朝一にギルドに来て、遅くまで依頼をこなしたり狩りをしているようだからの。それと最後に情報提供者はおそらく最近になってこの街にきた者だの。どうやら、情報提供者はこの街の冒険者個々の実力を碌に知らないようじゃ。Cランクパーティーが商隊に付いていても少人数なら盗賊の襲撃を受けておるし、逆にほとんどの者がEランクだったとしても人数さえ多ければ今のところ襲われていないようじゃ。個々の実力が分からないから護衛の人数で戦力を判断しとるようじゃの。ある程度までは絞り込めるがまだ、候補が多くての・・・」


 そこで一度区切った後、支部長は改めてハルたちの方を見た。


 「少々前置きが長くなってしまったがここからが本題じゃ。カシスの冒険者ギルドは情報提供者を捕縛すると同時に盗賊どもを一掃したいと思っておる。そこで、明日の朝、盗賊どもを釣り出すために偽の護衛依頼を出すことにしたのじゃ。出発は明後日の朝で、依頼者はお金のない商人で少人数しか護衛を雇えない・・・という設定じゃ。実際には商品ではなく、先ほどの条件から外れた中でも信頼のおける冒険者たちを荷台に潜ませておく予定じゃ。こうして釣り出した盗賊を一気に殲滅する。そして、盗賊から情報提供者の情報を聞き出し、犯人をとらえるという寸法じゃ。そしてこの偽の依頼を2人に受けてもらいたいのじゃ。報酬は・・・そうじゃな、1人当たり5万Jとギルドポイントを20出そう。2人は元々ここのギルドにいた者たちにはかなり実力者だと知られつつあるが、対外的にはまだ無名じゃ。・・・容姿も年相応で、こう言っては何じゃが強そうには見えんしのう」


 悪戯っぽい笑みと共に付け足された最後の言葉に思わずハルとセーラは苦笑する。実際、先日四人組に絡まれたのも2人が強そうには見えなかったからだろう。


 「それでどうじゃ?受けてもらえるかの?」


 支部長の問いに少し考えた後ハルが口を開く。


 「荷台に潜ませる冒険者は何人くらいになるのでしょうか?後、大体でいいのですが盗賊の数は判明してますか?」


 「今のところ潜ませるのはCランク4人、Dランク18人、Eランク6人の予定じゃ。多少の増減はあるかもしれぬが大体そのくらいじゃと思って欲しい。盗賊の数は現場の状況や、証言などから50人前後と見込んでおる」


 「それじゃ最後に・・・盗賊への対応は?」


 「先ほども言った通り、情報提供者のことを聞き出すために数人は生き残りが欲しいのじゃが残りは殺してよい。盗賊はどの道死刑じゃからの。」


 盗賊による被害は後を絶たず、同じ人間であるがゆえに魔獣たちよりも非道な行いをすることも多い。だからこそ、盗賊になる罪は重いし、盗賊は基本的に会ったら殺す、というのが冒険者の、いや、世界の常識だった。


 「なるほど、分かりました。セーラ、どうする?」


 「そう・・・、ですね。・・・受けてもいいと思います。かなりの被害も出ているようですしこれ以上放置はできないでしょう」


 『殺す』という言葉を聞いて少し顔色が悪いがセーラは覚悟を決めた顔をしていた。


 「わかった。・・・では、この依頼お受けしようと思います」


 ハルが代表して支部長に受諾の旨を伝える。


 「おお、そうか。それは助かるの。では、もう少し細かい打ち合わせをしておこうかの」


 それから、ハルとセーラは支部長と共に作戦の詳細を詰めていった。








 翌朝。ハルとセーラが冒険者ギルドに入りクエストボード方を見ると昨日打ち合わせた偽の依頼が割と目立つところに貼ってあった。今回の作戦のことを知ってる冒険者は当然受けないし、護衛、護送系の依頼の中でここ最近で一番条件が悪いため作戦を知らない冒険者も受けていなかったようだ。


 (まあ、他の冒険者が受けてたらそれはそれでオレとセーラも荷台に乗り込むだけだったんだけどね)


 そんなことを考えながら、ハルはセーラとクエストボードに近付いていく。2人に気付いた、作戦を知る冒険者たちがさりげなく他の護衛の依頼を埋めていった。


 「あれ、そろそろ護衛系の依頼受けてみようって思ってたのにほとんど埋まっちゃってるなぁ」


 「そうですね・・・。あ、ここにまだ一つ依頼が残ってますよ」


 「お、ほんとだ。あー、でも報酬が微妙だなぁ・・・。行先は・・・、おっ!北の方のタイムの街か。ここって、最近新しいダンジョンが見つかったんだっけ?」


 「そうだったと思います。最近になっていくつか新しいダンジョンが見つかったようですがその中の一つがタイムの街にあったはずです」


 「それじゃあ、報酬自体はよくないけどこの依頼を利用して、タイムのダンジョンに行ってみない?」


 「いいですよ。それじゃあ、この依頼を受けることにしましょう」


 若干棒読みになりながらもそれらしい理由をつけ、ハルとセーラは偽の護衛依頼を受けた。







 翌朝、準備を整えたハルとセーラがに依頼で指定された場所に向かうと馬車、荷台と共に依頼人のピーター氏が待っていた。ちなみに彼は本物の商人ではなく、冒険者に顔の知られていないデスクワーク担当の新米ギルド職員である。50人程度の盗賊に対し、殲滅が目的のため冒険者は予定通り30人と過剰戦力気味だが、まったく戦えないらしいピーターの目の下には隈ができていた。緊張で昨晩は寝られなかったらしい。哀れなピーターと一通り打ち合わせを終えたところで出発の時間が来た。ピーターは馬車の中にそそくさと入っていき、ハルとセーラは荷台の縁に腰をかけた。ちなみに御者もギルドの方で用意した元冒険者で信頼できる人物らしい。カシスの北門から街を出て、街道を北上する。


 「さて、ここからは相手の出方次第か。うまく釣れるといいね」


 「商人一人、御者一人、護衛の冒険者2人ってことになってますから条件からすれば狙われる可能性は高いと思いますけど・・・」


 ハルとセーラは周囲の気配を探りながら盗賊たちが罠にかかる時を待った。







 カシスの北の街道を北上し始めてから3時間ほど経ったときである。


 「――!・・・ハル!」


 「うん、視線を感じたね。これは思ったより早く来るかもしれないよ」


 ハルとセーラは街道沿いの森の中から複数の視線を感じた。しばらくの間様子を窺うようにハルたちの方を見ていたいくつかの気配が一部を残して離れていく。盗賊の襲撃は街を出て半日進んだくらいの距離で行われることが多いが、荷台に隠れている冒険者たちのコンディションを考えるとなるべく早い段階で襲撃を受けたいとハルは考えていた。ハルは何事もなかったかのように振る舞いながらさり気無く荷台の縁をノックした。すぐに荷台の中からもノックが返される。荷台の冒険者たちは準備万端のようだ。







 「止まれぇ!!」


 視線を感じ始めてから5分程経ち、見通しの悪い曲がり角に差し掛かった時、野太い大声が響き渡った。同時に、街道の脇の草木の陰から薄汚い恰好をした男たちが次々と出てくる。事前の情報の通りその数は50人程だ。


 盗賊の頭領らしい男がにやにやしながら前に出てくる。


 「何かの間違いかと思ったが本当に護衛がたった2人とはなぁ。しかもこんな餓鬼2人ときた!!こんな楽な仕事そうはねえぜ!」


 「お嬢ちゃん、坊ちゃん仕事はちゃんと選ばなきゃだめでちゅよ」


 「まあ、今更後悔したところでもう遅いがな」


 絶好の鴨を見つけたと思ったらしい盗賊たちはハルとセーラを嘲るような発言をした仲間の言葉に爆笑しながら何の迷いも無い足取りですたすたと近付いてくる。


 「その餓鬼二人は捕まえろ。手ェ出すなよ?あいつらに頼まれてんだから」


 「ボス、あんな奴らの頼みを無理に聞くことはねえっすよ。俺たちで楽しみましょうぜ」


 「バッカおまえ、あいつらに手を切られたらまた狙いを絞れなくなっちまうだろうが。もうしばらくは利用するために機嫌取っとい、ぐえぇっ!!?」


 「な、ボス!?」


 「今だ!!」


 盗賊たちが近くまでやってくるのを待っていたハルは全ての盗賊たちが馬車の10メートル以内に集まったと判断した瞬間に、捕らぬ狸の皮算用をしながら無防備に近付いてきた盗賊の頭領との距離を一瞬で詰め意識を刈り取ると同時に合図を出した。


 次の瞬間には荷車に掛けられていた幌が外れ、荷台から飛び出してきた冒険者たちが、驚いて固まっている盗賊に襲いかかった。


 「な、何だぁ!?」


 「くそっ、罠だ!!」


 「ぎゃあぁぁ!!?」


 人数では上回っていたものの、実力が上の相手に奇襲を掛けられた盗賊たちは混乱し次々と倒されていく。


 「くっそがぁぁ!!」


 「この野郎!!」


 ハルとセーラの近くにいた盗賊が目を血走らせて二人に飛び掛かってきた。


 「・・・ごめんね、もう生かしておく奴らは確保済みだから」


 「・・・っ」


 型も何もなく無茶苦茶に振るわれる安物のショートソードを躱し、ハルは鋭く剣を振り抜く。次の瞬間、何が起こったかわからないといった表情の盗賊の首が体から離れて地面に落下した。


 「ぎゃあああああ・・・」


 すぐ近くで断末魔の声があがりハルはそちらに視線を向ける。少し顔色の悪いセーラの前で、血に染まった盗賊が崩れ落ちるところだった。









 盗賊の全滅という形でわずか数分でこの戦いは終了した。生かしておいた頭領たち3名を除いて、盗賊たちは自分たちの流した血の海に沈んでいる。


 残した盗賊の尋問は荷台に隠れていたCランク冒険者が行っている。ハルとセーラは少し離れた所で休憩していた。


 「セーラ、大丈夫?」


 まだ、顔色が良くないセーラに話しかける。セーラの他、2名のEランク冒険者も初めて人を殺したらしく気分が悪そうだ。盗賊は殺して当然、むしろ殺さないといけないと昔から聞かされてきても人を殺すという行為は精神的にかなりの疲労をあたえるものだ。まして、初めてであればまともな精神を持つ者なら相当きつい思いをするものだった。


 「はい、なんとか・・・。『盗賊に温情を掛けてはいけない。その温情が後に他の罪無き人を傷付けることになるから』。昔からそう聞かされてきましたし、その通りだと頭の中ではわかっているのですが、それでも人を殺すということはあまり気持ちのいいものではありませんね」


 「まあね。・・・なんなら、この間のように胸を貸してあげようか?」


 「え・・・、い、いえ!いいです!というか先日の件は忘れてください!」


 「あはは!」


 「もう・・・。ふふっ」


 ハルにからかわれ少し元気が出てきたようだ。


 「ハルはそれほど堪えてなさそうですね。ひょっとして以前にも?」


 「まあね。初めての時はオレもかなり堪えたなあ・・・」


 近代から現代にかけてくらいの文明を持つアキト国はかなり治安がいいが、それでも犯罪というのは時折起きる。犯罪への対処は基本的に警備団が行うが、犯罪者の中には腕が立ち警備団では危険な者や、秘境に逃げ出す者もおり、それらの対処は猟兵団が行うことがあった。その中でハルは過去に数名の亜人を殺している。


 「ハルでもやはり辛いものだったんですね。少し安心しました。何度か経験すればこの感覚は薄まっていくのでしょうか?」


 「そうだね。何度か経験するとどうしても慣れがでてくる。相手が悪人であれば何も考えず、それこそ魔獣を狩るのと同じような感覚で人を殺せるようになってしまう。きっと心を守るための防衛本能が働くんだろうな・・・。でも、それは恐ろしいことでもあるよ。大切な感情の一部をなくしてしまうってことだからね。だからセーラが今、抱いてるその感情は大切にした方がいいよ。」


 「そう、ですか。わかりました。もう少しこの感情と向き合ってみることにします」


 そう言って、セーラは瞑想をするように目を閉じた。ハルもまた目を閉じ、セーラの心の整理がつくのをまった。








 「おーい、皆ちょっと集まってくれ!!」


 しばらくしてから、盗賊を尋問していたCランク冒険者が呼びかけてきた。ハルとセーラも呼びかけに応じ、Cランク冒険者の下に向かう。


 「やっぱり、こいつらに情報を流してた奴らがいるみたいだ。こいつが言うにはもうすぐそいつらが盗賊のアジトに来ることになっているらしい。今から、こいつらに案内させて盗賊のアジトに行こうと思う。馬車を守るため半数はここで待機、残りの半数はアジトに向かう。後、情報を流してた奴とは別に盗賊たちをカシスの周辺まで来るよう手引きした奴がいたらしい。こいつらに魔水晶を奪わせて、それを時々金や酒と交換しに来るようだ。昨日来たばかりだそうだから今いる可能性は低いだろうが一応そいつのことも探してみよう。とりあえずここに残り馬車の護衛をしたい者は少し離れてくれ」


 Cランク冒険者の言葉にちょうど半分くらいの冒険者がその場から少し下がった。気分が悪そうだったEランクの2名もいる。


 「セーラはいいの?」


 ハルは心配して聞いてみるがセーラは力強く頷いた。


 「大丈夫です。まだ、心の整理はついていませんがそれ以上に、情報提供者と盗賊を手引きした者の方が気になりますから」


 「そっか。わかったよ」


 それ以上は何も言わずハルは素直に引き下がった。一緒に行動するようになってまだ2か月足らずだが、本当に無理だったらちゃんと自分に言ってくれると確信できるくらいには2人の関係は強いものになっていた。


 「よし、いい感じに別れたしこのメンバーで盗賊のアジトに向かうぞ。あまり時間がないようだし少し急ぐからな」


 ハルたちは盗賊に案内させ、アジトに向かう。


 盗賊のアジトは背の高い草に入口を隠された洞窟の中にあった。


 中を捜索するが、奥に枯草を集めてつくった盗賊たちの寝床と、略奪行為で得たお金や食料などがある以外は特に何もなかった。


 洞窟内に半数、逃げられないように残りの半数が近くの茂みや木の上に身を隠し、情報を流していた者たちがやってくるのを待つ。しばらくするとがさごそと雑に草木をかき分けながら数人の人間が話しながらやって来た。


 「あいつら、あの糞生意気な餓鬼共を殺してねえだろうな。あいつらだけは俺たちの手で嬲ってやらねえと気が済まないんだからよ」


 「男の方はどうでもいいけど女の方が傷物にされてたらうっかりあいつら殺しちまうかも」


 「俺たちから情報買えなくなったらあいつらが困るんだからそれはねえだろ。」


 「ってか餓鬼どもがどうにかなってても手を出すのはマジでやめてよね。流石にあの人数相手にすんのは無理だから」


 「・・・!」


 「っ!!?」


 茂みに隠れていたハルとセーラは驚いて目を見張った。


 その場に現れたのは2週間ほど前にハルたちと揉めた4人組の冒険者だったのだ。


 「おい!餓鬼どもはちゃんと捕まえたんだろうなあ?」


 洞窟の入り口に立ち、ショーと呼ばれていたリーダー格の男が大声で中に呼びかける。


 「おう、こっちだ。逃げられないように縛ってるぞ!!」


 Cランク冒険者に脅された盗賊の頭領が4人組を洞窟内に呼び込むために大声で返した。


 それを聞いて4人組が洞窟の中に入っていく。洞窟の外に隠れていた冒険者たちが、ある程度距離をとりながらついていき、退路を塞ぐ。


 「セーラ、オレたちはここに残ろう」


 先日の件もあり、さらに今は盗賊を殺した直後で、精神的に不安定になっているため、ハルはセーラをあの4人組、その中でも鼻ピアスに合わせない方がいいと判断した。ハルたちを除いても冒険者は13人。そのほとんどがあの4人組よりも実力が上だ。余裕をもって捕まえられるはずだ。ならば、無理にセーラを鼻ピアスにあわせる必要もないだろう。


 しかし、セーラは首を振った。


 「大丈夫です。心配しないで、ハル。この間も言ったけど、いつまでも過去トラウマに振り回されるつもりはないし、いざとなったらハルが助けてくれるんでしょう?」


 そう言って笑顔を見せるセーラは決して無理をしているわけではなさそうだった。ハルが思っている以上にセーラは強かったようだ。


 「・・・わかったよ。いざという時は絶対オレが守るから安心してていい。それじゃあオレたちも行こうか!」


 ハルとセーラが駆けだす。洞窟の奥からは叫び声と、争うような物音が聞こえてきていた。冒険者と4人組が接触したらしい。


 洞窟の奥の盗賊たちの寝床の近くで4人組は必死の抵抗をしていた。一応元々は下位とはいえDランクだっただけはあり、さきほどの盗賊とは違ってそれなりの動きをしている。とはいえ、この場にはCランク冒険者もおり制圧は時間の問題だろう。


 と、その時リーダー格の男と鼻ピアスがハルとセーラに気付いた。


 「糞餓鬼!!てめえらのせいで俺は!!」


 「見つけたぞおぉぉ!!」


 2人は狂ったようにハルとセーラに向かって駆けだし、何発か攻撃をくらいながらも冒険者の包囲を強引に突破し飛び掛かって来た。


 「てめえのせいで!てめえのせいで!!てめえが全部悪いんだ糞餓鬼ィ!!!」


 「おまえは、おまえのすべては俺のものだぁっ!!」


 ハルとセーラも武器を抜き迎え撃つ。


 「いやいや、知らないよ。割と自業自得じゃない?」


 「ごめんなさい。生理的に受け付けません」


 ハルがリーダー格の男の剣を弾き返し、カウンターで蹴り返すもすぐにまた飛び掛かってくる。


 「喰らえやぁぁ!!【Vスラッシュ】!!!」


 斜めに切り降ろした後、V字を描くような軌道で剣を返す、【スラッシュ】の上位の戦技である【Vスラッシュ】を放ってきた。しかし、ハルは初動を確認した瞬間に一歩下がり剣を躱す。


 「確かに戦技は強いけど、あまり対人戦ではおすすめしないよ」


 リーダー格の【Vスラッシュ】が空振りに終わり、戦技を使った後にできる硬直を逃さずハルはがら空きの腹部に拳をねじ込んだ。白目をむいてリーダー格が倒れる。


 戦技は強力な効果を持つが、相応のリスクもある。まず、最初に魔力を消費すること。戦技は保有量の多寡はあるが誰もが生まれ持っている魔力を闘気に変換して発動する。魔力が減ってくれば人は動きも思考も鈍り、使いすぎれば意識を失ってしまう。


 次に、使用後に硬直ができるものが多いこと。硬直の時間は技の熟練と共に少しずつ短くなっていくものの、ギリギリの戦いの中でのその一瞬の硬直は命取りになり得る。


 最後に、戦技のモーションはいつも一緒ということがある。直接相手に攻撃をする戦技も、自分の能力を上昇させるなどの補助的な効果を持つ戦技も使用の際には何らかのモーションが必要であり、それはいつも同じ動きをとるのだ。


 使用後の硬直と同様に、技を磨けば戦技の発動や技自体の速度を上げたりは出来るものの、そのモーションは決して変わらない。つまり、相手がその戦技を知っているのなら、先ほどのハルのように初動を見ただけでこれから相手がどのような動きをするかわかってしまうのだ。


 だから、対人戦で真っ向から戦技を使うなら、余程の実力差が無い限り一般的な戦技は避け、相手がモーションを知らない様な戦技を使わなければならない。とはいえ、そのような戦技は簡単には習得できない。それは常人では習得できないような、かなり上位の戦技であったり、武術の流派のいわゆる秘伝のようなものや誰かのオリジナルのようなものだからだ。


 よって、対人戦では基本的に戦技は使わない方がいい。使うとしても、相手が絶対に躱せない様な状況に追い込んでから止めの一撃として使うといったところだろう。


 あっけなく意識を手放したリーダー格から視線を外し、セーラの方を見る。


 『俺のものだぁっ!!』なんて言っていたが巨体を活かして振るわれる釘バットの威力はかなりのものであり、直撃したら【身体強化】をしていないセーラなら傷を負うだろう。空振りして地面を叩いても釘バットが折れる様子もなければ、鼻ピアスの手が痺れる様子もない。どうやらあの釘バットはマジックアイテムの一種のようだ。鼻ピアスの一撃を躱したセーラが、ガクッとバランスを崩した。


 「おでのものだぁぁ!!!」


 もはや口調すらおかしくなってきた鼻ピアスが、釘バットを振り上げる。あのモーションは【パワーインパクト】だ。直撃したら身体強化をしているセーラでも無傷ではいられない威力があるはずだ。


 (テンションが振り切れてもはや自分が何をやってるかわかってないんだろうな・・・)


 そんなことを思いながらハルは落ち着いて戦況を眺める。一見、セーラのピンチのように見えるが実際は先ほどセーラがバランスを崩したのはこの一撃を誘い出すための意図的なものだと気付いていたからだ。【身体強化】を使い、一瞬で鼻ピアスの背後に回り込んだセーラは愛剣の腹で鼻ピアスの後頭部を殴りつけた。







 「お疲れ、セーラ」


 崩れ落ちた鼻ピアスの前に立つセーラに声を掛ける。


 「お疲れ様です、ハル。どうやら全員捕縛できたみたいですね」


 リーダー格と鼻ピアスが暴走気味に飛び出したせいで均衡が崩れ、残りの2人も既に取り押さえられていた。


 「よし、依頼は達成だな。それじゃあカシスに帰ろうか!」


 Cランク冒険者に応え、冒険者たちは盗賊と4人組を連れて――内2人は意識が無いため足を持って引きずられていたが――盗賊のアジトを後にした。


 待機組と合流し、来た道を引き返す。第4点鐘が鳴った少し後くらいに、冒険者たちはカシスの街に帰還した。


 ギルドに盗賊と4人組を引き渡し、その日は解散となった。








 翌朝、ハルとセーラがギルドに顔を出すと受付嬢から、小会議室に向かうように言われた。しばらく待っていると先日のようにエルマー支部長がやって来た。


 「まずは、作戦成功の礼を言わせとくれ。お蔭さんでここのところ悩まされていた盗賊の排除と情報を流していた者たちを無事捕まえることができた。ありがとう。さて、今日もおまえさんたちを呼んだのは取り調べで興味深いことが判明したのでそれを伝えておこうと思ったんじゃが・・・。その前に、昨日の件で何か聞きたいことはあるかの」


 少し考えたあと、ハルが口を開いた。


 「あの4人組は最初から盗賊たちと通じていて、盗賊に情報を流すためにカシスの街に来たのですか?」


 「いや、違うようじゃ。後でおまえさんらに伝える話にもかかわってくるが、元々はカシスの人の出入りが活発になり、依頼が増えていたから来たようじゃの。じゃが、おまえさんらと揉めたのが引き金になり、罰金が科された上に、降格になった。元々かなり借金があったようで、お金に困っていた時に声を掛けられ、情報を流すようになったそうじゃ」


 「それで、その、彼らの処遇はどうなるのでしょうか?」


 今度はセーラが訊ねた。明らかに向こうが悪かったとはいえ自分たちと揉めたのが原因で犯罪に手を染めてしまったと知り、複雑な表情だ。


 「今、彼らの身元は伯爵家が預かっておるが、盗賊の3人は近いうちに処刑されるじゃろう。4人組の方は処刑まではされんじゃろうが、犯した罪は重い。冒険者資格を剥奪された上で犯罪者として王都近郊にある監獄に送られることになるじゃろうな。・・・そんな顔をするでない。明らかに彼奴あやつらの落ち度じゃ。責任を感じる必要はないの」


 セーラの顔を見てほほ笑みながら付け足す。支部長の言葉を聞きセーラは少し気が楽になったようだ。


 「さて、おまえさんらに伝えたいことじゃが、金に困っている4人組と盗賊を引き合わせた者がおるようじゃ。そしてどうやら其奴そやつは、盗賊たちをカシス周辺に呼び込み、魔水晶を奪わせて買い取っていた張本人らしいの。つまり、この一件には黒幕がおったようじゃ。定期的に盗賊のアジトに顔を出しておった様じゃから一応、そこに網は貼っておくが・・・、あまり期待は出来んじゃろうな。これがおまえさんらに伝えておきたかった情報じゃ」


 そう言って支部長は話を終えた。ハルは首をかしげながら問いかける。


 「あの、確かに興味深い情報でしたが・・・、そんな重要そうな情報を伝えたのはオレたちに黒幕を探せという意味でしょうか?」


 ハルの質問に支部長は笑いながら答える。


 「無論、そうしてくれるなら助かるがの。ただそれは機会があったら、くらいで良いぞ。おまえさんらにこの情報を伝えたのは・・・、年寄りの勘じゃよ。何となくおまえさんらならこの情報を活かしてくれるような気がしたんじゃ。尤も、おまえさんらが、この情報を活かすというのなら、それこそ黒幕を突き止めることに係ってくるのかもしれんが」


 「・・・勘ですか?」


 「うむ。勘じゃ」


 楽しそうに笑う老人を見ながら、ハルは自分が今微妙な表情をしてるんだろうな、などと考えていた。


 






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