厄介な4人とトラウマ
昨日ついに1日のPV数100の壁を越えました!!まあ、2つ投稿して約160PVだったので1話当たりでは約80PVといつもと同じくらいだったんですが(笑)
「ええっと、なになに・・・。ドリット鉱山で取れた魔水晶の王都までの護送、こっちがドネルの街までの護送か。最近この依頼よく見るよね」
「そうですね。先日のドリット鉱山の一件での物資の費用や冒険者への報酬、多数の兵士が殉職してしまったのでその親族への手当金に、新たな兵士の補充などでバクスター伯爵家はかなりの出費をしましたからね。最近、魔石や魔水晶の価格が微増傾向にある上に、多量の魔水晶が見つかったこともありドリット鉱山で取れた魔水晶をどんどん出荷しているようですよ」
ドリット鉱山での緊急依頼が完了して約半月後。数日の休みを経て、ハルとセーラは冒険者の活動を再開した。この日も朝からクエストボードの前に立ち受ける依頼を探していたところこの依頼が目に付いたのだ。なにせこの日に至っては魔水晶の護送の依頼が5つも張られている。
「そういえばハルはこの依頼に関する噂話をもう聞きましたか?」
「噂話?ドリット鉱山で戦ったロックアントクイーンの変異種が別の場所でも見つかって新種として登録されたってやつ?」
「Bランク魔獣、クリスタルロックアントクイーンですね。頑丈さに関してはAランク並だそうですが。ただ私の言う噂はそれではなくて、最近、輸送中の魔水晶を狙ってこの辺りに盗賊が増えてきているって話です」
「ああ、そっちね。確かに聞いたよ。そもそも冒険者に依頼として出されるようになったのが輸送していたカシスの兵士や買い付けに来ていた商人が何度も盗賊に襲われたかららしいよ」
「そうだったんですか?そこまでは知りませんでした。」
「ギルドの方も盗賊団の根城を探してるみたいだね。」
街道を通る馬車や防衛力の低い小さな村を襲い、殺人や強盗、拉致に強姦などを行う盗賊による被害は後を絶たず、国だけでなく冒険者ギルドも常に盗賊の動向には気を掛けている。
と、その時、会話しながら依頼を探していた2人は後ろからやって来た冒険者に突き飛ばすようにして押し退けられた。
「邪魔だ、退け。ここは餓鬼どもの遊び場じゃねえぞ」
ハルとセーラから乱暴にクエストボード前のスペースを奪い取った4人組の冒険者。全員20歳前くらいであり、派手な格好をしている。リーダー格の男は真っ赤な髪を鶏冠のような形にセットし、両耳に動物の牙のような形のピアスを付けている。隣の太った男は鼻に輪のようなピアスを着けにやにや笑いながら得物の釘バットを見せつけるように抜き身で持っている。その後ろにいる男はギラギラした金髪をツンツンに立て、自分たちより弱そうな冒険者に脅すような視線を送っている。唯一の女性はけばけばしい化粧に吐き気を催すほどの安物の香水の匂いをまき散らしながら爪の手入れに余念がない。カシスの南側にあるアイガーの街から2、3日前にここのギルドにやって来たばかりの者たちである。アイガーの街の冒険者ギルドは規律が緩くこういった者たちも結構いるらしい。
今、多くのお金が動いているカシスは人の出入りも激しくなっており、依頼も増え、魔水晶を買い付けに来た商人を護衛してきた冒険者や、近くの街ではなかなか良い依頼を見つけられなかった冒険者などがカシスの街のギルドに集まってきておりカシスの冒険者ギルドはここのところかなり混雑していた。それにより冒険者同士の揉め事も増えつつある。
「おっと、ごめんよ」
それなりの時間クエストボードの前を占有していたのは事実なのでハルは軽く謝罪し、目星をつけていた依頼書をはぎ取ってその場を後にする。ふと視線を感じてそちらを見てみるとこの間の緊急依頼で共闘した知り合いの冒険者たちが黒い笑みを浮かべながら「ガツンと行け!殺っちまえ!!」みたいな視線を送ってきていた。ギルドの職員も、多少のことは目を瞑ると言わんばかりにアイコンタクトを送ってくる。
(いやいや、やらないから。何?オレって戦闘狂とでも思われてるの!?)
ハルは若干ショックを受けながらセーラと共にカウンターに向かおうとする。しかし、そこで邪魔が入った。後ろから肩を掴まれて強引に振り向かされる。そこには先ほどの4人組が立っていた。
「おい、待て餓鬼。なぁに俺たちが受けようとしてた依頼を横から持って行ってんだ。常識ねえなぁ、こら?」
鶏冠頭の言葉に流石にカチンときたらしくセーラが言い返す。
「後ろから割り込んできたのはそちらでしょう?そもそも依頼の受注は早い者勝ちというのは常識です」
「んだと?この糞餓鬼。ここでひん剥いてやろうか、ああン?」
「ショー、俺にヤらせろ。その女結構俺の好みだ」
「あン?そういやぁおまえ餓鬼が好みだったなぁ。いいぞ、ヤっちまえ!!」
太った鼻ピアスが、セーラの全身にねっとりと舐めまわす様な視線を送りながら前に出てくる。
立ち振る舞いや、装備の質から見るにこの四人はいいところDランク下位レベル。4人同時に襲いかかったところでセーラには勝てない。余計な被害者が出る前にセーラを連れてさっさと依頼に行こうと思ったところでハルはセーラの異変に気が付いた。
「セーラ?」
どういう訳かセーラは太った鼻ピアスの顔を見ると固まり、劣情の籠った視線を向けられると青くなって震えだしてしまっていた。どうしたのか聞きたかったが、既に鼻ピアスはセーラに手を伸ばしている。
鼻ピアスの手がセーラに触れる直前にハルは鼻ピアスの腕を掴み止めた。
「あン?なんだチビ?てめぇも痛い目見てぇのか?」
鼻ピアスの言葉に元々カシスにいた数名の冒険者が思わず噴き出したのを尻目に見ながらハルはとてもいい笑顔を浮かべた。
「このまま手を引いてくれないかな?穏便に済ませたかったけどそっちがこれ以上手を出すというのならこちらもそれ相応の対応をするよ?」
そう言いながらハルは4人に対しBランク相当の殺気を向ける。4人は一瞬びくっとし、無意識に一歩後退ったがそれが殺気とは分からなかったらしくそれぞれの得物を抜いた。
「ああ?ナマ言ってんじゃねぇぞ糞餓鬼!!」
「手ェ離せ!ぶっ飛ばしてやる!!」
「誰に向かって言ってんだ、おいこら」
「なにこいつ、超ウザイんですけど。死ねば?」
ハルはセーラを守るように一歩前に出て押し返すようにしながら鼻ピアスの腕を離す。
「あーあ、武器まで抜いちゃった。流石にそれは拙いんじゃない?」
思わず苦笑しながら言う。それを怯えと勘違いしたらしい4人はいやらしく笑った。
「は、今更ビビったところでもう許さねえぞ。その可愛い面がぐちゃぐちゃになるまで殴ってやるよ!!」
「おまえら何をやっている!!!」
その時カシスのギルドに怒りの籠った大声が響き渡った。その声には目の前の4人がビクッとして固まるほどの迫力があった。同時に声のした方から押しつぶすような威圧感が伝わってくる。4人組がぎこちなく振り向いたその先には、怒りの形相を浮かべた鬼教官アレクセイがいた。
アレクセイ教官に事情を告げ、4人組がアレクセイ教官にどこかに連れて行かれるのを見送った後、相変わらずセーラの様子がおかしかったので依頼書をクエストボードに戻してハルとセーラは清風亭に帰ってきた。セーラの部屋の鍵を借りて中に入り、一体どうしたのか聞こうとしたところでセーラがハルに震えながら抱きついてきた。相変わらず顔色が悪く、しばらくは落ち着きそうにない。ハルは小さいころ義母ブレンダにそうしてもらったように優しく抱きしめ返すとセーラが落ち着くまで頭をなで続けた。
「うっ、その・・・いきなり取り乱しちゃってごめんなさい」
結局セーラが落ち着いたのはその日の夕刻になってからだった。ずっとハルに抱きしめられていたからかその顔は少し恥ずかしそうに赤くなっている。
「気にしないでよ。それで何があったのか聞いても大丈夫かな?」
その問いに頷きセーラはポツリポツリと話し始めた。
「その・・・、あの人の顔がとても似てたんです」
「似てた?」
「はい。以前私に婚約を申し出てきた人に」
「ふむ」
(この歳で婚約か。薄々感じていたけどセーラは結構良い家の出なのかもしれないな)
セーラは続ける。
「その人が最初に私に婚約を申し込んできたのは私が12歳の時で・・・。その時は結婚なんて考えられなかったから父に頼んで断ってもらったんです。けれどそれからも何度も申し込みが来て、そのうち、屋敷にまで押しかけてきたんです。とても身分が高い人だったので断りきれず屋敷にあがられてしまい、その時初めてお会いしたのですが・・・」
「・・・それがあんな豚だったと」
「・・・47歳でした」
「おいおい」
ハルは思わず顔を引き攣らせる。
「周りの人からその人の情報を聞いていたのですが当時既に奥様が30人近くいたとか。愛人を含めるとさらに増える上に相手は下が10歳で、最年長の方でも18歳ほどだと。それ以上になると実家に送り返されたり、その人の取り巻きに下賜されたり、時には娼館送りにされるそうで」
「それはトラウマになるね!!?」
とんだ変態おやじがいたものである。というかそんな無茶がまかり通るとかいったい何者なのだろうか。
「それで、婚約はどうなったの?」
「このままでは強引に婚約を取り付けられかねないと判断した父と兄が、私を家から追放するという形で逃がしてくれたんです。それで遠く離れたカシスまで来て冒険者になることにしたんです」
「なるほどね。セーラも大変だったんだね。あいつらがしばらくこの街にいるつもりならギルドとかでまた会う可能性があるけど大丈夫?」
少し考えた後セーラは首を縦に振った。
「はい、あの人と先ほどの人は別人ですし、いつまでもあの人に振り回されるわけにはいきません。それでもまたあの人4人組に会って私が動けなくなってしまった時は先ほどみたいに守ってくれますか?」
セーラはハルの方を見つめながら問いかける。ハルも真っ直ぐセーラを見つめ返して答えた。
「もちろんさ!セーラには指一本触れさせないよ」
「ありがとう、ハル」
ハルの迷いのない答えを聞き、セーラはとても嬉しそうに笑った。




