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ハル・アルダートンと大地の王冠  作者: ゆう
第2章 外の世界
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ドリット鉱山③

 「この先です!!」


 がたいの良い冒険者に肩を借りた兵士が息を荒げながらも周囲に伝える。坑道が崩れて開いた穴の向こうからは争うような音が聞こえてきた。兵たちの状態はわからないが少なくとも生き残りはいるらしい。


 「なんとか間に合ったようだ。これからこの先に踏み込む。強敵と多数の敵がいるようだ。気を引き締めて行くぞ!!」


 「「「「「うおおおお!!!!!」」」」」


アレクセイ教官を先頭にハルたちは坑道の向こうに駆けだした。


 狭い通路を駆け抜け、開けた場所に出る。話に聞いていた通り、足元や壁面から無数の魔水晶がとびだしていた。ハルは幻想的な光景に一瞬気を取られたがすぐに意識を切り替え、視線を魔獣たちの集まりに向ける。100体近い魔獣の群れの中にずば抜けて大きな存在がいる。岩のようにごつごつした体から無数に生えている青く透き通った魔水晶。人間など軽く切り裂いてしまいそうな巨大な大顎。どうやら兵士が言っていた魔獣はそいつのことらしい。冒険者たちがある程度近付いたところで、横穴に立てこもっている兵士たちを襲っていたであろう魔獣たちは背後から現れた新たな獲物に気が付き一斉に襲いかかってきた。


 「行くよ、セーラ!!!」


 「了解です!!」


 空を飛べるアドバンテージを活かし真っ先に飛び込んできたビッグバットの群れを正確な一撃で切り落としていく。ハルが最後のビッグバットを斃したところで遅れてきた魔獣の群れと冒険者の部隊が激突した。討伐部隊の冒険者の数は30人程。対する魔獣たちは100体弱。数でいえば3倍近い差がある。とはいえ、魔獣側の半分近くがEランク以下の魔獣で、残りの半分も巨大アリ以外はDランクの魔獣なので充分戦えている。巨大アリはこちらの様子を窺ってまだ動く様子はない。


 「セーラ、巨大アリが動き出す前に雑魚を削っておこう」


 「分かりました。っせい!!」


 Cランクパーティー、草原の花のメンバーを中心にCランク冒険者や盾持ちといった守りの硬い冒険者が魔獣たちと正面からぶつかり、他の冒険者が彼らのフォローや隙を見て攻撃を繰り出す中、機動力の高いハルとセーラは魔獣の群れの中を駆け抜けながら攻撃を加え群れをかき乱していく。すぐに魔獣たちは統率を失い、その隙を逃さず冒険者側は一気に攻勢に出た。


 混乱の中、魔獣は数を減らしていく。魔獣たちがついに逃げ始めたところでようやく巨大アリが動いた。


 「む!?アリが動いたぞ。警戒しろ!」


 アレクセイ教官がすぐに警戒を促し、魔獣の追撃を行っていた冒険者は足を止め、注意を巨大アリの方に移した。


 「おそらくロックアントクイーンの変異種だな。新種だから情報が少ない。慎重に戦うぞ。カシス領兵側は今の内に負傷者の回収と撤退の準備を!!」


 アレクセイ教官の指示でまだ動けるカシスの兵たちが負傷者の手当てや、撤退の準備を始める。その時、ゆっくりと歩いてきていたクイーンが冒険者たちの方に向かって走りだした。


 鈍重そうな見た目に反し、なかなかの速度で向かってきたクイーンはそのままスピードを緩めることなく冒険者たちの部隊目掛けて突進してきた。盾を持った者たちが前に出て突進を受け止めるべく構える。


 「うわぁぁぁ!!」


 「うっ!?重い!!」


 クイーンの突進の勢いを大きく殺ぐことには成功したものの突進を盾で受けた冒険者たちは数メートルも弾き飛ばされてしまった。


 「今だ!!一斉攻撃!」


 盾組の少し後方で待機していたアタッカーたちが目の前で勢いを失ったクイーンに攻撃を仕掛ける。


 「キュイィィィ!!!」


 「くっ、硬いわね」


 「やっかいだな」


 多少ダメージは入った様だが、ほとんどの攻撃はクイーンの硬い外殻に弾かれてしまった。ハルとセーラとアレクセイ教官はダメージを与えたが後はCランクの数人がなんとか小さな傷をつけたのみである。


 「詠唱完成します!!下がって!」


 「キィィィ!!!?」


 草原の花のドリスの声が聞こえ、前衛組が急いでクイーンから距離を取るのと同時に後衛の魔法使いや弓使いたちが攻撃を繰り出す。矢はほとんど弾かれてしまったが、魔法攻撃はかなりのダメージを与えることができるようでクイーンは悲鳴をあげながらダウンした。


 「これからは先ほどの攻撃で奴に傷をつけられた者と魔法使いで攻撃を行う。盾持ちでまだ動けるものも引き続き前衛だ。それ以外はそれぞれ退路の確保と魔法使いの護衛をしてくれ」


 最初の攻防を終えて、アレクセイ教官が新たな指示を出す。非常に硬い相手であるため、まったくダメージを与えられない者が多く、そちらはバックアップに回すことにしたようだ。最初の激突で飛ばされた盾持ちの冒険者たちも復帰してきて改めて隊列を組む。前衛は盾持ちの5人、クイーンにダメージを与えられるハルとセーラ、アレクセイ教官、小さいながらも傷をつけた草原の花のリーダーロクサーヌ他2名のCランク冒険者で、後衛は草原の花のエイダたち魔法使い3名である。残りの冒険者もそれぞれアレクセイ教官の指示に従って動き出した。


 魔法への耐性が低いのかダメージから回復したクイーンがようやく立ち上がった。


 「キシャアァァ!!」


 忌々しそうに大きな鳴き声をあげると、クイーンはエイダたち魔法使い組の方に突進しようと動き出す。


 「やはり魔法への耐性が低いようだ。魔法攻撃中心で攻めるぞ。前衛は絶対にクイーンを魔法使いの下まで行かせるな」


 「「「「「うおおおおおっ!!!」」」」」


 先ほどクイーンに弾き飛ばされた盾組たちは今度はクイーンが加速する前に自分たちからクイーンにぶつかって行き、盾でクイーンを押し返すようにして突進の阻止を図る。


 「キィィィ!!」


 「おっと、させないよ、っと!!」


 出鼻を挫かれたクイーンが自分を抑えつけている足元の冒険者に狙いを変え鋭い顎で貫こうとするが、ハルが顎目掛けて上向きに打ち上げるような鋭い一撃を放ち、軌道を逸らす。クイーンの攻撃は空振りに終わり勢い余って若干体勢が崩れた。その隙を見逃さず、セーラたちが追撃を加える。


 「そろそろ詠唱が完成します!!」


 後衛のサポートに入っていたドリスが、魔法の完成を伝えてくる。


 「よし、全員下がれ!」


 アレクセイ教官が指示を出し、前衛が少し下がったタイミングで後方から魔法が飛んできた。魔法攻撃を受けたクイーンはまたしても大きな悲鳴を上げる。


 「前衛は前へ!」


 クイーンが怯んでいる間に前衛組がまた前に出る。ダウンしたクイーンに追撃を加え、起き上がる頃には盾組が用意を終えている。


 「よし、行けるぞ!」


 「このまま倒してやる!」


 早々に安定して戦えそうな戦術が見つかり、冒険者たちが勢いづく。盾組がまたクイーンを抑え込もうと前進した。その時、クイーンが頭を上に向けて、何かを溜めるような動作をした。


 「む!いかん、下がれ!!」


 ハルたち攻撃役アタッカーたちは咄嗟に反応し、下がることができたが勢いに乗って前に出ていた盾持ちの5人は反応が遅れた。次の瞬間、クイーンの口から黄色っぽいブレスが勢いよく吐き出された。


 「ぐあぁぁ!!?」


 「熱っ!?痛ってぇ!!」


 全員咄嗟に盾は構えたが、霧状のブレスに周辺ごと全身を包まれてしまい、すぐに黄色い霧の中から飛び出してきたものの悲鳴をあげて倒れ、その場でのたうち回り始めた。彼らの盾や防具は所々が溶け始めており皮膚が赤くただれてしまっていた。


 「今のが酸のブレスか。早く回復薬を使え!残りの俺たちでしばらく支えるぞ」


 ハルたちは酸のブレスの残滓を避けるように回り込んでクイーンに攻撃を仕掛ける。しかし、物理攻撃にはかなり強いようでなかなか効果的なダメージを与えられない。


 (その気になればすぐに仕留められるけど目立ちすぎるのもなぁ・・・。流石にこいつを圧倒する実力を見せたりセシリアたちから貰った装備や道具を使えば過去を探られたり、お偉いさんに目を付けられるかもしれないしな)


 いざとなったら躊躇わないだろうがハルとしても少し手こずっている程度では、期待のルーキーで納得させられる以上の実力を出すつもりはない。そのため、Cランクの上位からBランクくらいの実力で戦っていた。酒呑童子の一件で身体能力が上昇したセーラもそれくらいの実力である。元Aランク冒険者のアレクセイ教官がBからBの上位くらいの実力だろうか。素早さやパワーなど総合的に見てクイーンの戦闘力はBランク相当、ハルとセーラとアレクセイ教官の3人なら十分対処できるレベルだ。しかしクイーンの頑丈さだけはその一つ上のAランククラスらしい。


 攻めあぐねていると再びクイーンが頭を上に向ける予備動作を行った。


 「酸のブレスが来るぞ、下がれ」


 先ほどブレスを吐くところを見ていたこともあり、6人ともすぐに退避しブレスを避ける。再び、霧を避けて回り込もうとしたところで、ハルは霧の向こうで急激に魔力が高まるのを感じた。


 「っ、魔法が来るよ!!」


 大声で周囲に知らせるのと同時にハルは、直感にしたがって横っ飛びに回避行動をとる。次の瞬間、かなりの速度で飛んできた数個の人間の頭大の石の内の一つが直前までハルのいた場所を通り過ぎて行った。振り返って見ると他の5人もなんとか避けたようである。


 「聞いてはいたが魔法まで・・・。これでは迂闊に近付けんな」


 アレクセイ教官が苦々しい表情で呟く。かなりの硬度を誇り、接近戦も難しい。となると・・・。


 「詠唱終わります!!」


 再び、後方からドリスの声が聞こえ、直後、3つの風の魔法がクイーンに直撃した。


 「キキィ!!!?」


 物理的な防御力に対し魔法の耐性はかなり低いらしいクイーンの悲鳴が再び響き渡った。少しして起き上がるも、クイーンの動きが鈍りつつある。この様子なら後2回、いや3回魔法を当てれば倒せるだろう。


 「3回か・・・。ちょっと厳しいかな」


 魔法は威力は高いが詠唱に時間が掛かる。無詠唱で魔法を使える者はアキト国でも上位の魔法使いだし、威力をあまり損ねないように詠唱を省略するのも中堅レベルが必要だった。技術的にアキト国より劣るこちらなら詠唱省略でも上位の魔法使い。無詠唱で使えるのはほんの一握り天才なのだろう。魔法使い3人の内、もっとも優れているエイダがCランクの中級冒険者なのだからそれらの技術は使えないはずだ。そうなると、詠唱の時間を稼がなければならないが魔法3回分となるとそれなりに時間が掛かる。さらに、3人の魔力が減りつつある。エイダは大丈夫そうだが、残りの2人は後3発魔法を使えば魔力が底を突くだろう。つまり、1度でも魔法の発動を失敗したら魔力が足りなくなってしまう。


 「迷ってる余裕はないか!」


 クイーンは魔法使い3人を先に排除すべきと考えたようで明らかに狙っている。盾の5人は回復しつつあるものの、まだ戦えない。ハルはクイーンに向かって駆けだしながら詠唱を始めた。


 突っ込んでくるハルに一瞬視線を向けるも、それほど危険ではないと判断したらしいクイーンは後衛の3人に向かって走り始めた。このままでは3人の詠唱が終わる前にクイーンが突っ込むことになる。軽装の3人はまともに攻撃を受けたらひとたまりもないし、詠唱を中断してしまったら魔力不足でクイーンを斃しきれない。


 ハルはクイーンの側面に回ると、魔法を放った。詠唱の短いEランクの魔法、【ウィンドナイフ】。魔法攻撃に弱いクイーンでもあまりダメージは期待できないレベルの魔法である。しかし、【ウィンドナイフ】は土の属性を持つらしいクイーンの弱点である風属性の魔法であり、さらにハルは発動に必要となる数倍の量の魔力を込めると同時に、優れた制御能力を活かして魔法を高効率で発動し威力を飛躍的に増加させ、零距離から比較的甲殻が柔らかい腹部に風の刃を突き立てた。


 「キシャアァァ!!!」


 クイーンは思わぬ痛みに足を止め、悲鳴をあげながらその場で暴れ回る。ハルは巻き込まれないようにすぐにクイーンから距離を取った。クイーンが落ち着きを取り戻したところで後衛からの4度目の魔法攻撃が直撃する。


 ダメージに悲鳴をあげつつも、今度はクイーンはダウンせず耐えていた。すぐに後衛に向かって走り出す。


 「うおお!!」


 「行かせるか!」


 盾も防具もボロボロだが回復してきた盾持ちの5人がクイーンの正面に回り込み再び抑えにかかった。


 「ブレスだ!下がれ!!」


 すぐにクイーンが盾組に対しブレスを吐きかける。


 「ぐっ、ああああああ!!!!!」


 「うおおおおおお!!」


 ブレスの威力も落ちてきたようで、酸のダメージを受けながらも踏ん張り、クイーンを押し留める。


 「詠唱終わります!!」


 ドリスの声の直後、弾き飛ばされる形になりながらも盾組の5人がクイーンから距離を取った。続けてクイーンに魔法が直撃する。ふらふらになりながらもここで動きを止めたら命が無いとわかっているのかクイーンはそのまま後衛に向かって走っていた。後衛との距離はすでにかなり縮まっている。


 「行かせんぞ」


 「甲殻もかなり剥がれてきてます。これなら!!」


 「キュィイイ!!?」


 硬い甲殻は度重なる魔法攻撃で所々剥がれ落ちており、今までなかなか有効な攻撃を与えられていなかったハルたちが牙を剥いた。甲殻の下のそれほど固くない肉の部分に次々と刃を突き立てていく。ここにきて大きなダメージを受け、クイーンがついに足を止めた。


 「魔法行きます!!」


 後衛から6度目の攻撃が行われた。クイーンが苦手な風の魔法攻撃は弱り切って身動きがとれないクイーンに命中し、その命を確実に刈り取った。



 

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