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ハル・アルダートンと大地の王冠  作者: ゆう
第2章 外の世界
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ドリット鉱山①

 朝からの移動は思いのほか順調に進み昼前にはドリット鉱山に到着した。鉱山の入口付近にある鉱夫たちが使っている宿舎の近くに陣を張り、部隊の拠点とした。鉱夫や、警備兵たちから坑道の中の様子を聞く。ギルドでわかっていた情報の他に、坑道の中に鉱夫が数名取り残されているという情報も入った。坑道の内部には非常時に逃げ込める避難用の部屋がいくつかあるらしい。頑丈な壁に守られており、食料などが備蓄されているので無事ならばそこに逃げ込んでいる可能性が高いそうだ。


 外に繋がる坑道の入口は5つあり、さらに内部でアリの巣のように枝分かれしている。夜までには戻ってこいとアレクセイ教官から指示を受けた冒険者たちは2つの入口に別れて入った。残りの3つはカシス領兵が担当するらしい。ギルドより担当箇所が多いのはカシス領兵の面子を守るためだろう。ハルとセーラも約半数の冒険者と一緒に坑道に入った後、魔獣を探して行動を開始した。もっともわざわざ探すまでもなかったが。


 「来るよ!!前方に複数の飛行型魔獣。おそらく10体程度!!」


 接近する魔獣の気配を感知したハルがセーラに声を掛けながら剣を抜く。薄暗い坑道の先から飛んできたのは丸々とした胴体に巨大な翼を持つ蝙蝠型魔獣ビッグバットの群れだった。鋭い牙を覗かせながらハルとセーラに向かってくる。Eランクの魔獣であるビッグバットは攻撃方法が体当たりか噛み付きくらいなのでそれほど強くはない。飛んでいるので攻撃を当てにくいというのとビッグバットの唾液に血の凝固を妨げる毒があり噛まれたらなかなか血が止まらず厄介という程度だ。ただし、上位種のラージバットは風の魔法を使ってくるので一気に手強くなりランクもCに設定されている。


 「はっ!!」


 「せいっ!!」


 「キィ!!?」


 巨体に似合わずひらひらと飛び回るビッグバットだが、ハルとセーラ相手では次々と切り落とされていった。


 「ビッグバットの討伐確認部位は翼爪だったっけ?」


 「はい、右側の翼爪ですね。あとは、魔石の他に毒が売れるそうです。魔法薬の原料になるんだとか」


 ビッグバットの群れを全滅させたハルとセーラはビッグバットの解体を始めた。しかし半分ほど終えたところでハルが立ち上がる。


 「まだ解体の途中だけど魔獣が来ちゃったみたいだ」


 血の臭いに誘われたのか今度はゴブリンの群れがやって来た。坑道内の魔獣は1体1体は強くないが数はとんでもなく多いようだ。この鉱山で採掘されていたのは魔水晶と呼ばれる空気中を漂う魔力が自然に結晶化したもので、魔獣の体内で生成される魔石のように様々な用途で利用できる便利な資源なのだが、持っていると魔獣が寄ってきやすくなるという欠点がある。おそらく廃坑の崩れた部分が魔水晶に引き寄せられた魔獣が大量に集まっていた場所に繋がってしまったのだろう。


 ゴブリンたちを倒した後も少し歩いただけで魔獣に出くわしながらハルとセーラはどんどんと奥に進んでいった。





 「結構奥まで来ましたね。時間的に今日はそろそろ引き返すことを考えた方がいいかもしれません」


 体感で坑道に入ってから3、4時間くらい経過した時セーラがハルに提案した。


 「そうだね。ただ、オレの記憶が正しいなら昼に見せてもらった坑道内の地図ではこの辺りに避難所があったはずなんだ。だから帰る前にそこだけ確認しておこうよ」


 「情報によると鉱夫が数名坑道内に取り残されているんでしたね。確かに確認をしておいたほうがいいですね」


 ハルとセーラは昼に見た地図の記憶を頼りに避難所を探す。10分ほどしたところで2人はそれらしいところを見つけた。入口と思われる場所には木箱や樽が積まれてバリケードのようになっている。


 「ひょっとしてこれは当たりか?おーい、誰かいるー?」


 ハルがバリケードの向こうに声を掛ける。扉の向こうで複数の気配がした。


 「何だぁ?外に誰かいるんかぁ?」


 「聞き覚えのない声っすね。ひょっとして助けが来たんじゃ?」


 「何!本当か!?」


 バリケードの向こうが騒がしくなった。今度はセーラがバリケードの向こうに呼びかける。


 「私たちはカシスのギルドに所属する冒険者です!取り残された鉱夫の方々ですかー?」


 「おぅ、そうだぁ。救助に来てくれたんかぁ?」


 「そうです!今魔獣はいないので出てきてもらってもいいですかー?」


 「本当に助けが!?わかった今行く!!」


 「バリケードをどかすんでちょっと待ってて欲しいっす!」


 すぐに重いものを動かす大きな音がし始めた。セーラに見張りを任せ、ハルも外から障害物を動かすのを手伝う。数分後、バリケードの向こうから3人の男たちが恐る恐る顔をだした。


 「こんにちはー。冒険者のハルです。怪我などはされてないですか?」


 ハルが声を掛けるとほっとしたように鉱夫たちが出てきた。3人の中で1番年上の男が話しかけてくる。


 「大丈夫だぁ。怪我人はいねぇしここには食いもンもあったから問題ねぇ。おれぁ鉱夫の班長をやってるアンドレってぇもンだぁ。後ろの2人はぁおれンとこの班員のガスとハワードだぁ」


 「ガスっす。来てくれて感謝っす」


 「ハワードだ。今すぐ連れ出してくれるのか?妻と娘が心配していると思うんだ」


 後ろの2人もやや寝不足な感じはするものの問題はなさそうだ。


 「ええ、もうすぐ夕方ですが順調にいけば今日中に出られますよ」


 ハルたちのもとに歩いてきたセーラが落ち着かせるように笑いながら答える。


 一行はすぐに外に向かって歩き始めた。


 「セーラ、オレが3人の護衛をするから露払いは任せてもいい?」


 「はい、任せてください!私としてもハルが護衛をしてくれるなら魔獣の方に集中できます」


 ハルが3人の護衛、セーラが少し先行し魔獣の排除と役割分担をしながら進む。もっともこのレベルの魔獣を相手にセーラが討ち漏らしを出すはずもなくハルと鉱夫の3人はただ歩くだけのようなものだった。


 「お嬢ちゃんまだ若いのに凄いねぇ。もしかして高位の冒険者さんなのかぁ?」


 アンドレさんが感心したように前を歩くセーラに声を掛ける。


 「いえ、私たちはまだ冒険者になり立てなのでランクは低いですよ?――あ、でもそれなりに腕は立つ方だと思いますしハルは私よりずっと強いので心配はしなくて大丈夫です」


 「ははは、そんなに慌てなくっても大丈夫っすよ?実力はこの目で見てるんだから心配はしてないっす」


 不安にさせたかと慌てて言葉を付け足したセーラを見ながらガスが笑う。


 「ああ。まさかこんなにすんなりと今の坑道を歩けるとは思わなかった。たった2人であんな奥までやって来ただけのことはある」


 最初は不安そうにしていたハワードも魔獣たちを圧倒するセーラを見て落ち着いていた。3人にとって大事なのはランクという肩書よりも実際の実力でありセーラの強さは素人目に見てもわかるものだった。





 「遅いな。あの2人に限って何かあるとは思えないが・・・」


 アレクセイが呟く。夜、臨時の拠点ではアレクセイのもとに冒険者たちが集まっていた。何人か負傷者は出ているが今のところ順調に魔獣の駆除ができている。しかし、ハルとセーラはまだ戻ってきていなかった。草原の花や、冒険者講習の同期の者たちは心配そうな表情をしている。と、その時――


 「すみません!遅くなりました」


 少年の声が聞こえた。声のした方に振り向くと、ハルとセーラそして鉱夫の恰好をした男3人がいた。


 「遅かったな。もしかして後ろの3人は?」


 「あ、はい。取り残されていた鉱夫の方たちです。14番の避難所にいたのを発見し、保護しました」


 アレクセイ教官の問いにセーラが答える。セーラの返答を聞いて周囲がざわめいた。


 「14番ってかなり奥深くじゃなかったか?」


 「ああ。噂は聞いていたが実力は本物のようだ」


 冒険者たちが2人についてあれこれと噂し始める。それを無視してアレクセイ教官が2人に声を掛けた。


 「そういう事情だったのなら2人の帰還が遅れたことについては不問としよう。とりあえず鉱夫たちの宿舎まで行くぞ。鉱夫長たちに報告しなければならん」


 アレクセイ教官に連れられ、鉱夫たちの宿舎に向かう。鉱夫長がいる事務所に向かい、3人を保護したことを伝える。鉱夫長も元気そうな3人を見て安心したようだ。鉱夫長から何度も礼を言われた後、ハルたちは事務所を出る。すると、そこには3人が無事に戻ってきたという話を聞いた鉱夫たちが集まっていた。彼らは3人を拍手で迎え入れる。さらに――


 「パパー!!」


 「あなた!!」


 「おお!!デボラ、マーシャ!!」


 どうやらハワードさんの家族が心配してここまでやって来ていたらしい。再開を果たし涙ながらに抱擁をしていた。しばらくした後ハワードさんの奥さんのマーシャさんが涙ながらにハルたちにお礼を言ってきた。


 「夫がお世話になりました。なんといってお礼すればいいのやら」


 「いえ、お礼なら的確な判断で班員を避難所に誘導していたアンドレさんのほうにしてください。オレたちは冒険者ですから。自分の仕事をしただけですよ」


 「そうでしたか。アンドレ班長にも後でお礼に行きます。でも、あなたたちが夫を救ってくれたのも事実ですから。本当にありがとうございました」


 「おにーちゃん、おねーちゃん、ありがとう!」


 「ふふ、どういたしまして。今日はいっぱいパパに甘えてくださいね」


 「うん!!」


 「2人とも本当にありがとう。この恩は決して忘れない」


 ハワードさんの家族や鉱夫たちに見送られながらハルたちは拠点に戻った。







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